不気味な動き①
「あいつら、全然攻めてこないな。本当に森に居るのかよ。」
既に太陽が真上にまで来ているのに、一向に攻めてくる気配がないブラッドヴァルド軍に対して、ライナーはそんな疑問が浮かんでくる。
「クラウスさん達が確認してきてくれて、森で留まっているって言ってたでしょ。」
「そうだけどよお。ここでずっとあいつらを待つだけってのもしんどいよな。」
「仕方ないよ。僕達から攻めたって負ける可能性が高いからね。だからこそ、隊長達も納得してるんじゃないかな。」
「・・・分かってるよ。それくらい俺だって理解してる!」
エリックがライナーの疑問に答えるが、そんな事はライナーだって分かりきっている。
それでも、どうしても文句は出てきてしまう。
「それに、早く終わって欲しいしよ・・・俺は人殺しになりたくて冒険者になったんじゃないのにっ!」
「ライナー・・・」
ライナーが人を殺すのは、今回のこの戦争が初めてだ。
それはエリックやマナ、セラもそうだ。
マナやセラは直接的に殺す訳では無いないが、エリックライナーは違う。
日本という安全な国からやってきたアレスとは違い、命の危険が多いこの世界で育った彼らでさえ、人を殺すのには抵抗があるし、不快だ。
それに、この戦争が早く終わって欲しいと思っているのは、彼らだけじゃく、グリスヴァルド側の、多くの人間が望んでいる事だろう。
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「別働隊の動きはどうなっている?」
「は!アルツ村の殲滅は終わったようです。現在、こちらに向かってきております。設置班は、アルツ村殲滅後、すぐに出発しました。今のところ、順調に進んでいます。」
「そうか。ならいい。」
グリスヴァルド軍本部のテント内。
1人の兵からの報告を聞き、全てが順調に進んでいる事に、指揮官である男は、気分が良くなる。
「先程、冒険者数名がこちらを偵察しに来ていたと、報告が入ってます。」
「なに ? そいつらはどうした ?」
「我々の拠点を確認次第、すぐに戻っていきました。そのまま放置したようですが、宜しいでしょうか?」
「そうか。偵察をしにきただけか。なら放置でも良いだろう。奴らが我々を発見したと言うのなら、こちらの動きを監視するだろう。こちらを注意の引き付けて居られるうちは設置班に注意が向く心配も無い。」
「順調に進んでいますね。」
「ああ。このまま攻めて引くを繰り返せ。設置班が帰還次第、すぐに国へ戻ると伝えろ。」
「は!」
「ふう。このま順調に行けば進めば良いが・・・黒鋼騎士団が何時戻ってくるかが問題だな。あの冒険者も厄介だが、あれが比べればマシだ。あれが早期に戻ってくれば、今回の戦争が無意味になる・・・・・・どうか成功してくれよ。」
男は今回の戦争が無事に成功するよう、祈る事しか出来なかった。
 




