稽古②
「アレス、ちょっと相手してくれないか?1回だけでいいから」
「良いよ、やろう」
木剣を取り、立ち上がると、アリサが反応する。
「アレス!ダイアスさんと戦うの!?」
「そうだよ」
「見てて良い!?」
「もちろん」
アリサの言葉に、アルトも反応し、すぐにこちらに駆け寄って、二人仲良く地面に座る。
ダイアスの方の子供達も、稽古の手を止めて、こちらを見ている。
ダイアスと相対して立つ。
構えを取り、相手を見据える。
ダイアスは動かない。
カウンターを狙っているのだろうか。
なら、それを叩き潰すまで。
ダッ!と一気に駆け出す!
ダイアスはまだ動かない。
「ふっ!!」
アレスの剣が、ダイアスの胴を狙って横に薙ぐ、それをダイアスは剣で受け止め、弧を描く様に上に受け流す。
アレスの剣が、横に振った勢いのまま上に跳ね上がる。
ダイアスの剣は、勢いを使って下に振り下ろす!
ダイアスが1本とった!と、周りで見ていたアルトやアリサ、ダイアス率いる子供達はそう思った。
ダイアス自身も、これは行けると、思った。
しかし、アレスは
跳ね上がった剣を、空中で無理やり止めた。
「っ・・・!」
本来なら勢いのまま上に弾かれるはずの剣が、空中でピタリと止まる。
その不自然な動きに、ダイアスの目が一瞬見開かれる。
「!? ぐごっ!?」
アレスは体を回転させ、そのまま体ごと回り込むように足を振るい、ダイアスに直撃する!
腹を蹴られたダイアスの体が、一歩、二歩と後ろへ下がる。
すかさずアレスが踏み込む
振り下ろされたダイアスの剣は地面にわずかにめり込み、動きが鈍る。
その隙を逃さず、アレスの剣が横薙ぎに飛ぶ――!
「……くっ!」
今度はダイアスも咄嗟に剣を上げ、受け止めた。
ーー軽い。
そう思った時には、既に違う方向から剣が飛んできていた。
ダイアスには受け止める事しか出来ず、防戦一方だ。
アレスは更に一歩踏み込み、肩で体ごとぶつかるように押し込んだ!
ダイアスの体がぐらつく。
アレスは剣を引き、今度は下段から突きを繰り出す。
膝、腹、胸――目にも止まらぬ連撃!
ダイアスは必死に防ぐも、バランスを崩し、片膝をつく。
その瞬間、アレスの剣がピタリとダイアスの首元で止まっていた。
「・・・決まりだな」
静寂。
そして、
「すっげええ!!!」
アルトの大声と共に、アリサや他の子供達が一斉に歓声を上げた。
ダイアスは、苦笑しながら立ち上がった。
「やっぱり、まだアレスには勝てないな」
「俺もまだまだ負ける気はないよ。武闘大会にも出るつもりだし」
「そう言えば、この街にはそんなのあったな」
「ダイアスは出ないのか?」
「そうだな・・・強い人も多そうだし、ありだな」
「ダイアスならいい所まで行くと思うぜ」
まぁ武道大会を見た事ないから、実際どれくらいのレベルかは知らんが。
「アレスは優勝出来るんじゃないか?今よりも強くなってるだろうし。まっ俺が阻止するが」
「言ってろ。まだまだ追い抜かれる事はねえよ」
と、そうは言ったが、オルディアに来てから、あまり腕が上達している気がしない。
最近の悩みだ。
格上との稽古が少ないからだろうか。
トレーニングも欠かさずしている上に、実践もしている。
素振りなどの基礎もきちんとやっている。
それでも、あまり上達しない。
自身の限界が近づいてきているのではと、そう思っていた。
「アレス!さっきのやつ、今度教えてね!」
「あっずるい!俺も!」
アリサとアルトが、楽しそうにアレスに話しかける。
「ああ、良いよ」
とはいえ、教える事も大してないんだけど。
殆どゴリ押しただけだし。
「ダイアス、今日はもう終わろう」
「ああ、もうこんな時間か」
ダイアスが空を見上げると、陽は沈みかけており、辺りは薄暗くなっていた。
「飯食いにいくぞ~」
「「やったあ~!」」




