革命の行方②
「なっっ! くっそがあああ!」
ヴァルデスはフィルドの顔を確認して叫ぶが、既にどうしようも無かった。
急いで飛び降り、後ろを振り返ったヴァルデスは完全に体勢を崩しており、空中でジタバタするのが精一杯だった。
タンッ。
と完璧な跳躍を見せたフィルドが、ヴァルデスの体の上に飛び乗る。
「終わりだ」
ヒュン! とフィルドが剣を振るうと、ヴァルデスの首から上が体から離れる。
それをキャッチし、ヴァルデスの体を踏み台にし、そのまま屋敷の屋上へと移る。
ドシャア! と首のないヴァルデスの死体が砂埃を立てて地面へと落ちた。
「お前達主は死んだ!!! 抵抗を辞め、武器を地面へ置け! さすれば命は助けてやる!!」
ヴァルデスの頭を片手で掴み、前へ突き出し、大声量で彼に雇われた者達へ忠告をする。
それを見た者達は、続々と自身の武器を地面へ置き、投降を決意した。
革命軍の勝利である。
ーーー
「ふむ。なかなか楽しめたのう」
「ぐっがはっ・・・・・・ロアク、さん・・・」
アレスは顔を上げ、同じく地面に倒れているロアク声をかけるが、彼から返事は来ない。
アレスはボロボロだった。
しかし、それ以上に視線の先にいるロアクが不味かった。
右腕と左足首が既に胴体から離れており、それ以外にも多数の箇所からの出血が止まらない。
対して今も悠然と立っている少女は、幾つかの傷で血は流していれど、どれも軽傷だった。
「ふむ。止血くらいしておくか。ここで殺すのは惜しい逸材じゃしのう」
そう言ってロアクの元へ駆け寄り、ちょこんとしゃがんで自身の服を破り、簡易的な手当をしていた。
ここだけ見れば、まるで妖精か天使に見えるだろうな。
戦場で負傷した兵士を癒す天使だ。
しかしその実態はSランクとAランクの冒険者を同時に相手取ってなお余裕で完封する悪魔のような存在だ。
「よし、これくらいで大丈夫じゃろ。そろしろヴァルデスを・・・・・・」
そう言って立ち上がり、進もうとした時、声が聞こえた。
「お前達主は死んだ!!! 抵抗を辞め、武器を地面へ置け! さすれば命は助けてやる!!」
「「!?」」
フィルドの声!
ヴァルデスを倒したんだ!
ロアクの努力は無駄ではなかった!
このままフィルドを呼んで、ロアクを助けてもら・・・うのは無理か。
そうだ。ヴァルデスは倒した。けど、まだネフィラが残っている。
フィルド1人では絶対に勝てない。
せめて俺だけでも彼を加勢しなければ・・・・・・!
「ふむ。奴は死んだか。なら我の役目終わりじゃな。仕事を果たせなかったのは奴に申し訳無いことをしたのう」
ゴトッとネフィラが鎌を地面へ置いた。
「え・・・・・・? 降参するのか?」
「守るべき者が居なくなったからのう」
「そんな簡単に・・・・・・」
ネフィラなら、1人だって今のこの盤面をひっくり返せる実力があると言うのに、潔く負けを認めるのがアレスには意外だった。
「奴が死んだ以上この勝負は負けじゃしのう。それに奴が居ないのに戦う意味が無いからのう。金もでんしの」
「・・・・・・」
周りを見渡す。
ロアクが倒れ、自身も倒れ、屋敷には炎が広がっており、自分達周辺はボロボロの建造物が残っていた。
全体で見れば勝ってはいるが、勝負では負けてしまった。
正直、惨敗だ。
強くなったと思った。
この世界に来て、クラウスに鍛えられて、自分には剣の才能があると知った。
それでも鍛錬を怠ったつもりはないし、実際俺は強かった。
それでも格上は沢山いる。
ロアクもその1人で自分より数段上だとすぐにわかった。
けれど、そんな人ですら、届かない程の上がいた。
その人と比べれば、自分なんて天と地程の差どころか、自身は地の奥深くまでめり込んでいるだろう。
それが悔しかった。
けれど、安堵もした。
もしこの戦いより以前に、ネフィラに会って仲良くなっていなかったら、俺は一瞬で殺されていたかも知れない。
・・・・・・死にたくない。
久しぶりに思い出した感覚だ。
初めてこの世界に来た時も、強くそう思った。
だから、剣を握った。
この先も、格上と戦闘する機会はあるだろう。
強くなろう。
これからも、さらに強く。
死なない為にも、死なせない為にも。
「・・・・・・」
ただ空を眺め、遥たかみを想像し、追いつこうと決意するアレスを、ネフィラは静かに見守っていた。




