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眉唾が必要 SIDE-R

改訂で少々遅れました。

では本編をどうぞ~。

私が作業をしているこの部屋にフレイヤさんがやって来て、風文さんの伝言を伝えていった次の日。

今日も私はこれまでの2週間と同じ作業をしている。

出来るだけ細かくされた硝酸カリウム、炭素と硫黄を言われた通りの割合でケースの中に入れていく。

次にそれらを私の能力を使って、私の思い描いた通りに均等に配分し、混合する。

それから出来上がった、ケース込みで百五十キロ近くあるものを『励起法』によって持ち、指定された場所へと細心の注意をしながら運ぶ。

そしてまた、再び同じ作業に戻る。


私は作業する手だけは止めずにそれとは別のことを考える。

今までは風文さんが私に対して、何かしろの意味を持ってやらせていると思っていた。

しかし、二週間経ってもこの作業について説明があるわけでもなく。

フレイヤさんに伝言を伝えに寄越すだけで、風文さんがこの部屋に来ることすらなかった。

流石に私も理由なしで2週間も働かせられたら、怒りやストレスやらが段々と溜まってきている。


「……はぁ〜」


私はもはや既に習慣とかしている溜め息をつき、そのまま項垂れる。

この二週間で私も自分が何をしているのか気になって、携帯を使ってインターネットで調べたりもしてみた。

そして、つい三日前今私が何を作っているのかがようやく分かった。

今私が風文さんに言われて作っているものは『黒煙火薬』と呼ばれるもので、一般的な煙の出る火薬の一種だ。

でも結局、今作っているものが分かったとして風文さんの意図等が分かる訳無く。

かと言って他に何かが分かる事もなく、現状維持を続けている。

現状を変えたいと言う気持ちと、しかしどうすれば変えられるのかと言う悩みが荒れた波のように心が決まらず揺れている。

そんな風に最近の事を考えていると、部屋の外から足音が聞こえてきた。

足音が段々と近付き次に部屋のドアが開く音が聞こえたので見てみると、ドアの開けたそこにはフレイヤさんが立っていた。

いつもと同じライトブラウンのスーツにタイトスカート、そして肩まである綺麗な金髪をポニーテールにして纏めてある。

脇には書類などを入れるためのケースが抱えられていて、まさに秘書と言う雰囲気を出していた。


「こんにちは、莉奈ちゃん。作業の方は進んでる?」

「まぁ、一応は……」


フレイヤさんの問いに、私は言葉を濁らせながらもきちんと答える。

いくら私がこの作業にうんざりしていたとしても、これはフレイヤさんのせいではない。

だから、彼女に当たっても仕方がない。

雰囲気から私の心境を察したのか、私の言葉を聞いたフレイヤさんは苦笑いを顔に浮かべながら頷く。


「ははは……前にも言いましたけど、隊長も何かしらの考えがあってやらせているはずですよ。そんなに気を落とさずに……」


そこまで言ってフレイヤさんは「あっ……」と何かを思い出した様に声をあげる。

私が何事かと思いながらフレイヤさんの方を見ると、さっきまで脇に抱えていたケースを近くにあったテーブルの上に置き、何かを取り出そうとしていた。

次にフレイヤさんは、一枚の書類を取り出すと言いにくそうに私の方を見てくる。

そして私の方を向くフレイヤさんの表情を見た時、私の中で嫌な予感が渦巻く。


「その、ちょっと言いにくいんですけど……」


フレイヤさんは私の方に近づいてくると、手に持っている書類を私に手渡してきた。

私の頭の中では警告音が鳴り響いているが、だからと言って見ない訳にもいかず心を決めて内容を見る。

そこにはこんな風な事が書かれてあった。


『昨日伝言で伝えた通り、次の仕事を用意した。内容は書いてある通りだから分からない事があったらフレイヤに聞いてくれ』


最後まで読み終わった時、私の中で何かが壊れる音がした。


「……ねぇ、フレイヤさん。風文さんって今どこにいるの?」

「えっ、莉奈ちゃん?」


フレイヤさんが戸惑った様な声で私の名前を呼ぶ聞いてくる。

それもそうだろう、今まで溜まっていた私の怒りやストレスが、風文さんの手紙が止めになって臨界を越えたのだ。

私は飛びっきりの笑みをフレイヤさんに向ける……人を怯えさせるのに十分な程の冷たい笑みを。


「風文さんの所に連れて行ってもらえるかな、フレイヤさん?」

「は、はぃ……」


私の豹変ぶりに驚いて顔を引き攣らせているフレイヤさんに誘導されながら、私は風文さんの所へ向かう。

そしてビルの最上階の一室、この会社の社長室らしき部屋の前でフレイヤさんは止まった。

私は躊躇なく扉を開けて中にいるであろう人物の名を叫ぶ。


「風文さんっ!!」


部屋の中はそれなりに高そうなソファー、机。

その奥の机には風文さんが座っていた。

私は近寄ると威嚇するように机を叩き、正面から風文さんを睨む。


「……風文さん、いい加減現状について説明してもらってもいいですよね?」


私は現状を打破出来るまで退かないつもりだった。

風文さんは真っ直ぐに私の事を見返しながら、私の言葉を聞いて頷く。


「………思ったより少し遅いぐらいか………まあつまり、莉奈ちゃんは今の現状に納得していない、と言うことかな?」


風文さんの言葉を聞き私が頷くと、風文さんは机の引き出しを開け一枚の書類を私に差し出す。


「まあ、現状に不満を持つ前に、これを見てくれるかな?」


私が何も考えずに書類に目を通す。

と、そこには私には想像もつかない内容が書かれてあった。


「………これは本当なんですかっ?」


自然と声が震える。

私は私が考えつく限りで、最善の方法をとってきた筈だ。

なのに…、これはなんだ?

それだけの事が書かれていた書類を手に、私は視線を落とした。


「……そこでだ。君は何をしたい?」

「えっ?」


今起きている現実にショックを受け項垂れていると、風文さんが言葉をかけてきた。

意味が分からず呆けた声で私が聞き返すと、風文さんは再び私に問いかけてくる。


「この書類を見た通り、元々君が逃げてきた理由はこれで意味を無くした。それで君はこれからどうしたいんだ?」

「……すみません。急には浮かばないです」


風文さんが言っている事はもっともだったが、心が乱れている私にはすぐに答えを出す事は出来なかった。


「まぁ、自分のやった結果が裏目に出れば混乱しても仕方がない。けれどな? だからこそ今は力を付けるんだ。そうすればこれから君のやりたい事の力になるかもしれない」


この時私は風文さんに励まされたと思った。

そして私が風文さんの言葉を聞いて頷いた所で、風文さんが押し込み始める。


「よし、それじゃ作業に戻るんだ。実は、あの作業は能力をよりコントロールする為のもので、運ぶのは『励起法』の鍛練になる。一つで一石二鳥だ。さあ、今は耐える時期だ…頑張れ」

「はい、頑張ります!」


そして私は元の作業をしていた倉庫のような部屋に戻って行く。





莉奈が出ていった部屋の中、風文とフレイヤが残っていた。

莉奈が去ってから少しして、表情を少し引き吊らせたフレイヤが風文に話しかける。


「隊長…また言いくるめましたね」

「ん? まぁ、彼女が資材を作ってくれてるから助かってるのは確かだ。化学的な合成は収率が落ちるからな、彼女の能力はそれに比べて収率ほぼ100%、専門の施設もいらない。さらに出来た火薬は然るべき場所に卸して、弾薬を安く買い叩く。素晴らしい!! 何だフレイヤそのまたかって顔は。嘘は言ってないだろ?」


話している時の風文の楽しそうな笑顔を見て、フレイヤは莉奈を思いそっと溜め息をつくのであった。





屋に戻り作業を初めて数時間経った頃、私は我に帰る。


「……あれ?」


結局元通りなるのだった。



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