収束 SIDE-T
校正に手間取り遅れました。
申し訳ありません。
俺は何かにつき動かされる様に力を使い、オブジェを跡形も残らず消した。
何か膨大な量の情報を処理した様に、頭が痺れた様に上手く働かない。
だが、しばらくすると森で襲われていた時に似た感じ−−背中の肌が粟立つ様な感覚が走り−−俺はその本能に従いその場から逃げようと踵を返す。
しかし一歩目を踏み出すその時、オブジェが建っていた場所の側に行方不明だったはずの女子生徒がいたのを思い出し、俺は駆け寄った。
身体を揺さ振るが反応がなく意識がないことを確認した俺は、女子生徒を担ぎ全力で逃げろと言う本能に従って海の方へ走り出す。
背中の肌が粟立つ様な感覚は震え上がる程大きく膨れ上がり、嫌な予感は形になり俺の心を駆り立てる。
走り始め足が海に向かった瞬間、背後の空間が閃光を放つ。
命の危険を感じた俺は、女子生徒を担いだまま海へ飛び込んだ。
次の瞬間。
天が震え立つ程の巨大な爆発が起き、体中が挽きちぎれる様な音と衝撃が海の中にいる俺達にも襲い掛かる。
海中に逃げ込んだ為衝撃はほとんどなかったが、その衝撃によって作られた波に押し流されそうになる。
「ぐぅっ!……」
まるで、四方八方から水が襲い掛かってくるかの様な激流に、苦悶の声を漏らす。
逆らおうともがくが、人一人抱えている俺の力はあまりにも非力だった。
俺はどうすることも出来ずに、流れに身を任せただ堪えるしかない。
……それからどれだけ経っただろうか?
長くもなかったが、短くとも感じない。
衝撃で五感が痺れ時間の感覚も狂い、波に揉まれ流され今の状況が解らない。
波は既に静まったが、俺の身体は疲労困憊で何もする気が起きず女生徒を引き寄せたままで力無く浮かぶ。
しかし、身体は生きることを望み、それを誇示するように息を大きく吐きだした。
「……ぶはぁっ!」
肺に溜まった息を吐き、空になった肺の中に酸素を取り込む。
身体が落ち着くまでひたすらその作業を続ける。
十数秒後、段々と落ち着き息はまだ荒いが考えるだけの余裕が出来た。
光のある岸の方を見てみると海岸からは余り離れておらず、目測で五、六十メートルほど。
水泳は普通に出来るから、この距離なら全く問題なく泳げる。
問題は一緒に抱えている女生徒だ。
あれだけの爆発が起こったにも関わらず、女子生徒は今だに目を覚まさない。
俺は呆れともつかない感情を抱きながらも、目を覚まさない女子生徒を引いて岸を目指した。
時間が掛かりはしたが、何とか五、六十メートルを泳ぎ切り、女子生徒を持ち上げ砂浜へと上げる。
俺はそこで安心したからか、急に身体から力が抜けてその場に座り込む。
座る力もなく大の字に倒れ込む。
正直限界、仕方がないので動けるようになるまで休む。
爆発が起きた公園の方を首だけ回し見てみるとそこには予想通り、爆発によってあったはずのベンチや噴水、俺が壊した『残響の迷宮』はともかく、他に置いてあったオブジェなどが木っ端みじんになっているであろうと容易に想像出来る程の煙と炎が煌々と輝いていた。
何故あんな事になったかは解らない。
しかし、もしあの場に残っていたら……その事を想像しただけで身体に寒気が走る。
その時、一つ思い当たる節がある。
あの粟立つ様な感覚は何時だって身の危険を感じた時に起こっていた。
森で襲われた時は特にだ。
であれば、あの時粟立ったのは俺がオブジェを壊した後から…と言う事は、この爆発を起こしたのは多分、俺がオブジェを跡形もなく消したからだろう。
原理もやり方も自分自身に何が起きているのかも何も解らず、ただ俺は疑問と不安だけが溜まっていく。
そのまま時間だけがただ経ち、身体がやっと動かせれる様になったその時。
「……う、ん」
気を失っていた女子生徒の方からうめき声が聞こえた。
それに気付いた俺は、女子生徒にすぐに近づいて話し掛ける。
「おぃ、大丈夫か!」
俺が女子生徒の肩を掴んで身体を揺すると、うっすらと瞼を開けた。
女子生徒は目線だけを動かして回りを見てから、寝ぼけた様な呂律の回らない舌で聞いくる。
「……ここはどこ?」
女子生徒の問いに、何故そんな事を聞くのかと思い俺は困惑しながらも答える。
「えっと、ここは施設近くの海岸公園だけど」
「えっ?」
女子生徒は俺の言葉を聞いて驚き、目を見開いている。
どうしたのかと思っていると驚いた事で頭が動き出した様で、少しよろめきながら自分で起き上がり回りを見渡す。
実際に自分で確認してどこにいるのかを理解したみたいだが、その表情は納得出来ていない様だった。
「どうしたんだ?」
不思議に思い俺は聞くが、女子生徒すぐには反応しなかった。
女子生徒は瞼を閉じて何かを考えている様で、少し時間が経って瞼を開けて俺の質問に答えてくれた。
「今、何故私がここにいるのか思い出そうとしていたんだけど、全然思い出せないの……」
女子生徒の言葉を聞いて、今度は俺の方が驚いてしまう。
女子生徒の言葉を信じるならどうやってここまで来たのだろうか。
俺はてっきり女子生徒が倒れていた理由があの『残響の迷宮』のせいだと思っていた。
あの近くまで寄った時に聞こえた何十何百何千もの耳に留まり囁いてくる怨嗟の声。
俺もあれのせいで意識を飛ばしかけたのだから、他の人もありえるのではないかと思っていた。
しかし、女子生徒がここまで来ていないとするならば何故……。
そこまで考えていると一つの可能性が浮かんだ。
「……もしかして、あいつか?」
俺の呟きが聞こえたのか、女子生徒が俺の方を向いて聞いてくる。
「どうしたの?」
何かの手掛かりになるかもしれないと思い教えようと思った。
しかし、殺されかけた事もあって、そのことを話して怯えさせる訳にもいかず慌て俺はごまかす。
「いや何でもないよ。それより、もしかしたらまた何か起こるかもしれないから早く施設に戻ろうか」
俺が提案すると、女子生徒はまだ納得いかない様子だったが、ここにいても仕方がないと思ったのか頷いた。
ただ、ため息ばかりがでる。
「当初の問題は、先生にどうやって説明すればいいんだよ…ったく」