クラウス
池を出発してから2時間程経っただろうか。
この辺は結構道が整備されてきている。
まぁ整備されてると言っても日本とかみたいにコンクリとかを使ってる訳では無いが、獣道では無くなった。
この世界にコンクリがあるかは知らないが。
そんな事はさておき、そろそろ森も抜け出せそうだ。
目の前が開けてる。
太陽が照りつけていて、森の中が暗いからか普段よりも眩しく見える。
ようやく陽の光に当たれる。
池で水浴びをした時に陽の光に当たったとは言え、あれから2時間くらい鬱蒼とした森の中を、さまよい続けている。
何時ゴブリンに鉢合わせるかも分からない恐怖、ずっと1人で居る寂しさと、ゴブリンを殺した時の感触の3コンボで精神がイカれそうだったんだ。
それがようやく森を抜け出せる。
陽の光ってのは大切だったんだなぁ。
あの光を見るだけで少し元気が湧いてきた。
少しずつ歩くスピードが早くなる
「ハァハァ・・・」
もう水筒の中も空だ。
1時間経った辺りで飲み干してしまった。
本当に馬鹿だった。
それでも歩む足は止まらない。
そしてついに森から抜け出すことに成功した。
「よっしゃぁぁ。ようやく森から出れたー!太陽気持ちいい!!」
陽の光を全身に浴びる。
やはり、太陽ってのは偉大だな。
嫌なことを吹き飛ばしてくれる。
これだけで少し、力が出る。
「あ!」
すっかり整備された道の脇の所に看板がある。
何て書いてあるのかは分からないけど、森を出てすぐに看板があるのは街への案内とかか?
そうじゃなくても人が作った物ではあるだろうし。
それだけでワクワクする。
ようやく人のいる、安全な所に行けるんじゃないだろうか。
そう思うだけで心が軽くなり、先程まで重かった足も軽くなった気がする。
道なりに、あまり高くはない丘が見える。
あれを超えれば街も見えるだろう。
早速行こうか。
ーーー
「うおぉぉ。すっげなぁ」
思わず声が出た。
そこには壁に囲まれた大きな街があった。
日本では見たこともないような街だ。
胸の鼓動が鳴り止まない。
森で合った事なんて忘れるくらい、ワクワクしている。
それ程までに、圧巻だった。
15mはあろうかと思われる高さを誇り、壁面は無数の時代を超えても色褪せることのないだろう黒い石で築かれ、外壁に施された無数の防衛用機構(大砲)や外壁にあるひび割れの傷が過去の(多分)戦争などの苛烈さと、この街を守ってきた事を物語っている。
うん、最高だな。
やっぱこういうのは大好きだ。
凄く良い。
もう本当に。
何回もファンタジー小説を読んでは想像したものが、目の前にあるのだから!
興奮も冷め切る前に気持ちを押さえ込んで、まずは要塞都市に入ろう。
「おお!」
正面の入り口、大きな門だ。
大人が横に10人くらい並んでもまだ余裕が有りそうなくらいでかい。
まぁ人いっぱい居るしな。
馬車だって見える。
商人ってやつかな。
門の前には兵士っぽいのが居るな。
何か確認しているようだ。
・・・あぁ、感動だ。
この世界でこんなにも沢山の人を見られるなんて
あの森の中だとゴブリン以外の生き物とは遭遇しなかった。
鳥のさえずりは聞こえたし、虫は居たけどね。
っと感動してる場合じゃない。
日も落ちてきてるし、あんなに並んでるんだ。
俺も早くならばないとな 。
「よぉ坊主。こんな所まで1人で何してたんだ?」
最後尾に並ぶと前に居たおっさんが話しかけてくる。
「あ、えと急に異世界にッ・・・ゲフンゲフン! えっと・・・森の向こうの草原で目を覚まして、えっと、今・・・帰ってきた所です」
ああ、異世界って言っちゃったよ
どうか聞かれていませんように・・・
「ん? 異世界? ってなんの話だ? ってか森の向こうから来たのか!? 魔物に襲われなかったか?・・・まぁ襲われたっぽいけどな」
男がこちらの姿を見て凝視する。
あ、良かった。
異世界、聞かれてたけどスルーされた!
「あ、はい!森の向こうからです!・・・なんでモンス…じゃなくて魔物に襲われたって分かったんですか?」
「そりゃあわかるさ!坊主、棍棒持ってるじゃねぇか。それぁゴブリンのだろ?」
あ、そういえば棍棒持ってるわ。
途中で手で持つのがしんどいから紐で背中に縛っていた。
そのことを完全に忘れていた。
「あ、そうです。これゴブリンのです。森の中にある池でゴブリンに遭遇して、倒してから持ってます。」
・・・ってかこれ俺今滅茶苦茶変な奴になってるよな。
ゴブリンの棍棒を背中に水筒だけ持って・・・あまりに変人過ぎる気がする。
「やっぱりそうだったか。坊主、1人であの森先まで行くならもっとマシな装備をしていけよ。弱いとは言え魔物は出てくるんだからよ。それで坊主は何であの森の先に行ったんだ?目を覚ましたって言ったな?向こうで寝る為だけに行ったか?流石にそりゃあねぇか!ハッハッハ!」
「あ、いや何て言うか・・・向こうに行ったんじゃなくてですね。向こうで目を覚ましたんですよ。本当に。それ以前の記憶も無くて・・・」
異世界から来たなんて言える訳がない。
いやさっき言っちゃったけど!
とりあえず覚えてない事にでもしとこう。
もっとマシな嘘つけたらいいんだが、何も思いつかん!
「はぁ!?記憶がない!?・・・何があったんだよ・・・」
それは俺も知りたい。
なんで急に異世界に転移したんだろうな。
「はぁ。じゃあ坊主は今、その棍棒と水筒しか持ってないわけだな?」
「は、はい!」
「流石にこれは知ってると思うが街に入るには身分証が居るぞ」
「え、み、身分証ですか!?どうしよう、そんなの持っていないですよ!それ無いと入れないですよね?」
「あぁ入れないな」
うわ、まじか・・・・どうすればいいんだ。
身分証なんて持ってないぞ。
なんせ、朝起きたらいきなりこんな所に居たんだぞ。
準備出来る時間なんて無かったし。
・・・ってか日本の身分証だと意味ないか。
「・・・」
おっさんが何か考え込んでいるようだ。
どうしたんだろうか。
急に喋らなくなったな。
気まずい・・・・・。
・・・・ってかおっさん、改めて見ると冒険者?ハンター?みたいな格好しているな。
歳は…多分40歳位だろうか。
髭は無いけど渋めの顔をしているが整っている顔をしているな。
肘や膝等の関節部分にプロテクターを着けていて、胴には銀色の鎧っぽいのを着けている。
ってか腰に差さってるのあれ剣だよな?
全然気づかなかったな
「・・・坊主は何も知らなそうだな。街を入るのに身分証が必要なことすら覚えてないとなれば、街に入れたとしても野垂れ死んでしまうだろ。流石にそれはほっとけないな。・・・どうだ坊主?とりあえず俺が坊主街の中に入れてやる。そっからは自力でどうにかできるか?」
「い、良いんですか?」
「あぁ良いよ。ただし街に入ったらすぐに身分証を作れ、いいな?身分証が作れるまではついて行ってやるから」
「は、はい!ありがとうございます!」
まさか見ず知らずの、それも何処の誰かも分からない俺なんかのためにそこまでしてくれるとは・・・ありがとう!おっさん!
「坊主、そういや名前は何て言うんだ?俺はクラウスだ。因みに41歳だ。後敬語じゃなくていいぞ」
名前、そういや名前言ってなかったな
ってかこれ普通に日本で使ってた名前で良いのか?
変な感じにならないか?
クラウスさんも苗字とかは無さそうだし・・・
この世界では名前を変えて生きていくのもありかもな
「俺の名前はアレス。17歳だ。」
アレス、俺が色んなゲームで使ってきた名前だ
長年愛用している
「アレスか。良い名前だな。」
そんなやり取りをしている内に列は大分進んでいた。
もうクラウスの番だった
「アレス、着いてこい」
クラウスに言われ、大人しくついて行く
クラウスが門番の兵に何からカードの様な物を渡す
俺がさっき言ってた身分証か?
クラウスと門番がこっちを見ながら話している
・・・あれ?何を話してるんだ?
全く分からない
声はちゃんと聞こえるのに何を言ってるかが分からない
そもそも日本語じゃない
さっきまで俺はクラウスと日本語で話していたはずだ
????
訳が分からんな
どうなってんだ
「アレス、行くぞ!」
クラウスに声を掛けられついていく
兵士との話がついたみたいだ
門を抜けると大きな街道が真っ直ぐに伸びている
人も馬車も、そこかしこを歩いている
物凄く賑わっている
活気があり、笑顔の人も多い
・・・良い街なんだろうな
あ、それよりも聞きたい事があったんだったな
「クラウス、さっきは何を話していたんだ?」
「ん?聞こえて無かったか?」
「いや、聞こえてなかったんじゃなくて、何を言ってるのかが全く分からなかったんだ。今の俺はクラウスと普通に話せてるのに、クラウスが兵士と話始めた途端に何も知らない、聞いたこともない言語に聞こえたんだ。」
「あぁ〜。そういう事か。それは俺のスキルが関係しているんだろうな。」
「スキル?」
何だそれは
そんなゲームみたいな物があるのか
俺も欲しいな、スキル
「そうだ。俺のスキル、【自動翻訳】って言うのがあるんだが、これは結構便利なスキルでな。俺と話してる相手が、俺の知らない言語で話してきても勝手に知ってる言語に変換されるんだ。そんで俺が話すと勝手に相手の言語に変換されるんだよ。な?便利だろ?」
「あぁ・・・確かに、便利だな」
クラウスが突然立ち止まりこちらを心配したような顔で見ている
「ってかアレス。お前さっきの俺と奴との会話が分からないって事は人間語が分からないのか?・・・言葉まで忘れるって・・・本当に全部忘れてんのか?」
「あ、あぁ何を言ってるか分からないから忘れたんだと思う。」
まぁ忘れたってより知らないだけだが
ってかクラウス以外と話せないとなると結構難易度が高くなるな
金も無いし、生活すら出来ないんじゃ・・・
「そうか、・・・・・言葉も分からないってなると、すぐに別れるのは難しいか。【自動翻訳】持ちの奴も少ないだろうしな。・・・身分証を作ったら俺の家に行くか。とりあえず言葉を覚えるまでは泊まらせてやる。」
「本当か!?助かるよ。何から何までありがとうな。お金は稼げるようになれば直ぐに返すよ!」
「ありがとうな。でも急がなくてもいいぞ。まずはしっかり言葉を覚えてから、だな。」
「あぁ、そうだな」
・・・・・本当にクラウスは良い奴だな
普通初めて会った、しかも出自が何処かも分からないようなガキにここまでしてくれる人なんて、
日本ですら殆どいないんじゃないか
「じゃあまずはギルドに向かうとするか。」
「ギルド?もしかして冒険者ギルドってやつか!?」
「ん?そうだ!冒険者ギルドだ!」