表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/32

仲間 SIDE-T

朝日が上り始めた頃


俺は家を出てからもう一度莉奈を捜した。

だが思い付くかぎりの場所は既に行っていたからただ走り回っただけだ。

結局見つけられなかった俺は今家に向かっている。

あの時は思わず出ていったが父さん達が何故俺に莉奈を捜さないように言ったのかが気になった。


「何がどうなってんだよ…」


昨日の工事現場から増えつづけている疑問は、一つも解決出来ていない。

その疑問について考えているうちに俺は家の前まで来ていた。

玄関のドアを開けようとノブを回すと、鍵がかかっていた。


「父さん達、いないのか」


合い鍵で開けると、体中の倦怠感と共にリビングに行きソファーに倒れ込む。

一晩中走った疲れ一気に噴き出して今にも眠りに落ちそうだ。


瞼が重い。


ユルユルと視界が落ちてきてもう少しで意識が離れそうになった時、ポケットに入れていた携帯が鳴った。


「…莉奈かっ!?」


急いで携帯をポケットから出して見てみると父さんからのメールだった。

少し気を落しながらもメールの内容を確認する。


『東矢、父さんと母さんは莉奈を捜すためしばらく家を空ける。お前はその間、きちんと学校に行きなさい』


「莉奈がいなくなったのに悠長に学校なんて……」


俺は父さんに憤りを感じながらもある単語が引っ掛かった。


「学校…そうだ、誰か莉奈を見てるかもしれない」


思い付き俺は疲れを洗い流すためシャワーを浴び、手早く身支度を終わらせると学校へ向かった。




教室に入って周りを見渡すと後ろ側の方で浩二と香住屋、蒼羽が談笑している。

俺が近づいて行くと浩二が気付いた。


「おっす東哉。珍しく一人でそんなに急いで?…どうしたんだお前、目の下凄い隈だぞ!?」

「…おはよう。あのさ昨日、おまえ莉奈を見てないか?」

「はぁ?」


俺が急に聞いたからか、みんなが不思議そうな表情をしている。

俺は昨日の夕方から莉奈がいなくなってからのことを説明した。

工事現場で起きたことは、適当にぼかしながら話さなかった。

俺の中でも解決出来ていなかったし、何故だか解らないけど話してはいけない。

そんな気がしたからだ。


「…そんな、何処に行ったんだあいつ。」

「莉奈ちゃん…」


話が終わり香住屋と蒼羽がそれぞれつぶやいた。

少しの空白、各々が何かを思い抱える。

それから何か考える様に下を向いていた浩二が話始めた。


「俺、情けねえけど。お前に何を言えばいいかわかんねえ…」


そこまで言うと下に向けていた顔を上げて俺の方を見た。


「だけど東哉、何でも言ってくれよ。俺出来る事なら協力するからよ」

「私にも頼ってよね友達なんだから。ね、天子?」

「うん、莉奈ちゃんも東哉君も大切な友達だから~」

「みんな…ありがとう」


代わる代わる言ってくれた三人の言葉を聞いて俺は本当に嬉しかった。

三人に向かって頭を下げると浩二が照れ臭かったのか、急いで話を戻した。


「んじゃ、俺は男子に聞いて見るから香住屋達は女子の方を頼む」

「わかった。私はうちの部活仲間から聞いておく、天子は、」

「解ってるよ、委員会の方で聞いておくよ。」

「だそうだ、東哉。後で取り立てるからな。」

「金取るのかよ…」



話し合った後、俺達はそれから朝のHRが始まるまで色々な教室行き、また休み時間ごとにも聞き回った。

そして放課後になる頃には全ての教室を聞き終わった。


「俺達の方は誰も見てないって、そっちはどうだった?」

「こっちも駄目だな。見かけたら連絡してもらう様に頼んでたけど…」


結局、知り合いに聞いても誰も莉奈を見ていなかった。

沈んだ気分を払う為に、俺は鞄を持って勢いよく立ち上がる。


「…俺もう一度莉奈が行きそうな所を回ってみるよ」

「私は店のお得意さんとかに聞いて見るよ。何かわかったら電話する」

「あぁ頼む。それじゃ、また」

「おぅ、またな」

「東哉君こそ身体に気をつけてね」


みんなの返事を背中で聞きながら俺は走り出した。

一人が切なそうにそんな俺の姿を見ているとは気付かず…




みんなと別れた後昨日回った場所以外にも行ってみたのだが、莉奈は見つからなかった。

そして今俺は秘密基地がある木の傍にいる。

今日も来るかもしれないと思い来たのだが、昨日の晩から莉奈がまた訪れた形跡はなかった。


「これだけ捜しても見付からないか…」


弱気になってきた気持ちを奮い立たせ、次の場所に向かい歩きだそうとした時足が縺れてそのまま倒れた。

昨日今日と走り回っていた疲れか、足に力が入らない。

仕方なく、近くにある木に背中を預けて少し休み、その間に今までのことについて考えることにした。


何故莉奈がいなくなったか。

何故父さん達は捜すなと言ったのか。

何故莉奈はあの危険な『弓』を持ち出したのか。


そしていくつもある疑問の中で特に気になるものがある。


工事現場で鉄骨が莉奈に全く当たらなかったこと。

俺の頭を掠めた光景のこと。


この二つが莉奈の失踪に関係しているんじゃないかと何となくそう思う。

しかし、あらためて考えてみると何一つとして解決していないことに思わず溜め息が出る。

そろそろ大丈夫だろうと立ち上がった時、ふと引っ掛かった。


「ん?確か『弓』は父さんの書斎にあったもので作った…」


もしかしたら父さんの書斎に今回の疑問に関する物があるかもしれない。

俺は手掛かりが何かあるかもと、一縷の望みを抱きながら急いで家へと帰った。




家に帰り2階にある父さんの書斎に入る。

そこには色々な部品や何について書かれているのかわからない本等があった。


「何だこれ?『超古代科学』『空間波動学』『儀式概論』『脳内生化学』…全っ然解んねぇ…ん?」




俺が何かないか探していると、机の引き出しが開いていることに気付いた。

父さんがどれだけ急いでいたかがわかるかの様に、机の上は惨憺たる状態で散らかっていた。

これではどうやって手掛かりを探すか、考えるだけで頭が混乱しそうだ。


「はぁ…さらに訳が分からなくなってきた」


終わらない迷路に入りそう、考えるのをやめそうになる。

しかし、ここで諦めたら莉奈が帰って来そうにないと思いもう少し頑張ろうと思った。

引き出しの中を見るとそこには何かの資料を見付ける。

鍵付きの引き出しの中に入れているぐらいだから重要な物だとは思う。

だけどそこに書いてある文字は何語かすらわからなかった。


「また振り出しかよ…」


見えたと思った望みがまた消えていく。

結局その後も父さんの書斎で捜したが莉奈に関するようなものは見つからなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ