終りの始まり SIDE-T
今回は下書きの段階の時点で会話文のみで八割と言う酷さで、試行錯誤していた為に遅れました。
次回こそは頑張りますのでよろしくお願いします。
部屋の扉の開く音が聞こえ、意識が沈み込んだ最奥からゆっくりと浮上してくる感覚の後に目を醒ます。
固くなった身体を無理矢理動かして自分を包んでいる毛布を身体から外し、重い瞼を少し開けて回りを見渡してみれば、隣の部屋に続く入口が開いていた。
寝ぼけて頭が上手く働かず呆けたままその場に佇んでいると、俺に向かって男性の声が聞こえてくる。
「起きたか。どうだ、体調の方は大丈夫そうか?」
声のした方へ視線を向ければ、そこには白衣を着た男性が立っていて俺を見ている。
男性は昨日と同じ様にコーヒーメーカーからカップへコーヒーを煎れ、中身の入った2つのカップを両手に持つ。
そして男性は俺の方へ近付いて片方を差し出した。
「昨日は口をつけてなかったみたいだが、コーヒーは飲めないのか? 飲めないなら一応お茶やミネラルウォーターもあるぞ」
「……いえ、大丈夫です」
瞼を擦りながらカップを受け取り、中身の黒い液体を喉へ通す。
火傷しそうに熱く苦かったが、寝ぼけている頭には良く効いて頭の中にかかっていた靄が晴れた。
男性の方も前の様に近くの椅子を持ってきて座り、自分のコーヒーを飲んでいる。
それから中身を少しずつ飲んでいると、コーヒーが胃によく染みるのを感じた。
何故だろうと少し疑問に思った時、俺の腹から低く地鳴りの様な音が盛大に鳴った。
俺は腹を手で押さえ俯き、それからゆっくりと男性の方見てみれば、男性は苦笑を浮かべている。
何とも言いにくく俺も苦笑を返してみれば、男性は座っていた椅子から立ち上がり聞いてきた。
「買い置きのカップ麺かパンしか無いんだが、それでいいか?」
「はい。えっと、それじゃパンはありますか?」
「あぁ、今持って来るから少し待っててくれ」
男性は俺に返事をしてから自分のコップをソファー近くのテーブルに置いて隣の部屋へと向かう。
そして男性が多くのパンの入った大きな袋を持ってきてから十数分、パンをいくつか食べて胃がこなれた俺は一息つく。
再び淹れてもらったコーヒーを啜り、俺は視線を男性へ流す。
特に何をするでもなく俺がパンを食べている間、呆けた様にしていた男性も視線に気付き俺の方を見る。
「早速ですが、俺が寝る前に言ってた事に関して話してもらえますか?」
「あぁ、そういう約束だったしな」
男性の方もテーブルにカップを置いて、俺の視線と向かい合う。
「その前に、今更だが簡単に自己紹介をしておこうか。私の名前は五条。この施設で研究者として働いている」
「……船津、東哉です」
他に何を言ったらいいか思い付かず、俺は名前だけを言って口を閉ざす。
本当は、少し信じたからといっても名前まで教えていいのか考えたが、ここまで来たらもう悩んでも仕方ないと思ったのだった。
「東哉君か。まず聞くが、君は能力者だね?」
「何でそれを!?」
教えてもいないのにいきなり言い当てられた俺は驚くが、五條さんは大したことの無い様に言う。
「そんなに驚く事じゃない。警備の過剰な反応を見ていれば大体想像がつく。それでは君が能力者である前提はクリアしたからこの質問するが、君は能力者が何故能力を発動できるのか知っているか?」
「……いえ、知りません」
使っている本人自信が知らないのはどうかと思うが、今までただ何となくでやってきたのだ。
「そうか。では、まずはそこからだな」
五條さんは俺が知らない事に対して特に反応せず、話を続ける。
「能力を使うためには、まず能力者が己を中心としたフィールドを形成し、そのフィールドの中でのみ自らの思い描いた通りに力を発現出来る」
「そして、能力者達の脳の中にはフィールドを形成したりするための特殊な物質がネットワークを形作る。その物体こそが能力者を能力者である証なんだ」
「……能力者である証?」
「そうだ、君も経験があるはずだ。前兆を、世界が変わり己の思い通りに書き換える感覚を」
五条さんの言っている事は確かにあった。
能力を使う前に頭の中に流れ込んでくるイメージ。
「君もあるようだな。その感覚は、頭にある特殊な物質が世界と共震した結果なんだ」
俺は五條さんの言っている意味がわからず頭を捻ねる。
それを見て五條さんはさらに説明を続けてくれた。
「まず能力者が思い描いた事を起こすためには、どの様に世界を書き換えればいいかを物質が世界を映し、その世界の姿を能力者の脳へ直に伝える」
五條さんは疲れたように息を吐くと話を続ける。
「後は能力者自身の意志がスイッチとなり、現象が起こる。だが、能力者とて万能では無い」
「物質の分子構造は一人一人それぞれ違い、どの様な現象に対してどの様に映し出せるか決まっている。だからこそ能力者は個別の能力を持っているんだ」
五條さんの話を聞いて、俺はただ驚くばかりだった。
五條さんの話を聞いているうちに一つの疑問が生まれた。
「脳に物質って、拒絶反応とか大丈夫なんですか?」
自分の頭の中に異物があると聞いて、テレビで聞き齧った知識が浮かんできた。
俺の疑問に五條さんは頷き答えてから、補足してくれる。
「それは大丈夫だ。詳しいことは分からないが、胎児成長の過程で生成され、脳の一部として機能しているから異物として認識されない。今までにそう言った例もないらしいからな」
五條さんの言葉を聞いて俺は胸を撫でおろすが、そこで気づく。
俺が聞きたかった話はこの前、五條さんが言っていた人体実験についてなのだ。
すると、俺の考えていることが表情に出ていたのだろう、五條さんは話の流れを変える。
「前置きもここまでにして、君の聞きたがっている本論に入ろうか」
五條さんは椅子に座り直し姿勢を正すと、俺を真っ直ぐに見てくる。
いよいよと思う心と雰囲気の変化に俺は、口に溜まっていた唾を飲み込み、姿勢を正していた。
「ここに呼ばれた時は、この施設が臨床試験の場であると教えられ、私の仕事も検査と数値の計測が主だった。だが……」
五条さんは苦々しく表情を歪め、続きを言いにくそうである。
「五条さん……」
「いや、大丈夫だ」
俺が心配になり声をかけると、五条さんは頭を振り話を続ける。
「しかし次々に人が送られてくるが、増える事の無い人口に私は疑問を抱いた。私は危険である事を承知で、施設のデータバンク等に侵入して情報を出来るだけ集めた。実際、何が行われているかの情報までは手に入れる事は出来なかったが、集めた情報を組み合わせる事により、一つの考えに行き着いた」
「この施設が能力者を人工的に造るための人体実験場であることに」