五里霧中 SIDE-R
がんばって書いているのですが、なかなか予定通りに行きませんで申し訳ないです。
次こそは必ず!!
では本編をどうぞ!!
ある日の昼下がり
ランチの時間も終わり、繁華街の端ながらも意外と多い客足も収まりつつあった。
時間が空いて余裕も出来き外のドアに掛かる札をClosedに換えて、私は店内の清掃を始める。
まず軽く床の埃を掃き、次にモップで磨く。
最初の頃は余り慣れない事だったため効率も悪く遅かったのだが、今では無駄も無くなくなり、手早く出来るようになっていた。
手を止めて、今さっき磨いたばかりの床を見渡してその出来に私は小さく頷く。
そこまでしてから、私は盛大な溜め息をついた。
「はぁ〜……」
私が『トラスト』に来てからすでに一週間経っている。
別に何の為に何かを為すために来たとかはなかったが、『トラスト』に来てから私がしている事はただバイトと一緒だった。
喫茶店はどころかバイトすらしたことのない私にとって始めは新鮮な事ばかりで覚える事も沢山あり、結構充実している時間でもあった。
しかし、段々慣れてきて考える余裕も出来てくると、こんな事をしている場合かと何て思ってしまう。
元々私がこうして『トラスト』に来たのは、家族や友人と距離を置いて彼らを巻き込まれないようにするためだった。
確かにそれだけだったら今のままでも大丈夫かもしれない。
だけど、天子と話していて私は少しでも思い出してしまったのだ。
いつも寝過ごす東哉を起こして登校して、浩二君にからかわれて、斎や天子達と雑談して放課後遊んだり。
時々お母さんの晩御飯を作るのを手伝って、家族四人で晩御飯食べて。
そんな日常に戻りたいと想ってしまった。
だけど……。
「……どうしたらいいんだろう?」
余り考えたくないが私は追われている身で状況が状況なだけに、私自身どうしたらいいのか全く見当もつかない。
とりあえず今解る事は、今私を追っている相手は私の力だけではどうにもならない事だけ。
そんな気持ちでモップかけが終わり、今度はコップを拭きながら段々と落ち込んできていると……。
バンッとドアが勢いよく開き、ドアに付いているカウベルが来客をけたたましい音をたて伝えてくる。
閉めているはずの入り口が開いたのに私は嫌な予感に駆られながらもドアの方を向くと、予想通りそこには円さんが立っていた。
最近毎日見るいつも通りの無造作に纏めた黒く長い髪と黒縁メガネ、今日は少し暑いからか薄目の服を着ている。
円さんは気が抜けるような笑顔を浮かべ、閉店中を気にせず店内に入る。
「やほー。莉奈ちゃん、おつかれさま〜」
円さんは私へいつもの様に明るく挨拶をして、定位置の隅のカウンターへ向かう。
そしてそのまま座るとカウンターに突っ伏し、これまた何時も通りの“ぐた〜”とリラックスしたポーズをとっている。
私はとりあえずカウンター内の拭いたばかりのグラスを取って、氷で冷えきった水差しの水を注ぎ円さんの前に置く。
円さんは目線を動かして見たあと、身体を突っ伏したまま顔を私の方を向いて緩い笑顔を見せた。
初めて会った時、とてもテンションが高くそれがいつもだと思っていた。
だが、この一週間『トラスト』に来たら毎回このように脱力した格好をしいる。
本人曰く、興味が湧かないとやる気が起きないらしく、だからいつもはこの様に一日中脱力して力を蓄えているらしい。
トラストに初めて来た時、興味を持たれて捕まってしまい…あれは本当に酷かった。
そこまで考えてから、私はふと円さんと出会った一週間前の夜の出来事を思い出す……。
ズキッ
それだけで頭が重く、思考が思い出すことを拒否する。
あの時円さんは言った通り、根掘り葉掘り私の事についてひたすら、質問と言う名の尋問…いや、拷問が行われた。
最初は私が『トラスト』に来た理由やそれに関連する事だったが、中盤辺りになると何故かスリーサイズや気になる人はいるか等々。
それをひたすら数時間、明け方まで続けられた。
正直中盤辺りから眠さが混じり意識が朦朧としていて、最後辺りは完全に飛んでいたからどう答えたのか全然記憶が無い。
気付いた時には店の奥に置いてあるソファーの上で寝かされていた。
私を誰が運んでくれたのかも、覚えてないない……。
今でも思い出せば頭痛が起きるほど、私の中では円さんとの知りたがりはトラウマになっている。
天子が私を『トラスト』に連れて来た時、円さんに対して怯えている様に見えたのは、天子も前に私のと同じ事を受けたからだと今なら解る。
円さんに捕まり灯さんと天子に見捨てられた時は、薄情者とか心の中で思ったがここまで酷いと仕方ないとすら思える。
同じ状況なら私も巻き添えになりたくないからだ。
こんな事を考えてしまっているのだけど、円さんの笑顔を見ていると怒ったり、文句を言う気にもなれず、私は溜め息をつく。
そんな私の行動を不思議に思った円さんはカウンターから身体を起こし、頭を傾げてながら聞いてくる。
「溜め息なんかついちゃってどうしたの?悩みなら聞くよ〜」
「いや……何でもないですよ円さん」
まさか本人を目の前にして“あなたが原因です!!”何て言える訳無く、私は苦笑いを浮かべながら言葉を濁した。
私の反応を見て、円さんは納得いかない表情を見せるが、そこまで興味が湧かなかったのかすぐに引いた。
「……まぁいいや、言いたくなったらいつでも言ってね」
円さんはそれだけ言い、またカウンターへと突っ伏する。
ちょうどその時、店の奥へと繋がる扉の開く音が聞こえ、そちらの方を向くと灯さんが立っていた。
白を基調とした作業服を着ていて、服には調理をしていた為に汚れが所々染みついている。
灯さんの位置からはカウンターに突っ伏している円さんは見えてないらしくて、私だけに声をかけてくる。
「莉奈、お疲れ様。休憩して来なさい」
「ありがとうございます。あの、円さんが……」
「円がどうしたんだ?」
私は目線を円さんに向け、それに気付いた灯さんが円さんの見える位置まで移動し、やっと円さんの存在に気付く。
「何だ、来てたのか円」
素っ気なさそうに言いながらも、灯さんはグラスにメロンソーダを注ぎ、ストローをさして円さんの前に置く。
円さんは嬉しそうに微笑むと、メロンソーダを満足そうに円さんは飲んでいる。
なんだかんだ言ってこの二人の仲がいいのはこの一週間でわかった。
二人のやり取りは、まるで面倒見のいい姉と手間のかかる妹の様だ。
そんな二人の様子をほほえましく見ながら奥の方に行こうとしたら、灯さんが私に話し掛けきた。
「そうだ、莉奈ちゃん。今日の夜、合わせたい人がいるから時間を空けといてくれ」
急にそんな事を言われて困惑しながらも、何とか私は聞き返す。
「……合わせたい人ですか?」
「あぁ、楽しみにしといてくれ。と言うわけで円逃げるなよ?」
灯さんは私にニヤリと笑いかけ、すぐに仕事に戻る。
私は状況が飲み込めないながらも、灯さんのサプライズに戦々恐々の気持ちだった。
「…………うぇぇぇぇ、ヤツが、風文がっ来るぅぅぅ!?」
訂正、円さんをここまで半狂乱にする人に少し会いたくなった。