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彼女の新しい日常 SIDE-R

改訂に時間がかかり遅れてしまいました。

申し訳ありませんbyオピオイド

「はぁ……」


とあるビルの一階、倉庫の様な場所で私は今日何度目かもわからないほどついた溜め息を再び吐く。

しかし手を止めることはなく、私は黙々と作業を進める。

私の目の前にある二つの透明なケースの中にはそれぞれ、硝酸カリウムと硫黄、木炭を細かく砕いた状態で入っている。

私はそれを言われた通りの割合で別の空いているケースの中へと入れていく。

集め終えた私はケースに入れた物の表面に触れて意識を集中させると、目の前にある物質の構造をそれぞれ解析する。

解析が終わると次に、それぞれの物質の原子に指向性を持たせて組み立ててゆく。

すると次の瞬間に私の目の前には今さっきまで別々の三つの物質だったものが、きれいに混ざり合い全く別の一つの物質になっていた。

それから私は休む間もなく、今能力で出来た物質の入ったケースを『励起法』を使って運ぶ。

普通の女子なら持ち上げることも出来ないぐらい重いであろうケースを私は、簡単に細心の注意を払いながら持つ。

指定された場所にケースを置くと、再びもとに戻り同じ作業を続ける。

そんな中、私はもはや習慣のようにまた溜め息をつきながら、何故こんなことになってしまったのか思い返す。



〜〜〜二週間前〜〜〜



あの日「トラスト」で皆からは何も言われず円さんにはドナドナを歌われながら、私は訳の分からないまま風文さんに服の襟を掴まれ引きずらていった。

誰か助けてと言葉を出せないまま、車に乗り揺られて着いた先は森が拓けた場所の高層ビルの目の前だった。

状況を飲み込めない私が困惑しているのを全く気にせず、風文さんはビルの中へと入って行こうとしていたから慌て私もついていく。

ビルに入り私が回りを見渡してみると、中ではスーツを着た大人の人達が多くいた。

内装や雰囲気などを見る限りどこかの会社ではないかと考えたが、それ以上は何も解らない。

先に歩く風文さんについてロビーの奥のほうへ歩いていると、風文さんが足を止める。

急にどうしたのかと思い風文さんの向いている方を見てみると、奥の方からこちらに向かって近づいてくる女性が見えた。

その女性は風文さんの前まで来ると足を止め、軽く頭を下げた。


「お帰りなさいませ隊長。お待ちしておりました」

「あぁ、今戻った。いない間に何か変わったことはあったか?」

「はい。緊急を要することでは無かったので連絡するのを控えましたが、報告しなければならない事が二、三ですね」

「解った、後で聞こう」


風文さんと女性の間で事務的な会話が流れるように行われ、私はそれを風文さんの斜め後ろで呆然と聞いていた。

そんな私の存在に気づいた女性が、私の方を見ながら風文さんに聞く。


「隊長、この子はどうしたんですか?」

「ん?あぁ、この子は「トラスト」からさらっ……連れてきた。灯さんからは許可はもらっている……まぁ、詳しい事は今夜の会議の時にな」

「解りました」


私の預かりの知らないところで勝手に話がサクサクと進む。

女性は風文さんとの会話が終わると、私の方を向き挨拶をしてきた。


「初めまして。私の名はフレイヤと言います。呼び方の方はご自身の好きなように呼んで下さって構いませんよ?」

「あっ……篠崎 莉奈です。よろしくお願いします」

改めてみるとフレイヤ……さんはとてもきれいな人だった。

身体はスレンダーで、髪は肩で切り揃えた長い金髪をポニーテールにして纏めている。

瞳は薄い緑色で、大きな瞳と垂れた感じが本人の柔らかさを醸し出していた。

まるで良くできたフランス人形の様で、こんなに綺麗な人がいるのかと女である私ですら見とれていた。

どれだけの間止まっていたのか分からないが身動きしない私を不思議に思ったのだろう、フレイヤさんが私に聞いてきた。


「……どうしたの、大丈夫?」

「えっ?あっ、はい。大丈夫です」


フレイヤさんの声で我に帰り、私は慌てて返事を返す。

特に気にならなかったのかフレイヤさんは私の返事を聞くと、風文さんの方を向いた。


「では、これからいかが致しますか?」


フレイヤさんの言葉を聞いて、風文さんは考えたようで少し間が空いた。


「そうだな……説明がてら社内を回るか」

「わかりました。それでは参りましょうか」


風文さんの言葉を聞いてフレイヤさんが私達を促す。

風文さんが歩き出したから私もついて行き、エレベーターに乗ると手慣れた動きでボタンを押した。


「これから各部署を回っていただこうと思うのですが、莉奈さん。何か聞いておきたいご質問はありますか?」

「えっと、それじゃとりあえず2ついいですか?」

「えぇ、どうぞ」

「ここは何処なんですか? それと、フレイヤさんと風文さんはどう言う関係なんですか」


私はとりあえず今気になることを聞いてみると、フレイヤさんは間髪も入れずにに答えてくれた。


「そうですね……まず一つ目については、高見原市の商業区にあるサイファグループの支社です、経営戦略や業務内容など詳しい説明は後日行います。二つ目は簡単ですよ単に社長と秘書です。この方はこう見えても、この会社のトップですから」

「……はぁ」


一つ目は説明してくれると言ってくれてるからいいとして、二つ目に関しては驚いた。

会話の節々で感じ取ってはいたが、風文さんがこの会社のトップとは。

………しかし、少々疑問が残る。

二人の立ち位置と言うか、二人の持つ雰囲気が妙なのだ。

ただの会社の上司と部下とは違う何か……しかし、私は何故かそれ以上詮索出来なかった。

私が何も言わなくなった事で、もういいだろうと思ったのだろう、フレイヤさんは既に近くまで来ていた部署の説明に入った。


それから私達は総務、経理、教導と風文さんの用事と共に色々な部署を回り随分と時間をかけて連れ回された。

そして疲れ果てビルのほとんどを歩き回ったのではないかと思った頃、風文さんが口を開ける。


「……これであらかた回ったか。そうそう言い忘れてたけど莉奈ちゃん、君にも明日からここで働いてもらうから」

「へっ?」


急なことに私は思わず呆けた声を出した。

そんな私を尻目に風文さんは話を続ける。


「配属とかは辞令をだすから明日はそれに従って動いて。後分からないとことか説明はフレイヤに最初はさせるから大丈夫。働かざる者食うべからずだ……それじゃフレイヤ、後よろしく」


それだけ言い残して風文さんは何処かに去っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜


そしてそれから私は次の日に言葉通りに辞令をもらい、二週間ずっとこの作業をしている。

最初の頃は何か意味があるのだろうと意気こんでやっていたのだが、日がたつにつれて段々それも萎んでいった。


「……どうですか莉奈さん、順調ですか?」


部屋の扉が開く音と声が聞こえ、私がそっちの方を向くとフレイヤさんがいた。

こんな単純作業をこなすなか、時々様子を見に来てくれるフレイヤさんと話すのが唯一の息抜きだった。


「フレイヤさ……ん?」


私はフレイヤさんの申し訳なさそうな表情を見た時嫌な予感が巡り、そしてその予感はものの見事に当たる。


「あのね、隊長からの伝言なんだけど……『そろそろ今の作業にも慣れてきただろうから、明日からさらに難しいやつを用意しとく』だそうです」


その言葉を聞いた瞬間私はその場に崩れ落ち、フレイヤさんはそんな私に話しかけてきた。


「ちょっと、大丈夫? えっと多分隊長も別に意地悪とかでやってる訳じゃないから、そんなに気を落とさないで」

「…………」


フレイヤさんの言葉に私はあまりの理不尽な事にダメージを受けて、返事を返すことが出来なかった。


「えっと。それじゃ、また来るから……頑張って」


どうするか迷っていた様だが、フレイヤさんはそこまで言うとそそくさと部屋を出ていった。

それからしばらくして私は我に帰り座り直すと、ポツリと呟く。


「……私ってこれからどうなるの?」


それから当分の間私は動くことが出来なかった。


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