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64.真偽

 クリードは長く続く豪奢な廊下の先を眺めている。彼がリュシオンの中心部へ足を踏み入れたのはこれが初めてだった。

 子どもの頃から、圧倒的な格の違いは遠目に見える城壁から嫌と言うほど感じていた。

 亡き父はクリードが生まれる前から。この隣国とどうにか和解する術を日夜模索し、リュシオン新派である義母と縁談を結びデュークをもうけている。しかし、最終的に父は剣を交えることも厭わないと決断した。その理由が、今なら嫌でも分かる。


「……落ち着け、アイギス。まだ大した時間も経っていないぞ」


 クリードの隣ではソワソワと、アイギスが少女の消えて行った先を見ながら右往左往している。

 彼は顔をしかめて足を止めるも、行く手を阻む色鮮やかな水面を睨む。


「……お前は、あの蛇を信用してるのか」

「一から十まで信用できるほどの人間ではないな、スロースは」


 アイギスの問いにクリードは鼻で笑った。


「父上が死んだ際。奴に父上の死因が本当に病なのか調べさせた」

「……ユーヒがお前に聞いていた。俺が関わっていないかと」

「ああ。その話しだ。奴は俺にその結果、父は病で死んだ。暗殺ではないと報告した」

「覚えている」

「あれは嘘だ」

「……だがお前は、ユーヒにそれが真実だと言っていた」


 アイギスはようやく足を止めた。彼は目を瞬いている。

 視線を滑らせ、小さな姿が戻ってきていないことを確認してからクリードはアイギスへと向き直った。

 

「アイツへ聞かせるような話しではなかったからな。俺の父を殺したのが顔見知りだ、などと知ったところで有益にもならん」

「お前の父親を殺したのは、あの蛇なのか」

「面白い話になってきたじゃねーの」

「ラーストー殿……」

「構わん、レイ・ジール。俺の推測の域を出んが、ほぼ間違いなく事実だと思っている」


 背後から割り込む茶々と苦言にクリードが振り返ると、レイは軽く頭を下げた。

 壁際ではグラトナスがうつらうつらと舟を漕いでいる。

 アイギスは不思議そうに首を捻った。そして少し声を小さくして、また彼女が向かった先へ視線を向ける。


「……俺が親を殺すとたいていの子どもは、俺を殺そうとする」

「それが当然だ。当然でいい」

 

 剣の柄を手で撫で、クリードは口角を持ち上げた。

 悪夢が脳裏を過ぎる。幼い頃より繰り返し見てきた悪夢は頻度さえ少なくなってきているものの、だいぶ見慣れた光景となっていた。


「俺の母は自ら首を吊って死んだ。母上の葬式に父上は来なかった。何せ、その日は兄上の誕生日だ。妾の葬式と嫡子の誕生祝いではくらぶべくもない」

「……あの蛇はお前のためにお前の父親を殺したのか?」

「さて、どうだかな。父上は俺に兄上と同様の教育を受けさせ、ついにはエストリンド家の祝いの席にまで同行させた。それが今の義母上(ははうえ)の肝を冷したようだ」


 ラーストーが相槌をうつ。

 

「同盟相手の唯一の一人娘へわざわざ妾に産ませた次男坊を引っ張り出して紹介する必要はねぇだろうからなァ。さらに悪いことに、その同盟相手が出自や血統よりも実力重視の変わりモンときた。リュシオンの目を逃れて生を繋いでいたいメガネくんからしたら、お父様のお情けは余計なお世話だったワケだ」

「おおよそ、そんな所だろう。あいつの考えるところは」

「未だにその事実が本当にバレてないなら、四騎光(しきこう)と呼ばれていた血筋は伊達じゃねぇってか」


 笑みを浮かべるラーストーの隣でレイが顔をしかめている。

 未だ首を傾げるアイギスへクリードは肩を竦めた。


「そういうことだ。全幅の信頼はおきかねるが、仕事はできる。自身にかけられた竜の呪いをどうにかしたいのであれば、スロースが俺たちと敵対する理由もないだろう」

「そうだね。彼は自身へ任された仕事はやりとげる人間だ」


 クリードに同意する声は、その場にいた誰の声でもなかった。

 最初に反応したアイギスはとっさに腰へさしていた短剣を抜く。遅れて振り返ったクリードは眉を潜めた。

 穏やかな声の主はゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


「ケテル様……! ご無事で何よりでございます……」


 いち早く彼の元へ駆け寄ったレイはその前で膝をつく。

 クリードは剣の柄へ手を添えたまま、彼女に微笑みかけるその顔を凝視する。

 以前、顔を合わせたケテルとは違う点がいくつかあった。

 金糸のような頭髪は色が抜け白くさらにまばゆい。白い肌には人間にないはずの鱗のようなものが生えている。蒼かったはずの左右の瞳は左だけが赤く輝き、縦に横にと、二回瞬いたように見えた。

 レイは彼の足元でうなだれる。


「申し訳ございません……。未熟な自分ではサヘル様をお守りすることが叶わず……」

「君に否はないよ、レイ。君とジャラスでは相性が悪いことは承知していた。だから、そこの魔喰らいを選んだのだけど、どうやら()()仕事をしてくれなかったようだね。しかも僕がまじないをかけた槍をわざわざ置いてきた」

「それこそとんだ言いがかりじゃねぇのか、王子サマよ。俺のご主人様は『シャレム・エストリンド』だ。アンタの命令に従う義理はハナからねぇ。得体の知れないまじないがかかった物を持ち歩くほど能天気に見えるのか?」


 笑みをたたえたケテルの視線を受け、ラーストーは息をついた。

 腰を持ち上げた彼は気だるげに槍の柄で肩を叩く。


「……やはり彼女がジャラスを助けてしまったか。本当に困ったヒトだね」


 ケテルは目を伏せた。

 クリードは壁際でうたた寝をしていたグラトナスの元へ歩み寄りその肩を揺らす。

 

「臣下の命を助けてやった者へ、感謝のひとつもあって良いのではないか」

「ジャラスを助けるということは、彼女自身の首を絞めることに繋がる。そもそもラーストーがジャラスを殺していれば、サヘルがここへ戻ってくることもなかっただろう」

「テメーの家臣の尻拭いはテメーでしろよ」

「ああ。でないと、彼女がまた彼の命を助けてしまうだろうからね」

「ケテル様……」

「さて、レイ。話しは歩きながらしよう。グラトナスも僕に話しがあるはずだ」

「ん~~? みんなのお話しは終わった?」


 大きく伸びをしたグラトナスが目を擦りながら立ち上がる。

 ケテルがその場から動かないアイギスへ呼びかけると、彼は体を強ばらせた。


「ユウヒはスロースがつれてくる。心配はいらない」

「……お前はウソつきだ」

「僕は信用できなくても、スロースは信用に足る人間だと、君たちは分かっている。彼はユウヒを必ず連れてくる。そこへ君がいないと困るのは彼女だろう」

「…………」


 アイギスはクリードを見た。彼の視線を受けたクリードが頷くと、アイギスは後ろを振り返りながらも歩き出す。

 ケテルの後ろに続き、クリードたちは城の向かいにそびえる太い柱の建造物へと進んだ。

 日暮れと共に空はますます暗く、重くなる。

 辺りを見回すレイが遠慮がちに会話の口火を切った。


「ケテル様……。城下の民や城の者は……」

「まだ生きる気力がある者は、僕の指示で竜騎士たちがフロストロン領に近い砦へ逃がした。彼らの指示に従ったなら、生き延びている者もいるだろう」

「勝手に難民をフロストロンへ押し付けるな……」


 クリードは思わず顔を覆い唸った。すでに最悪の事態の一端が始まっている事実に頭が痛くなる。

 今までのリュシオンの所業を顧みれば、そんな問題が山詰みの難民を受け入れる周辺国などいるはずもない。リュシオンで生まれ育った令嬢を妻に迎えた人の好いの義理の兄を除いて。

 ケテルは歩調を緩めずに進む。

 

「残念ながら、内側の壁に住んでいる者は手遅れだ。リュシオンを囲っている壁と、地下に張り巡らされている水路は術式の一端を担っている。リュシオン王国(この国)そのものがヤツへ捧げられる生贄、とでも言えば分かりやすいかな。ヤツを神として受け入れ、その意思に抵抗する気がなければ、助けたくても助けられない。例え竜の血を引いていたとしても、例外ではない」

「やっぱり眷属として取り込まれちゃったんだねぇ。お兄ちゃんのおかげで、ここ最近で随分とリュシオンの神格化が進んだみたい」

「……どういうことだ」


 グラトナスの言葉にクリードは声音を下げた。

 ケテルはそれらの質問を予期していたかのように淡々と言葉を並べる。


「本来なら、エストリンド家とフロスト家の弱体化にはもう少し時間がかかる。それを僕が介入して早めた結果、リュシオン王国の侵略速度も早まった」

「それだけ聞くと、アンタが余計なことをしたようにしか聞こえねぇが?」

「仕方がない。リュシオンの侵攻を早めた理由はいくつかあるけれど、何よりも天羽優陽がいつ、シャレム・エストリンドと入れ替わるかが重要だった。エストリンド公は娘の中身が入れ替わればすぐに気付く。そしてユウヒがシャレム・エストリンドの体に慣れるまでの時間を考えても、これまでよりユウヒがこの世界にくる時期も早める必要があると、僕は判断した」

「だからとっととアイギス君に旦那サマを始末させて、お嬢サマを独り身にしたワケね」

「その通りだよ」

「……お前は、アイツを、ユーヒをどうする気だ」


 アイギスは依然、短剣の柄に手をかけている。

 たどり着いた白い石造りの建造物はいくつもの太い柱が屋根を支え、扉のない広い入口は不思議と風を吸い込んでいた。

 足を止めたケテルがようやく振り返る。彼はアイギスへ微笑んだ。


「それは彼女にしか分からない」

「答えになっていない」

「君たちは僕が『神殺し』として強力なシャレム・エストリンドの体を引き継いだユウヒを連れてきた理由を察しているはずだ」

「神格化の進んだ聖リュシオンを完全に討つのはアロでも難しいからねぇ……。神殺しの血があるなら、ソレを利用して聖リュシオンの力を一時的に弱めることは可能だよぉ。理論上はねぇ?」


 グラトナスはクリードの足元で大きく首を左右に傾げている。

 ケテルは目元を和らげて「そう」と肯定した。

 

「神殺しの血を引いている『シャレム・エストリンド』がこの場にいればヤツは選択を迫られる。民を生贄にした体を使って早々に神格へ登りつめるのであれば、神殺しの血はヤツを滅ぼす切り札だ。そして、それを恐れてヤツが神格を遅らせれば、僕らやアロガントたちの力でヤツを殺せる可能性も充分ある」

「ユーヒがこの場にいるだけで、意味があると言うことか……?」

「そうだねぇ……。シャレムお姉ちゃん……。ユーヒお姉ちゃんの神殺しとしての力を使うか使わないかは置いといて、抑止力として使うのなら、納得できるかも~。たぶんリュシオンは今どうしようか悩んでるから、僕らのことを様子見してるみたいだし~」


 クリードがグラトナスを見下ろすと彼も「ふんふん」と頷いた。

 

「では、全て承知の上との理解で良いのだな」


 苦虫を噛み潰すクリードの脇を、長身の人影が悠々と通り抜ける。

 アロガントは自身の艶やかな髪を払い、最奥へと続く暗がりと、ケテルへ交互に視線をやった。


「我とグラトナスは主によりこの場へ招かれた、と」

「最初の君たちとはもう話しをつけてある。でなければ君が僕に心臓を預けるはずがない」

「で、あろうな……。このテの狂気を生まれ備える輩が時おりぽっと出てくる故、人間は厄介よ……」


 腕を組み、アロガントはひとりごちる。

 アロガントのぼやきにクリードは眉を持ち上げた。


「何の話しをしている、アロガント。その男の言葉に信憑性はあるのか」

「まあ、ある程度は保証してやろう。我が直々に心臓をくれてやったと言うことは、そういうことであろうからな」

「アロガント殿。心臓を、くれてやったとは……?」

「こやつの話しが矛盾しておる故。主らも疑っておったのだろう。女王と国王の心臓を取り込んだのであれば、こやつはすでにあヤツに取り込まれているはずじゃ、と」

「ああ」


 クリードがケテルをこれまで勘ぐっていた大きな理由のひとつだった。

 サヘル・オルランドの話しでは、王位の継承で前国王と女王の心臓を食らうことで、次期国王と女王は人ならざる力と王位を受け継ぐのだと。恐らくはその時点で、国王と女王は『人間』ではなくなる。ならば、国王と女王の心臓を取り込んで過去をやり直し続けているケテル・ミトロンは何故『人間』のままなのか。

 アロガントは自身の胸を指さし、レイとクリードの疑問に答えた。


「こやつは確かに竜の心臓を取り込んでいる。しかしその心臓はあヤツに汚染された白竜の心臓ではなく、浄化された本来在るべき白竜の心臓よ」

「浄化された、白竜の心臓……?」

「もっと分かりやすく説明できねぇのか?」

「最初のアロガントとグラトナスはヤツと相打ちになった。全ての元凶と化していた白竜の心臓を取り返したけど、彼らは長くなかった。滅亡した大国に残されたのは、彼らに助けられた僕と、魔獣を引き寄せ続ける巨大な魔物の死骸だけだった」

 

 訝し気に目を細めるラーストーへケテルが続けた。


「ヤツが遺した魔族の襲撃に抗える者がいなくなると言うことは実質、大陸そのものの滅亡と同義だった。だから、アロガントとグラトナスは僕へ竜の心臓を託した。汚染された白竜の心臓をアロガントとグラトナスの心臓が浄化してくれたおかげで、僕は母や父のように自我を奪われずに済んでいる」

「僕もアレに取り込まれるくらいならそっちのがまだ良いかなぁって思うからねぇ〜」


 グラトナスは風を吸い込む巨大な建造物の入口へ視線を滑らせる。

 ラーストーがアロガントを指さす。

 

「その女男の心臓を取り込めば神サマと同等の奇跡を起こしたりだとか、時間の壁を越えたりできんのか? 竜でもそれは難しいとか言ってたのコイツだろ」

「さすがに取り込んだ心臓が僕とアロだけでなければ話しは変わるよぉ……?」

「貴様、まさか…………」


 グラトナスはレイを見ていた。

 レイは息を呑み、自身の胸を抑える。

 察したクリードの視線を受けたケテルは同様に胸を抑え、苦笑する。


「スロースは早々に気付いていたよ。彼は察しが良いからね」

紫睡(しすい)の毒が効かぬはそれ故であろう。我やあやつの目さえ欺くのも当然よ。それらは元々、我らの力じゃ」

「……自分たちさえ手に余る力を、ケテル様はどのように抑えていらっしゃるのですか」

「それはこの者の才能と、もはや執念の問題よ。どちらにしても、肉体も魂も長くはなかろう」

「そんな……」


 絶句するレイへケテルは表情を和らげる。


「だからこそ急がねばならないんだ、レイ・ジール。君たちが僕に託してくれたものを、無駄にする訳にはいかない」

「そのことをサヘル様は……」


 レイはしばしうつむくも、頭を振った。

 

「……かしこまりました。ですが、どうか……。御身を粗末になさるようなことは……」

「ありがとう。分かっているよ」


 憂うレイにケテルは微笑む。

 彼は神殿の入口へと進んだ。入口からは曲線を描いて下へ伸びる階段が続いている。階段の終わりは見えず、風を吸い込む音だけが薄暗がりに響いていた。

 アロガントは息をつき、その階段の縁へと腰かける。


「されば、我らはここで待つ」

「あ? この空気でかよ」

「さっきケテルお兄ちゃんが言ってたでしょ~。竜は聖リュシオンに敗れた物語がこの地に根付いてしまってるからねぇ。リュシオン(ここ)では僕とアロが不利なんだよ〜。まともにやりあったら、物語にかけられた枷が重すぎて、良くても相打ちになっちゃうんだぁ」

「アロガントとグラトナスの力を効果的に発揮できる局面は今じゃない。これから僕らがしなきゃいけないのは、ヤツを穴倉から引きずりだすことだ」

「まどろっこしいなァ……」

「いってらっしゃ〜い。頑張ってねぇ〜」


 ぼやくラーストーを横目にグラトナスがこちらへ手を振る。


「少し待て、灰色の」

「……なんだ」


 一方。アロガントが手招きしていたのはアイギスだった。

 アイギスはクリードの隣で身構える。


「我の力を少しだけ分けてやろう。またあヤツの呪いに縛られ暴れられては困るからな。ありがたく我の慈悲を受け取るが良い」

「…………」

「なんじゃ、その顔は……! 贅沢なヤツめ! それでなくともその王子が体現しておる通り、人の身で魔族と竜の力を宿すということは魂を削る行為そのもの。まだ自らに影響がないからと言って軽視するでないぞ」

「…………」


 アイギスは無言でアロガントを指さし、クリードを見ている。

 クリードは眉間へしわを寄せる彼の表情に言葉を濁した。


「貴様の気持ちは分からなくもないが……。理屈は通っている。我慢しろ」

「……人間のままだと、守れなかった。だから、お前は竜になったんじゃないのか」

「……そうだね」


 アイギスの視線は次にケテルへ向いていた。

 階段へ足をかけていた彼は自身の片手を見下ろす。破れた手袋の合間から柔らかな羽毛と光沢のある固い肌がはみ出ていた。


「最初の僕は何も守れなかった。少しでも未来をマシなものにするため、強くなるよう努めた。今の力はその結果だ」

「……なら」

「でも、それは僕一人で充分だよ。君まで僕と同じ運命を辿る必要はない。今のユウヒには今の君たちが必要だからね」


 ケテルはアイギスの言葉を遮る。不満そうなアイギスにアロガントが顎をさする。


「王子の言う通りじゃぞ。あの小娘はひとりでは何もできん、ただの小娘じゃ。主が導く必要もあろう」

「……俺ができるのは何かを殺すことだけだ」

「『アイギス』の意味を、彼女から教えてもらったかい?」

「……知らない」

 

 アイギスは首を横へ振る。

 ケテルは笑う。懐かしむように視線を伏せ、口元へをあてる。

 

「僕の記憶が正しければ、彼女の世界で信仰されていた神が持つ、盾の名前だよ」

「盾……?」

「そう。どんな災厄からも人々を守る、神の聖盾。彼女の命を守ったのは、紛れもなく君だ」

「…………」


 ケテルの言葉にアイギスは目を瞬く。彼は自分の両手を眺めた後、もごもごと言葉にならない声を噛んでクリードを見る。

 そんな様子にクリードは腰へ手をあて思わず声をもらす。


「やけに私情がこもっているようだったが、思っていたよりまともな意味合いがあったか……」


 ケテルは「そうそう」と指でくるりと円を描く。

 

「彼女の好きなゲームのキャラクターが、それをモチーフにした装備をしていた気もするな……」

「げ……? いや、いい。それ以上は何も答えるな」

「そうかい?」

「いいから早くまじないをかけさせんか! はよう向かえ能天気ども!」


 アロガントの苛立ちが奈落へ続く階段に響いた。

 

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