ヴァルグレイ王国
目が覚める。
天井が見える。
木とレンガで出来た見慣れない天井。
・・・けど、何故か落ち着く。
・・・・それはきっと自分を助けてくれたクラウスの家だからだ。
助けられと言っても、俺が魔物に襲われて死にかけている時でもなければ、餓死寸前に飯を貰った訳でもなく、慰めの言葉を貰った訳でもない。
けど、何処の誰とも知らないガキを街に入れてくれて、身分証を作ってくれて、そんで安心出来る家と飯を食わせてくれた。
それで、十分な程の借りが出来た。
いつか必ずこの借りを返せるように頑張ろう・・・・
・・・・少し、腹減ったな。
扉の向こう側、リビングから良い匂いがする。
「おはようアレス。丁度朝飯が出来たぞ。いいタイミングだな!」
「おはようクラウス。そうだろ?めっちゃ良いタイミングだろ?」
「あぁ。最高だ!」
直ぐに金を稼げるようになって、少しでもクラウスの負担にならないようにしないとな。
・・・朝ご飯はベーコンとスクランブルエッグとパンか。向こうでの生活と変わらない...どころか向こうより良い朝ご飯だ。
向こうでは面倒くさいから菓子パン一個で済ませてたしな。
いちいち卵とかベーコンとか使って無かったしな。なんならクラウスはパンも焼いてくれてる。
狐色になっていて、丁度良さそうな色だ。
「嫌いなものでもあるか?」
俺がずっと眺めながら考えていたら、そんな事を聞かれた。
「いや、ちょっとな。1人で暮らしていた時は、パンだけで食べていたから。何か、その...うん、作ってくれてありがとうクラウス。」
「ふっ!おう!たらふく食えよ!」
ーーーーーー
「よし、じゃあアレス。これからどうするかを決めるか。」
朝ご飯を食べて片付けを手伝って、一緒に休憩をしていると、ふと、声をかけてくる。
「そうだな。とりあえず今やらなきゃならないのは言葉を覚える事と、金を稼ぐ事か?」
「いや、金はまだいいさ。っていうか話が通じないんだから、クエストを受けるのも難しいだろ。ずっと俺が一緒に居るわけでもないしな。・・・・・なぁアレス、あまり金の事は気にしなくていい。お前を助けてこんな事をしてるのはただの俺の気まぐれだ。だから、な。そんな気にすんな。」
「うん。・・・・ありがとう。」
「・・・・・あー、ならもしお前が将来金持ちなったらその時うまい飯を沢山奢ってくれ。」
「そんなんでいいのかよ。」
「それがいいんだ。」
クラウスが微笑みながら、そんな事を言う。
「ありがとう。クラウス。」
そう言って俺も笑い返した。
ーーーーーーー
1ヶ月が経った。
もう殆どこっちの言葉も分かるようになった。
クラウスは【自動翻訳】があるせいで、何を話しても日本語に聞こえる。
だから町で人間語を学べる本と昔話や英雄譚?みたいな本を何冊か買い、それをクラウスに翻訳してもらい、勉強した。
文法が日本語に似ているからか、すごく覚えやすかった。
・・・・・英語はいつまで経っても分からなかったのに。
まぁ今は人間語が使えないと、クラウスが居てくれなきゃまともに生きていけないからな。
金も無いし。
そりゃ必死に覚えようとするよ。
とはいえ、1ヶ月間言葉を覚える事以外しなかった訳では無い。
クラウスにクエストに連れて行って貰ったり、この世界の事についても少しだけだが勉強した。
今は人亜歴と呼ばれる暦らしい。
現在は人亜歴 970年だ。
ちなみにこの1ヶ月の間で年を跨いだそうだ。
・・・・全然わからなかったな。
街も普段と違うような日なんて無かったし、この世界は向こうと違って新年は祝わないのかもな・・・。
まぁそんなことは良いとして、今俺が住んでるこの場所。
クラウスの家があるここは、ヴァルグレイ王国という場所にあるらしい。
人間の国はいくつかあるが、その中でもこの国は1番の大国だという。
ほんでこの街はグリスヴァルド要塞都市というみたいだ。
ヴァルグレイ王国の第2都市らしい。
地球でいうアメリカみいたいな感じか?そんな場所の第2都市に住んでるって・・・・クラウスはすげーな。
隣国にはブラッドヴァルグ帝国という国がある。
俺が起きた時に見えたあの山の裏に都市があるみたいだ。
都市の名前は・・・・なんだっけか・・・まぁいっか。
そんでそのブラッドヴァルグ帝国がこの国によくちょっかいをかけているようだ。
俺がヴァルグレイ王国に来るまでに通ったあの森がちょうどヴァルグレイ王国とブラッドヴァルグ帝国の境みたいだ。
ブラッドヴァルグの軍が森を抜けてよく攻めてくるらしい。1番最近に戦争を仕掛けてきたのは2年ほど前らしい。
今までは1ヶ月間に1回という馬鹿げた頻度で来ていたらしいが、その度にこの街に滞在しているヴァルグレイ王国の兵達が追い返してるらしい。
ちなみにヴァルグレイ王国は最初の1戦以外ブラッドヴァルド帝国に負けたことがないらしい。
・・・・ブラッドヴァルグ帝国もよく1番大きい国に手を出そうと思ったな。
ほぼ全ての戦闘で負けてるのに。
でも、何故ブラッドヴァルグ帝国はこの国に戦争を仕掛けるのだろうか。
そして、何故ヴァルグレイ王国はちょっかいばかりかけてくるブラッドヴァルグ帝国を攻め落とさないのか。
毎回この都市の兵だけで追い返せる位の差があるなら、早いとこ潰した方がいいんじゃないか。
と疑問に思ってクラウスに聞いたら
ーーーーーーー
「ブラッドヴァルドのやつらはイカれた戦闘狂が多い国だからだな。あの国の考え方が、強ければ強い程偉い!だからな。少しでも武勲を立てようとして躍起になっているんだろうな。」
「なるほど....でも、なんでわざわざヴァルグレイ王国を攻めてるんだ?わざわざ大国を相手にする意味はないだろ?」
「あいつらの都市から1番近いからだ。・・・・元々ブラッドヴァルドの辺りは小さな国がいくつもあったんだ。戦争が起きては国が滅び、また新たな国が誕生する。そんな事をずっと繰り返していた。ただ、それにも終わりが来た。当時新興だったブラッドヴァルドに全て滅ぼされそのまま吸収された。」
「え!?まじかよ...じゃあブラッドヴァルド帝国も別に弱い訳じゃないのか?」
「そうだ。」
「なんでそんな国相手にヴァルグレイ王国はこの街だけで守りきれてるんだよ!!」
「そらぁお前クリスヴァルドには黒鋼騎士団がいるからな。」
「黒鋼騎士団?」
なんだそのかっこいい名前は!?絶対に強いだろ!名前が既に強い!!
「オブシディアン・ナイツってのはヴァルグレイ王国直属騎士団だよ。彼らがここに居るから、この都市は落ちない。もし彼らが無しで、この街の兵だけでブラッドヴァルドと戦争していたら勝てないだろうね。」
「王国直属の騎士団か!?しかもそんなに強いのかよ。・・・けど、そんなずっと第2都市に居て良いのか?第1都市・・・・王都は守らなくても良いのか?王国直属なんだろ?」
「あぁ、それはな。黒鋼騎士団以外にも騎士団が2つあるからだよ。白銀剣騎士団ってのと紅焔騎士団って言う騎士団だ。」
「1国を相手取れる程の集団が他にも2つあるって事か!?」
いやこの国だけ軍事力のインフレがやばすぎるだろ!!!
「まぁ簡単に言えばそういう事だ。とはいえ、別に騎士団だけで迎え撃っている訳では無いが、この街がブラッドヴァルドという国を相手にしても陥落しないで済んでいることには、まず間違いなく騎士団の存在が関係しているだろうな。・・・ほんで王都には騎士団のうちの1つが必ず駐屯しているはずだ。」
「すっごいな.....」
やばすぎて、言葉も出ない。
でも何故そんな強い騎士団を3つも有るのにブラッドヴァルドを落とさないのか。
騎士団をもう1つでも持ってくれば、簡単に落とせるのではないさろうか。
「ヴァルグレイ王国は・・・・ブラッドヴァルドを落とす気は無いのか?落とすのは流石に厳しいのか?」
「いや、落とすだけなら簡単だろうな。騎士団が2つ以上あれば確実に落とせる。しかも、ヴァルグレイ王国側はほぼ被害なしでいけるだろう。でもな、さっきも言った通り1つは絶対に王都に駐屯しているはずだ。この街程では無いにしても、王都も隣国近くにあるからな。それに反乱への抑止力にもなる。ただ、もう1つの騎士団は...どうなんだろうな。今何処にいるかは俺も知らん。」
ほぼ被害なしか・・・・戦争で被害なしって・・・そら大国にもなるな。
「落とすだけなら簡単なんだ....王都にはどっちの騎士団が駐屯してるの?」
「うーん。多分白銀剣騎士団の方じゃないか。大体王都にいるのはこの騎士団だし。」
「なるほどな。ありがとうクラウス!助かったよ!」
「あぁ。また聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ。分かる事は教えてやるよ。」
ーーーーーーー
との事でした。
いやぁーヴァルグレイ王国さんまじぱねぇっすね。1国とためはれる騎士団が3つもあるなんて。しかもその1国は弱くない....というか強いくらい。うーん。・・・・絶対に問題起こさないようにしよう!!!!!
ってな感じでこの1ヶ月間で、分かったのはこのくらいだな。
結構少ない気もするが、そこは・・・・まぁこれからだな。
さて、今日はクラウスとクエストに行く予定だったし、そろそろ準備して向かうか。
何度かクエストは行ったと言ったけど、まだ本当にまだ数回しか行った事がない。
今までは俺が通ってきた森で薬草採取をした。
多分今日も薬草採取だとは思う。
正直薬草採取はもう飽きたが....
とはいえ!
明日からはクラウスが剣術を教えてくれるとの事だ!
これは本当に楽しみだ!
日本じゃ剣どころか包丁すらぶん回す事も出来ないしな。
・・・・まぁぶん回す気もなかったが。
でも剣は違う!
男の子皆が誰もが想像したであろう!
剣であらゆる敵をばったばった薙ぎ倒して無双する自分を!!
それを明日から教わるのだ!
俄然やる気が出てきた!
明日を気持ちよく過ごせるように今日も1日頑張ろう!