希望①
「な!?黒鋼騎士団が戻ってくる!?」
ブラッドヴァルドが森に戻り、ポーションや装備などを補給しに来ていたアレスは、そんな話をクラウスから聞き、驚愕を隠せないでいる。
「それは、本当?まじで?」
「ああ、本当だ。エルンストさんが、各隊長に報告していた。先程、ダンジョンに向かった兵が帰ってきたらしい。隊に戻れば、ガルドから伝えられるだろう。」
「そうか」
「クラウスさん!今の本当ですか!?」
「黒鋼騎士団が帰ってくるって!?」
「え?マジかよ!!」
「どれくらいで帰って来るんですか!?」
近くに居た冒険者が、いきなりクラウスと俺の周りに群がってくる。
俺がデカイ声で言っちゃったから、周りの人に聞こえてしまったようだ。
「早くても一日だ。」
「いいいいよっっしゃああああ!!!」
「一日!後一日耐え抜ければ、俺達は生き残れるぞ!!」
「彼等がが帰ってくるまで生きてたら勝てるぞ!!」
「「「うおおおおおお!!!」」」
ようやく戻ってくる。
俺が実際にその騎士団を見た事なんて、1度しかない。
ましてや、戦闘している場面なんて一度もない。
けど、ここにいる多くの人は、今までの戦争での黒鋼騎士団を見てきた人達だ。
そんな彼らが、たった一つの騎士団が帰還すると言うだけで、ここまで喜んでいる。
それ程までに、黒鋼騎士団は皆の希望となっているのか。
「後ひと踏ん張りしますか!!」
「やったるあああ!!」
希望が見えたからか、やる気が出たようだ。
彼らはそのまま言葉を続け、自身の持ち場へと戻っていく。
「急に元気になったな。」
「ああ。この絶望的な状況で、勝ち筋が見えたんだからな。」
「確かに。じゃあ俺も戻るわ。」
「おう。死ぬなよ、アレス。」
「クラウスも、気をつけて。」
クラウスと挨拶を交わし、ガルドさん達が居るところへ戻っていく。
「ガルドさん。」
「お、丁度良いところに戻ってきたね。」
「なにかあったんですか?」
「そうだよ。2つ、報告する事があってね。実はね・・・黒鋼騎士団が戻ってくるんだよ!」
「らしいですね!クラウスから聞きましたよ!」
「クラウスさんにもう聞いてたんだね。」
「はい。」
ガルドさんも喜んでるな。
ここに戻ってくるまでにも感じたが、全隊の雰囲気が変わった気がする。
黒鋼騎士団が帰ってくる事を皆が知ったのかな?
士気が上がってる気がする。
全体的に笑顔が増えた気がする。
「皆、もう一つの報告ってのは、僕達の待機場所が、最前線に変わった。」
「え?」
「最前線!?」
「俺達がですか!?」
ガルドの言葉に、皆が固まる。
俺達が最前線に?
それ大丈夫なのか?
「皆が驚くのも無理は無い。けど、こちら側の人数が減りすぎたんだ。どこかの隊が穴埋めをしなくちゃならない。」
「・・・・・・だから、死亡者の居ない三番隊が選ばれたんですか?」
「そうだ。」
「「「・・・・・・」」」
隊の皆が口を閉ざす。
先程とは一転し、表情が暗い。
最前線で耐えるのは、この隊じゃ荷が重い。
けれど、死亡者も居ない上に、穴埋めを出来る隊の中では、三番隊が1番強い。
みんながそれを理解しているからこそ、誰も否定することが出来ない。
「皆、すまない。僕は断る事が出来なかった。」
「大丈夫ですよ。隊長!」
「!?」
「俺達だって冒険者だ!覚悟は出来てる・・・なにより、あの街を、グリスヴァルドを落とされたくない気持ちは皆一緒だ。」
「そうですよ。隊長!最前線とは言え一日経てば、騎士団が帰ってくるんです!それまで、皆で協力して、耐えましょう!」
「あ、ああ。ありがとう、皆。」
最前線に移動し、待機する。
ブラッドヴァルドがこのまま長時間攻めてこなければいいんだがな。
その分だけ、生き残る確率も増える。
「アレス君、君は少し下がっていて。」
「え ? どうしてですか ?」




