深みの淵へ SIDE-T
お盆の忙しさで遅れてスミマセン。
暫く忙しいのでまた遅れるかもしれませんが、御理解をお願いします。
では、本編をどうぞ!!
日も沈み暗くなってきた時間帯。
俺は今、高見原では珍しくなく何処にでもある様な人気のない森。
その中の少し開けた場所にいた。
身を潜め溶け込む様に佇んでいると、虫の鳴き声や風が木の葉を揺らす音さえ聞こえてくる。
そんな静かな森の中、俺は瞼を閉じて息を整え集中力を高めてゆく。
身体の細胞一つ一つまで感じるように、自分自身の意識を深める。
「……ふぅ」
俺は意識を表面に戻し、一息ついてから身体から力を抜く。
日頃からこんなに集中する事なんてないから、長時間しているとすぐに疲れる。
「うん、前よりもスムーズに意識できるようになったわね。『分解』の能力で分子レベルまで構造を理解していたから、それのおかげもあるのかもしれないわね」
俺の正面の少し離れた所で、成果を見ていた日向さんが感想を言う。
俺が日向さんに助けられてから、既に一週間近くが経っている。
あの後日向さんは俺の要望通り『励起法』や、その他にも関連することを教えてくれた。
〜〜〜一週間前〜〜〜
「まず『励起法』とは能力者のみが使える特殊な身体強化法の事で、細胞ひとつまでを感じとり身体の意思を統一させ身体の持つ己の力の方向性を作り上げる事なの」
そこまで言い切り日向さんは顔を難しくする。
「さっき私が詰まった理由がそれ。本来『励起法』は才能や偶然などで、急に出来るようになったりはしないの」
話を理解しようと精一杯な俺。
それをじっと見ながら日向さんは続ける
「…でも何故か『励起法』のこと自体を知らない君が、怪我の治癒のために自然と無意識のうちに『励起法』を行っているの。意識を失った状態でも無意識で発動させると言う事は、それだけ鍛練と経験を積まなければいけない筈なのによ」
そんなことを言われても俺には『励起法』とやらを鍛練したこともなければ、言った通り今日まで聞いたこともなかった。
そもそも知っていたら、日向さんに頼ったりしない。
思っている事が顔に出ていたのだろう。
日向さんは俺の顔を見ると、それまで難しくしていた顔を急に和らげる。
「ふふっ、ごめんなさい。私も信じられない事が起きてしまって、少し混乱してたわ。別にだからって『励起法』が使えて何かが悪いなんて事は全然無いから安心して。むしろこうして、あなたの命が助かってるんだから」
「そう、ですね……」
理解できても納得できない俺を、日向さんは苦笑いを浮かべながら諭すように言う。
「まぁ、とにかく。また地下鉄に行くにしても今は『励起法』で身体を治す事。そうしないと何もできないしね」
「はい……あれ?俺また地下鉄に行く事言いましたか?」
「言ってないよ。でも私に頷いた時リベンジするぞっみたいな顔してたから。本当男の子って分かりやすいね」
「……はははっ」
その言葉を聞き俺は、何だか恥ずかしい気持ちになり苦笑いを浮かべた。
「でもこのまま行っても前回の二の舞になるだけだろうから、『励起法』ぐらいなら私が教えてもいいわよ」
「えっ、いいんですか?」
日向さんの急な提案に、俺は驚き思わず聞き返す。
そんな俺の問いに、日向さんは笑顔で答えてくれた。
「ここまで来たら乗り掛かった船よ。最後まで面倒見てあげるわ」
「ありがとうございます!」
一筋の光明が見えてきたような気がして俺が嬉しがっていると日向さんが声をあげる。
「あ、でもその前に…一つ注意する点があるわ。それは能力者同士の戦いには『励起法』だけでなく、能力の性質も勝敗を分かつ大きな鍵になるわ。だからまずは能力の顕現の出力要因を教えましょうかね」
「能力の顕現の出力要因ですか?」
俺のまた分からない事が出てきた、聞き返すと日向さんは頷く。
「そう、能力には出力の増減に関する要因が三つあるの。ざっと、まとめると理解・精神・相対と呼ぶわ」
「理解・精神・相対……ですか」
俺が確かめる様に言うと、日向さんが再び頷き話を続ける。
「えぇ。詳しく説明すると、まずひとつ目の理解は自分の能力について理解しているかと言う事よ。これについては自分の能力についてよく考える事。どうすればより効果的にする事が出来るとかね」
彼女は指を一つ指差し、解った?と首を傾げると話を進める。
「二つ目の精神は、その時の能力者の精神状態が増減に対し顕著に現れてる事をさすわ。要は怒ったりして気持ちが高ぶれば威力が上がるけど、逆に少しでも弱気になればなるほどその分威力も下がっていくの。これについては自分の能力に名前を付けて言葉にすることにより能力を安定して発動する事ができるわ。あと、なるべく自分自身が昂揚するような言葉にするといいわよ。必殺技の名前みないなやつとかね」
何だそりゃと俺は訝しげに眉をひそめる。
まるで漫画の話の様だと思うが、自分自身の能力自体が漫画っぽい事に気付き溜め息が出そうだった。
そんな俺の葛藤に気付く事なく、日向さんは話を続ける。
「最後に三つ目の相対は、対峙した能力者の能力の性質や、識者・導士・法師の神域結界との距離の事。能力同士の相性や相手の神域結界を削る分の威力の減少の事を言ってるの。これについての対処法はあるにはあるけど、そう簡単に手に入る物でもないから今回は考えなくていいわ」
ここまで話し切った日向さんは話し過ぎて喉が渇いたみたいで、冷蔵庫から水の入っているペットボトルを取り出すと飲み始めた。
「あの、日向さん?」
「…ふぅ〜。ん、どうしたの?」
俺が声を掛けると、ペットボトルの中の水を飲みきり一息ついた日向さんが振り替える。
それを見て悪いと思いながらも、さっきの話しの中で疑問に思ったことを聞く。
「今さっき言った識者・導士・法師と神域結界ってなんの事ですか?」
日向さんはそれを聞くと目を丸くし、仕舞ったそこからかと呟いた
「あぁ、そういえばそっちをまだ説明してなかったわね。じゃあ纏めて教えようかな?」
俺の言葉を聞いて納得した日向さんは、空になったペットボトルを手で玩びながら話し始める。
「識者・導士・法師はそれぞれ能力者の性質を分類してそう呼んでるの。三つの能力者のうち一番多くを占めるのが識者、主に感知系の能力を持っているわ」
どうやら上手く説明し辛いのか、今度は紙と鉛筆を出し書きはじめる。
日向さんは紙の左端に識者と書き、その下に大体七割と書きしめす。
「次に導士、君はこの部類ね。導士は識者の次に多く、能力は君の『分解』のように一つの事象を自分の意思の通りに組み替える事が出来る力があるの」
こんどは紙の中心から下の方へ導士と書き、今度は大体三割と補足する日向さん。
「そして最後に法師、これは他の二つに比べて数が極端に少なく世界でも一握りぐらいしかいないわから今はあまり説明しない。だけど注意事項があるわ。」
右端に法師と書きレアと補足すると、日向さんは真剣な顔でこちらを向いた。
「まず、注意事項に関するから神域結界について。これは総ての能力者について回る話よ、良く聞いててね? 神域結界とは聞いた言葉通りの意味で結ぶ世界、自分の持つ世界。いわゆる、能力の効果範囲と強度を意味するわ。」
「自分の世界…ですか?」
「そうあまり難しく考えなくても良いわ。解りやすく君の能力で言えば、君の能力が発現する範囲が効果範囲で、どのくらいの強制力があるかが強度………理解してる?」
「……………何、とか?」
「……おかしいな、能力者自体ある意味の天才何だけどなぁ……まあ、いっか。要約すると導士の神域結界は能力を顕現させる為だけの神域結界。それとは違い、法師の神域結界はその場に一つの世界を生み出すと言ってもいいほど強力なものなの」
なんだか凄く専門的な話をされている気がするけど、頭がこんがらがる。
思わず頭を抱えてしまう。
「フフッ、今は聞くだけにしといて良いわよ。話を続けるけど、さらに言うと能力者の神域結界の強さは法師・導士・識者の順で強いわ……他に話す事があったんだけど、何か無理そうだから、とりあえずこれぐらにしときましょう」
「あっ、ありがとうございます。何とか解りました」
とりあえず疑問に思ったことが解消できたのでお礼を言う。
それに日向さんは頷くと、眠気が込み上げてきたのか欠伸を一つする。
「それじゃ、そろそろ休みなさい。聞きたいことがあったらまた聞いて? 出来るだけ答えるから」
「はい、わかりました。それじゃお休みなさい」
俺はそして日向さんに言われた通り休むことにした。
早く身体を治し先へ進むために。