求めよ SIDE-R
今回は難産だったらしく三日遅れの投稿になります。
遅れて申し訳ないです。
では本編をどうぞー。
「結局、戻ってきちゃった」
また倉庫の様な場所に戻ってきた私は、呟き溜め息を漏らす。
勢いでとはいえ今の現状を説明、もしくは変えてもらう為に風文さんの所に行ったまでは良かったのかもしれない。
しかし勢いもそこまでで、風文さんに提示された書類の内容に私は驚愕して呆然としていた所を誘導尋問の如く風文さんに乗せられ元通り。
今思えば風文さんの言葉に嘘は無かったのだろうが、それだけでは無いような気がする。
この2週間、実際に会って話したりフレイヤさんの話や反応を見てきて多少なりとも風文さんの性格を知り何となくだけど予想はつく。
そこから風文さんが利害抜きでただ人助けするとは、限り無く可能性は低いと思う。
と…ここまで考えたが、風文さんの言葉に納得し勢いよく部屋を出ていった手前、それについて問い詰める為再び戻るのもバツが悪い。
「結局、元通りか……」
情けない自分に表情を曇らせてしまうが、ただ自己嫌悪しているだけでは時間の無駄だと思う。
それに風文さんの「これが鍛練になる」と言う言葉には多分…嘘は無いだろう。
だから他に行う行動指針がない私は、仕方なく作業をすることにした。
その時だった。
私が作業に取りかかろうとした時、部屋の扉が開く音が聞こえ私は驚く。
今さっきの事を考えるに風文さんがわざわざ来るとは思えないし、フレイヤさんは多分私が風文さんに言いくるめられて落ち込んでいると考えて気を使って当分来ないだろう。
そして二人以外でこの部屋に来るような人に心当たりなど無いから、しばらくはこの部屋には誰も来ないと思っていたのだ。
驚きながらも私が音のした扉の方を見てみると、そこには知らない男の人がいた。
歳は二十代後半ぐらいで、髪の色は黒、身長は170後半ぐらいだろうか。
これだけだったら別段普通の成人男性だが、何故だか男性の顔は整っていながら記憶に残りにくい顔立ちであった。
多分明日にでも歩いてる時にすれ違うことがあっても、私の方は気づかずに素通りするだろう。
それほどまでに部屋の入り口に立っている男性は不思議な程に印象を感じず、むしろさらに薄れて行く様な感じさえ受ける。
私が今受けた印象などで困惑していると、顔に出ていたのか男性の方から話しかけてきた。
「初めまして、私の名前は七凪紫門。君は、篠崎 莉奈…で合っているかな?」
「えっ…はい。そうですが?」
男性にいきなり名前を呼ばれ、私は慌てて返事をする。
自分から名前を名乗ってきたのと態度を見た限り、悪意を持っている訳ではないようだ。
しかしだからと言って、教えてもいないのに私の名前を知っている人に対して安心するわけにはいかない。
そんな風に考え身構えていると、七凪さんが苦笑いを浮かべる。
「そう構えないでくれ、私は風文に頼まれてここに来たんだ。君を隊の中で動けるように、とね」
「……隊、ですか?」
風文さんの知り合いと言う事は、不審者では無いだろうから私は体から力を抜く。
それよりも七凪さんから出た「隊」と言う言葉に私は嫌な予感が走った。
「……まさか、私をその風文さんの隊に入れる気ですか?」
私は恐々と心を震わせながら過った考えを七凪さんに聞く。
しかし七凪さんは私の雰囲気など別に気にするでもなく答える。
「それはない、君が進んで入るなら別だがね。おそらく風文も、本当は君の力になるように頼んだんだと思う」
七凪さんの言葉を聞き、私はこれでもかと言うぐらいに怪訝な表情をする。
あの風文さんが?
あの人が純粋にただ助けるためだけに、他人にお願いするとは到底思えない。
そんな思っている事が表情に滲み出ていたのだろうか、七凪さんが苦笑いを浮かべながら話す。
「……まぁ、気持ちが分からない訳ではないがな。だがこれでもあいつとは十年代からの付き合いだ。何となくわかるんだ」
昔からの付き合いと言う事は、つい2週間前に会った私よりも風文さんの事を知っているだろう。
しかし、あの風文さんが?
今だに信じられずにいると、七凪さんが私に話し掛けてきた。
「とりあえずだ、私が風文から呼ばれて来た事に対しては信じてくれたか?」
「それは、はい……」
「よし、それじゃ移動するから付いて来てくれ」
そう言うと七凪さんは背を向け部屋の入り口の方へと先に歩き出す。
今だに風文さんの事で納得がいかず考え込んでいた私は、慌て先に行く七凪さんを追いかけた。
七凪さんに連れられ作業をしていた部屋から出て私達は隣の部屋に移動する。
そして部屋の中に入り大体部屋の中央まで来ると、七凪さんは足を止め私と向かいあった。
「さて、それでは掛かってきなさい」
「……え?」
訳がわからず呆けた声を出すと、七凪さんは先の言葉の説明をしてくれた。
「君の現在の力がどれだけなのか理解しないと対策をとりようが無いからな。それに能力者相手なら、これが一番手っ取り早い」
「……わかりました」
気乗りはしないが必要なことだと割りきり私は身構え、昔に習った「励起法」を行う。
七凪さんの方も「励起法」をするのを確認してから私は攻撃を仕掛けた。
「励起法」によって強化された脚力で、二メートル強あった七凪さんとの距離を一瞬で詰め、七凪さんの左側へと回り込む。
そして右足の踏み込みから体を捻る力を伝えながら、七凪さんの横腹を狙って掌底を放つ。
しかし……。
「……っ!」
七凪さんの視線からも外れていて死角からの攻撃だったにも関わらず、七凪さんは私の右手首に左手を添えその場で回転しながら受け流される。
そして受け流された私は七凪さんに腕を引かれ、攻撃した勢いも合間って踏ん張りきれずに前のめりに倒れた。
跳ねる様に私が立ち上がるも七凪さんの反応と動きに驚いていると、七凪さんは部屋の隅へと向かいそこに立て掛けてあった物を私へと投げ寄越す。
「風文から預かってきた物だ。君のだろう? これも使って来い」
私が受け取った物は私が例の秘密基地から持ってきた『弓』だった。
「言ったはずだ、君の実力が見たいと。ならば、君の出来る限りの最高の状態で来い」
素人の私でも七凪さんとの力の差をさっきの一撃だけで思い知った。
この七凪さんに僅かでも勝機を掴むためには道具でも使うしかない。
そう思い『弓』の威力を考え私は少し躊躇いながらも、七凪さんに促された通り構える。
七凪さんを一つの的として考え、真ん中に的中するイメージを頭の中で描く。
そして七凪さんの瞼を閉じる動作に合わせ、一瞬に脱力し放つ。
矢は空気を切り裂きながら真っ直ぐに七凪さんへと向かって行く。
そして矢が当たると思った瞬間、七凪さんが半歩横に動いただけで避けられてしまった。
この距離で避けられた事に驚きながらも、私は次の矢を射ようと背中へと手を伸ばす。
「タイミングとしては中々だが、遠距離用である弓をこの距離で使うにしては真っ直ぐすぎるな。逆に読みやすいから簡単に避けられる」
矢に手が届く前に七凪さんのその言葉が、何故か私の背後から聞こえ来た。
(私の意識が矢の方にいった一瞬のうちに背後に?)
七凪さんとの圧倒的な差に私は戦意を喪失する。
『励起法』や能力も一通り使えて、私はこの世界でもある程度は大丈夫だと思っていたが。
…しかしそれは甘い考えだった。
「私は、どうしたらいいんですか?」
私は思わず弱音をぽつり、と零す。
そんな私に七凪さんは、風文さんとはまた違った優しげな声でかけてくる。
「君はこちらの世界で何かを成すだけの力は持っていない、それは確かだ」
七凪さんの言葉は的を射ていて、その言葉の意味が私に突き刺さる。
「だがな……私は君のしたいこと、目指す未来を手にする力をつけさせる為に来たんだ。まだ諦めるには早いぞ」
「……はいっ!」
挫けそうになっていた心を奮い立たせ、私は立ち上がる。
そしてここから、私の修行の日々は始まるのだ。
「ふっ、これだったら風文の懸念は消えるな」
「…七凪さん、何かやっぱり納得いかないです」
「安心しろ、十年以上友人関係をしてる私も半信半疑だ」
「………………」