アマネ SIDE-R
PCの状態が悪くて投稿が遅れました申し訳ありません。
太陽も沈み、月が夜空に灯り大地を照らしていた。
「ん…」
私は窓から漏れる月明かりと扉が軋むような音で目を覚ます。
目を擦りながら上半身を起こし、音のした方へ目線ソッと向ける。
おそらくは部屋の入口と、あたりをつけた場所に人影があった。
部屋の電気がついていない上に人影は月明かりから外れ、影に隠れて顔は見えない。
私も扉の前にいる人も話し掛けず動かずに何分か経って、ここでやっと寝起きの頭が働き始めた。
その時、初めて逃げていたはずの自分がどこかわからない部屋にいることに慌てる。
知っている場所か、どうか確認するため回りを見渡す。
部屋にある物は自分が寝ているベットとクローゼット、そして部屋の真ん中にある小さめのテーブルぐらいで他には特にない。
あまりにも有りがちな部屋で、特徴がこれと言って無い。
私は自分の記憶を探ったが、あいにく当て嵌まるものはなかった。
仕方がないので私は改めて、部屋に入って来た人を見る。
身長は見た感じでは私より少し小さめで細身。
襲ってくるわけでもないし、私をベットで休ませてくれていた所を考えると敵意はないはず。
そう考えた私はとりあえず話し掛けてみることにした。
「あの、貴方は誰なんですか?」
声をかけられたその人は話さず、少しずつ私の方に近づいて来る。
そして窓からの月の光が顔に当たり、見えた時私は驚いた。
「…天、子?」
目の前に立っている人物を見て私は何故か疑問の声を発した。
確かにその姿は私の親友の天子である。
しかし、いつものポヤポヤした雰囲気はなく、私を見つめる目は寒気がするほど鋭い。
私の頭の中の天子と目の前にいる天子が一致せず混乱していると、今度は天子の方が声をかけてきた。
「…身体、大丈夫?」
「え?」
何故急に身体のことを聞かれたのかがわからない。
私がここにいる事と関係しているのか。
私が今の状況が解っていない事が伝わったのか、天子が不思議そうに聞いてきた。
「身体痛いところはない? それよりも…昨夜の事を覚えてないの?」
「昨夜…」
私はいまだに整理出来ていない頭を回転させて、昨晩のことを思いだしてみる。
昨晩、遠目から少女二人の闘いを見て私は、これから生きていかなければならない世界のことに恐怖していた。
緊迫感に包まれながらも、とにかく此処から離れなくてはと思い立ち上がる。
その時、後ろの方で“ザッ”と何かが着地する音が聞こえた。
嫌な予感がするなか私は振り返ると、10メートルぐらい離れた所に黒い衣装の少女がいる。
間違えるまでもなく、その人はさっき闘っていた少女だった。
少女が回りを見渡しその瞳が私を捉えた時、私の身体は動いていた。
「…っ!」
右手に持っていた矢を弓につがえ、引き、放つ。
先程見た戦いに生命の危機を感じ、焦りながらも今まで部活でやってきたことを無駄のない動きで素早く行う。
人を傷付けたくはない…だけど、私は誰にも捕まる訳には行かない。
私は矢を放つと同時に弾かれたかの様に相手に背を向けて一目散に逃げ出す。
矢が相手に当たったかどうかは、どうでもよかった。
実際、相手の少女は遠目から見た私の目で追えないような動きをするぐらいなのだから、当たる確率は低いだろうと高をくくっていた。
私は胸に広がる強烈な『とある』恐怖感に支配されたかの様に、この場から目の前にいた少女から少しでも早く逃げたかった。
しかし私が走り出して2メートルも進まないうちに、首筋を“トンッ”と叩かれ衝撃が走る。
「あっ…」
私はそのまま何も出来ず気を失いその場に崩れ落ちる。
地面に倒れる前、私の流した一滴の涙が頬を零れ落ちていった気がした。
昨夜のことを思い出した私はもっとも疑問に思ったこと天子にを聞いてみた。
「もしかしてあの黒い衣装の子は天子だったの?」
「そう。攻撃されたからとっさに当て身をしてしまって…ごめんなさい」
質問に頷き肯定した天子は、私を気絶させたことを頭を下げて謝った。
その姿を見て私は慌てて言葉を返す。
「そんな!元々、私が急に攻撃したから…ごめんね」
互いに謝り部屋の中を重い空気が流れる。
私も天子も話さずただ静かに時間だけが過ぎてゆくなか、その間に私はもう一度頭を整理してみる。
闘っていた二人の少女のうち黒い衣装の人物は天子だった。
天子は恐らくは能力者なのだ。
今、私が1番出会ってはいけない者…。
「ねぇ、天子は私の敵なの?それとも味方?」
敵であったとしても馬鹿正直に答えるわけないのに、私は天子に問いかける。
だけど私は聞きたかった、学校の友達でいつも良く笑い合っている友達の一人である天子を信じていたいから。
天子は一度瞼を伏せて、考えているのか一分間ぐらい身動きしなかった。
そして、彼女は溜息交じりに口を開いた。
「正直どちらとも言えないし、あなたが何をもって敵と言っているか私には解らない…けど」
彼女は溜めるように言葉を止めると伏せていた瞼を上げる。
そこには今さっきまでの寒気がするほど鋭い目ではなく、私が知っている天子の柔らかな目だった。
「…友達の私としては莉奈ちゃんの味方でいたい。とりあえず事情を話してくれないかな?」
天子が優しい声で聞いてくる。
私はそんな天子にいつもの日常を感じ思わず泣き出した。
あれから泣き止んだ私は天子に昨日のビルの工事現場でのこと、そして私の能力のことを話した。
能力のことを話すことはためたらったけど、天子を信じて言った。
「莉奈がそんな能力を持ってたの…」
私が話す時には冷たい方の天子になっていて、能力のことを知ると驚愕していた。
私が話終えお互い喋らず静かな時間が流れる。
部屋には時計が置いてないみたいで時間もわからない。
どれぐらい経ったか、私が沈黙に耐え切れず身じろぎした時天子が話しかけてきた。
「…莉奈、私の知り合いの所に身を隠すってのはどう?」
「えっ?」
天子の口から出た言葉をすぐに理解出来なかった。
混乱している私へ天子は続けて話す。
「莉奈の能力のことを話せば保護してもらえると…思う」
「…その人の事について詳しく話してもらえないの?」
聞いてみると天子は頭を横に振った。
「ごめん。今は話せない…私としても正確な話が出来ないから」
「…わかった。じゃあこれだけは答えて」
私は、話せなくてすまなそうにしている天子の目を見て言う。
「…信じていい…よね?天子の事」
天子は私の目をまっすぐ見て答えてくれた。
友達として知っている天子の笑顔で。
「もちろん!莉奈は私の大切な友達だもの」
私はその言葉をだけで天子のことを信用した。
私が頭を縦に振るのを確認すると天子は早速動き始めた。
「それじゃすぐで申し訳ないんだけど、動ける?出来れば人目が少ない深夜のうちに動きたいから、いくら高見原が森深くに沈んでいるからって人目が無いにこした事がないから」
「身体の方は大丈夫だけど、どこに行くの?」
私が当然の疑問を口にすると、天子は何故か苦笑しながら答えた。
「隣町なんだけどね、そこで莉奈を保護してもらうのを交渉する。もちろん実力は私より上で信用出来る人だよ」
天子は苦笑しながら言う。
何故苦笑するのかわからなかったが、やっと先が見えて浮かれている私は特に気にならなかった。
私は天子から差し出された『弓』を受け取ると素直についていく。
私の目指す未来の為に……。