パニックルーム SIDE-T
投稿日を変えて、予定通り投稿できましたー!!
最近学校の方が忙しいのですが負けずにがんばっていきます!!
今後ともよろしく!!
「……っう〜〜」
誰かから後に思いっきり引っ張られ、固い床に後頭部を打ちつけた俺は悶絶した。
予想外の出来事だったから『励起法』に傾けていた集中力が切れてしまい、受け身もとれず頭に痛みが走る。
俺は頭を抱える様に身体を丸め、痛みで眉間にシワを寄せたりし何とか耐えきった。
やがて時間が経ち、多少痛みも引いてきて少し余裕が出来た俺は、固く閉じていた瞼をゆっくりと開ける。
まず俺の目に映りこんできた光景は白い壁に書類やパソコンが乗っている机、そして一人の男性の姿だった。
「っ!? あんたはっ…………」
「少し静かにしていてくれ」
俺が驚きながらも声を上げようとしたが、それを予想していたかのように男性が素早く動き俺の口を塞いだ。
訳のわからない出来事の連続で頭が混乱している俺は、そのまま男性に言われた通り従って黙った。
それから数秒後、俺たちのいる部屋の中でインターホンの様な呼び出し音が響く。
もしや、俺を追っていた警備員が来たのでは…。
これまでの流れからそう思っていると、男性が俺の口を塞いでいた手を離し立ち上がる。
男性は手の動きと目線で俺に静かにしているように促してから扉の方へと向かう。
壁に背を預け耳を澄ましてみると、どうやらさっきの男性と警備員がインターホンごしに何か話しているみたいだ。
「お忙しいところすみません。只今研究所へ侵入した能力者を捜索しているのですが、何か異常はありますか?」
「……いや、私は昨日から部屋に籠っていたから何も解らない」
「そうですか、わかりました。何かあったらお伝えください」
部屋の中に入られ見つかればどうなるか分からない。
そんな緊張感のなか、男性は一切の躊躇も見せずに言い切る。
警備員は特に疑う様子もなく、それだけ会話を済ませると離れて行った。
その事に俺は安心し、緊張して息を忘れて肺に溜まっていた息を吐き出した。
改めて立ち上がり周りを見渡してみると部屋の中はそれなりに広く、本棚や机、ソファー等が置かれている。
俺はこの施設について何かわかるかも知れないと思い、部屋の中を注意深く観察していると気になる物があった。
机の上に数枚の書類が置いてあり、それが何故だか分からないが目に留まったのだ。
内容は全て英語で書かれてあり、所々は読めるのだが知らない単語が多すぎて殆んど理解できない。
「……まぁ、いいか」
どこかで見たような読めない書類を眺めていても仕方がないと思い、俺は書類を机の上へ戻す。
それから俺が部屋の中を一通り見終わった頃、男性が部屋の中へ戻って来た。
俺は部屋の入り口のところに立っている男性の方を向き、睨み付ける様に視線をぶつける。
警備員に囲まれた時や今の行動から、男性が自分を助けてくれている事は分かった。
しかし、何故そうしてくれるのか、俺には理由が全然分からない。
いくら思い出してみても、どこかで俺と男性が会った記憶は無く。
ただの一般人で、さらに侵入者である自分を助けるメリットはなど無いはずだ。
なら、どうして……と、そんな風に頭を悩ませていると、男性が部屋の入り口から動いた。
男性は入り口の近く机の上に設置されている、コーヒーメーカーからコーヒーを淹れる。
黒い液体が入った二つのカップを持ち男性は、部屋の中央ぐらいに置いてあるテーブルの所まで来て、その上にカップの一つを置く。
そして男性は俺の方を向き、男性の動作を眺めていた俺と視線が合う。
「どうした。そんなところに立っていないで、こっちで座ったらどうだ?」
男性はカップを置いたテーブルの側にあるソファーを示した。
自らは近くにあった、脚がローラー式の椅子を持ってきて座り、カップを傾けコーヒーを啜っている。
ただ立っているだけでは意味もないから、俺は男性に勧められた通りソファーへ座った。
しかし、素直に座って言う事を聞くのも癪なので、テーブルに置かれたコーヒーには手を付けず観察するように男性を見る。
見た感じで歳は30歳後半、髪の色は黒で身長は俺と同じぐらいだから170前後。
フレームレスの眼鏡を掛け、着ている白衣は薄汚れていて、いかにも世間一般のイメージ通りの研究者といった雰囲気だった。
「さて……まずは、どうして君みたいな少年がこんな所に侵入してるのか、訳を話してくれないか」
男性に聞かれ、俺は助けてもらった恩もあるので、モヤモヤとしながらも話してみる事にした。
しかし、全てを話すのは問題だから、3週間前の『地獄列車』との遭遇からをなるべく簡潔に伝える。
日向さんの事は話していいのか分からなかったから、偽名を使って適当に話はぐらかしながら続けた。
話の最中、男性からの反応は無くずっと顔を少しうつむかせていた。
俺はその行動を不思議に思いながらも話続け、大体五分程度で話し終える。
自分の口で話した事により、俺が今まで関わってきた出来事を改めて再確認できたが、普通の感性を持っている人ならば到底受け入れられる内容ではない。
怪奇現象として噂されている物に実際遇い、見ず知らずの青年から殺されそうになり、瀕死の状態を助けてくれた人から異能を教わって、ついには街のアンダーグラウンドに侵入……。
しかも、莉奈がいなくなってからこれまでの間、俺の日常は裏返されたように様変わりしてしまった。
本当に何時になったら、いつもの日々に戻るのだろう?
溜め息を飲み込み追憶を振り払う。
前を見ればいつまでたっても男性からの反応が無く男性は表情を苦々しく歪め、苦しそうに胸元を左手で押さえていた。
「どうしたんですか!?」
何か持病でも抱えていて、それが発病したのではないかと思い寄ろうとするが、男性は首を横に降ることで何もない事を表す。
十数秒後、男性は長い息を吐き、胸元から手を離してから顔を上げて俺の方を見る。
「…驚かせてすまないな。君の話を聞いて、嫌なことを思い出したんだ」
「嫌な、ことですか?」
俺の話の中で男性に関係する所等があっただろうかと悩んでいたら、男性が弱々しい声で話始める。
「君には知る権利、いや聞いてもらいたい…。今君がいるこの施設では能力を研究する為、人体実験が行われているんだ」
「…えっ?」
男性の口から出た言葉に俺は驚愕し、座っているソファーから立ち上がろうとする。
しかし、フランベルジェとの戦闘や警備員からの逃走、そして先程思わず励起法を解いてしまった反動で身体に疲れを感じ足に上手く力が入らず体勢を崩す。
咄嗟にテーブルに手をついて、何とか倒れるのは間逃れた。
それを見て、俺が相当疲れていることが分かった男性は、隣の部屋まで行き戻ってくると、その手には毛布が握られていた。
「そんなに疲れているなら、まずは横になりなさい」
「……でも」
「そんな身体ではまともに話は聞けないさ。話なら起きた後でいくらでもするから、今は休むんだ」
男性はそう言うと、俺を横に倒しその上に毛布を掛けてくれた。
まだ抵抗もあったが、疲れていることも事実であり渋々ながら休むことにする。
瞼を閉じると思っていたよりも疲れが溜まっていたからか、俺は沈むように意識を落としていった。
今は男を信じて。