修業 SIDE-T
予想通り遅れました。
スミマセン、次回は逆に早くあがりそうです。
では、本編の方をどうぞ〜
俺達が住んでいる高見原は都市開発ににおける当初のスローガンとして『自然融和』を掲げて、開発工事の際に森の開拓を最小限に抑えて都市開発をした為、街には今でも多くの森林が残っている。
その為か街には人目のつかないような所が多くあり、俺は今そんな場所の一つである森の中の少し開けた所にいた。
「ふぅ……」
俺は瞼を閉じ、息を吐いて呼吸を整え集中力を高めてゆく。
細胞一つ一つまでを感じとり、身体の意思を統一させ身体の持つ己の力の方向性を作り上げる。
「良い感じよ、それじゃ今度は自分なりの動作を取り入れてみようか?」
「自分なりの動作?」
「そう。その動作をする事によって、どんな状態でもより安定して集中できる様にするのよ。テニスプレーヤーが打つ前にガットを弄ったり、ボールを跳ねさせるのと同じ様な事よ。そうすれば身体が自然と励起法を使ってくれるように覚えるわ。初心者の技法よ」
日向さんはそこで話を区切り、俺の表情を見て話に着いてこれているか確認してから続ける。
「毎回今のように瞼を閉じてゆっくりしてたら戦闘ではただの隙にしかならないわ。だからその動作によってより早く深く集中できるようにするのよ」
日向さんの言葉は例えなどもあって分かりやすかったが、すぐには思い付けない。
「そんな急に言われても思い浮かびませんよ」
俺の言葉を聞いて日向さんは、顎に手をあてて何か考えるように瞼を閉じる。
唸ったり頭を傾げたりすること数十秒間、何か思い付いたのか考えがまとまったのかやっと瞼を開けた。
「そうね……例えば、君は格闘技で何か習ってなかったかな?空手とか柔道とか」
「えっと、小学生の頃に空手を少し……でもほんの一年間ぐらいですよ」
日向さんが何故そんなことを聞くのか分からなかったが、とりあえず答える。
日向さんに言った通り、俺は小学五年生から小学校を卒業するまで近くの道場で空手を習っていた。
しかし、中学に上がると小学校に比べて忙しくなり(主に勉強面で)辞めることにしたのだ。
あの頃は身体を動かすことが楽しくてがむしゃらに頑張っていたが、今では型を覚えているかすら怪しい。
「ん〜、まぁいいわ。とりあえず構えてそれに『励起法』をかけてみて」
「わかりました」
日向さんに言われた通り思い出すように構えを取った。
利き腕の方である右半身を後ろに少し下げ半身にする。
下げる足は摺り足気味で肘を曲げ拳を胸の高さに合わせ、拳を少し余裕があるぐらいの強さで握る。
久しぶりに構えを取ったが、以外にも思ったより自然にすることが出来た。
さらに瞼を落とし目を細めて視界を狭め、視線を一点にする事で集中力を上げる。
そこで『励起法』をかけるが、今までで一番早くそして身体の流れを感じ取ることが出来た。
「ちゃんと出来てるじゃない。……それじゃ私も」
そこまで言うと、今まででただ見ていただけのはずの日向さんから何か波動のようなものを少し感じた。
そしてその波動は俺の身体に対して反発してくる。
もしかしてこれは……
「『励起法』?」
「あら?よくわかったわね。それを感じ取れたということはちゃんと成長している証よ。……では、かかってらっしゃい」
「えっ?」
日向さんの言葉に俺は訳がわからず気の抜けた声を出す。
日向さんはそんな俺を真っ直ぐと見据えたまま答える。
「だから、今君がどれだけ出来るか計るって言ってるの。わかったらさっさと来なさい」
「あ……はっ、はい!」
俺はこれまで一週間の成果を見せるために集中を深める。
そして数回意識して呼吸をすることで落ち着かせると、左足に意識を集中させ踏み込む。
『励起法』を習う前より明らかに速くなったスピードで、二メートルあった距離を一足で狭め日向さんの目前に迫る。
右足の踏み込みと腰の捻りを使い、さらに胸のところまで引いていた拳を捻りながら打ち込む
間違いなく今俺に出来る渾身の一撃だった。
しかし……
日向さんは俺の正拳突きを前に前進して難なくかわし、俺の背中を軽く押す。
押された感触は本当に軽かったのだが、予想以上の圧力が俺を押し潰すようにのしかかってきた。
全力の突きを避けられて体勢を崩していた事も加わり、俺はそのまま頭から地面衝突する。
「がっ……」
余りの痛みにうめき声をあげその場に倒れこむ。
日向さんはそんな俺を見下ろしながら恐ろしいことを告げる。
「ん〜、まだまだね。私の方はまだ全然本気を出してないわよ」
軽く押されただけである事でも手加減されていると思ったのに、さらにまだまだ力を持っているなんて。
自惚れていた部分もあったからか、俺は少なからず精神的に来ていた。
「こればかりは仕方ないわ。『励起法』は日頃からの鍛練の積み重ねがそのまま力になるの。理由は分からないにしろ、一週間で『励起法』を覚えきれたのなら上出来よ」
そんな俺に気づいて日向さんは優しく諭すように言ってくれるが、俺は倒れ付したまま動かない。
そんな俺を見た日向さんは溜め息を一つ付くと、目を細めて視線を厳しくさせる。
「何をそんなに急いでいるかは知らないけど、これからどうするかとか考えときなさいよ」
「……えっ?」
日向さんの言葉の真意が分からず俺は再び呆けた声を出す。
「理由はどうであれ、君は自分の意思でこちらの世界に踏み込んだの。生半可なことでは抜け出すことなんてできないわ。だから目的を達成した後に、どうするか考えておきなさい」
「……いつもの生活に戻ることは駄目なんですか?」
話の流れで駄目だと思いながらも、俺はわずかな期待を込めて日向さんに聞いてみる。
しかし、以外にも日向さんの返事は否定であった。
「いいえ、別にできるわよ。……でも、もし何も解決していない今のままだと、君の周りの人たちまで巻き込んでしまうわよ。……きっとね」
日向さんの返事は容赦のないものだった。
その言葉に俺の心は戸惑い迷うが、それと同時に疑問が浮かぶ。
「……日向さん、一つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
そこで質問がくるとは思っていなかったのだろう、不思議そうに見返してくる彼女に俺は聞く。
「日向さんは何故、見ず知らずの俺に何でここまで良くしてくれるんですか?」
俺の当然と言えば当然の質問に日向さんは少し表情を曇らせるが、それも一瞬。
苦笑いを浮かべながら日向さんは答える。
「教えてあげない……女には秘密が多いのよ?」