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56.導べ

 赤い炎が大地を舐める。

 サヘルは堪らず腕で顔をかばう。熱風がジリジリと肌を焼き、汗が浮かぶ。怯えた馬はサヘルを乗せたまま首を大きく振って後退していた。

 大地を燃やし尽くした憤怒の炎は重々しい風によって巻き上げられ、消え去った。肩で息をするレイ・ジールの前には、男が顔色ひとつ変えずに立っている。

 辺りの大地はひび割れ、小さな火がくすぶる。男はその上をゆっくりと歩く。乾いた砂と灰が北風に舞う。


「聞き分けが悪いぞ、レイ・ジール。早急にリュシオンへと戻り、ケテルの愚行を止めろ」

「ケテル様は正し、かった……。あの方のお言葉を、私がもっと信じていれば……」


 レイ・ジールの体が傾く。ふらつく彼女の体を支えるクリードの顔色もまた、サヘルから見ても酷いものだった。

 得体の知らない気味の悪さ。まとわりつく空気。息が詰まる見えない圧力。

 手綱を握る手が震えていることに気付いて、サヘルは唇を引き結ぶ。

 クリードがモルオクへ剣を向ける。


「……今一度、貴様へ問う。貴様のために命をかける臣下たちへの応えがコレか」

「私はあの者たちに罪を贖う機会を与えているだけに過ぎない。真の信仰心があれば、聖リュシオンは必ずやかの者たちの魂をお救い下さる」

「どうやら話しになりそうにないな」

「神を信じる心のない貴殿には分かるまい」

「日々の恵みに感謝する心くらいはもっている。神は必ずしも人間を救う存在ではないことも承知している」


 「だが」と。クリードは目を細めた。


「人の上に立つ王でありながら、人の命を軽んじる神と共に成り上がるのであれば。貴様はその王座に居座るべきではない」

「では、人命を尊ぶはずの貴殿の兄は人命を尊ぶあまり、どのような選択をとった。人命を尊ぶからと言って、民が救われるとは言い切れまい」

「貴様…………」


 声音を下げるクリードへモルオクは頭を振り、レイとクリードの前で足を止める。男のまなざしを見返したふたりは生唾を呑み込む。


「少なくとも、壁の中で聖リュシオンを信じ、敬う者たちには安住の約束がされている。飢えを知らず、寒さに震えず、魔に襲われることもない。今は壁の外側にいる者も、いずれ壁の内側へ招かれてしまえば同じこと」

「それまでにどれだけの血が流されていると思っている……。私たちが、どれだけの無辜の民を……」


 レイの唸りをモルオクの平坦な声が遮る。

 

「当然だ。異教徒まで壁の中へ入れることはできん。神の加護を受けたいのならば、それなりの誠意を神へ示さねばならぬ。何事も対価は必要であろう」

「他の神を信仰する者たちを惨たらしく殺すことが神への誠意だと言うのですか、モルオク」


 サヘルは怯える馬の手綱を強く握りながら、拳を震わせるレイのかたわらで語気を荒くした。

 サヘルは奥歯を噛みしめる。


「あなたの言う、聖リュシオンの加護が無くとも私たちは生きてきた。そこへあなたたちが信仰と恩を押し付けてきただけ。あなたの言う神の加護は他者から奪い取ってきたものでできている。あなた方は略奪者です」

「サヘル・オルランド。預言者の器であるお前が信仰心なき者の言葉に惑わされるとは嘆かわしい」

「私が何を信じるかは私が決めます。あなたの指図は……」


 不意に空気が震える。大地が蠢き、サヘルは驚いて暴れた馬から落ちた。怯えた馬は彼女を置き去りにして駆け出してしまう。

 レイがサヘルへ駆け寄ろうとした。その前に、高い岩の壁が現れる。地面から次々と生えてきたそれは、瞬く間にクリードとレイをその内側へ閉じ込める。

 サヘルは痛む体を持ち上げ彼らの名を呼んだ。


「サヘル、様……」

「……ジャラス殿」


 踏み出そうとした彼女を今にも消え入りそうな声が引き留める。振り返ったサヘルは込み上げてきた憤りを喉で詰まらせた。

 ジャラス・マリオネストはミトロン家の護衛として長年、王家のかたわらに控え、ケテル・ミトロンのお目付け役を務めている。ケテルの許嫁と定められたサヘルが他国の平民の生まれであっても、ケテルと同様に接した。

 そんな彼がまとっていた荘厳な鎧は輝きを失っている。傷口がのぞく鎧は彼を守るどころか、もはや彼の動きを制限する枷だった。

 彼は足を引きずりながらサヘルへと近づいてくる。


「リュシオンへ……。お戻りを……。魔女が、あなた様を惑わそうと…………」

「魔女……?」


 サヘルは朦朧としているジャラスの体を支える。レイと同じく竜人であるはずの彼も、立っているのがやっとだろう。

 彼の手に握られた槍から滴り落ちる血と肉片から、サヘルは目を背けた。


「ジャラス殿……。魔女とは、預言者のことですか?」

「エストリンドの生き残りが……。あなた様だけでなく、ケテル様まで…………。誑かそうと……。申し訳、ありませぬ……」

「……シャレム様は生きているのですね?」

「お早く……。レイ・ジールは、私が連れて戻ります……。サヘル様は陛下と、ご一緒に……」


 サヘルは胸を撫で下ろした。しかし目の前の騎士は自分ごと地面へ倒れ伏してしまいそうだ。

 黒ずんだジャラスの頬をサヘルが拭うと砂と埃の混じった血油がべったりとまとわりつく。


「ジャラス殿。シャレム様は何も悪くありません。あの方は……。ただ、ケテルの悪夢へ巻き込まれてしまっただけなのです」

「ケテル様の、悪夢……?」

「むしろ、シャレム様を誑かしているのはケテルです。あなたもこのままでは危ない……」

「何を、おっしゃるか……」

 

 サヘルはジャラスの傷口を塞ごうと手をかざすも、その手首を掴まれる。

 息を呑む彼女の腕を彼は弱々しく引いた。

 軋む手首に思わずサヘルが顔をしかめる一方、彼は咳込む。

 

「お早く……。お早く、お戻り下さい……。預言者様が、呼んでいらっしゃる…………。ケテル様を、おとめください……」

「ジャラス殿、私は戻りません。ケテルにもリュシオンの王位を継ぐ気はないのです。どうか、私たちの話しを聞いていただけませんか」

「……王位には、つかねばならぬのです。誰かが……。誰かが……つかねば…………。誰かが……やらねば……誰かが…………」

「……ジャラス殿?」


 ジャラスは顔を伏せる。言葉を詰まらせる彼にサヘルは目を瞬いた。

 

「ジャラス、何をしている。戯言(ざれごと)に惑わされるなどお前らしくもない」

「陛下っ…………陛下…………申し訳、ございません…………」

「ケテルの愚行を止められるのはお前しかいない。その者を連れて城へ戻り、ケテルを止めよ」

「ケテル様を、私が…………しかし、私は…………」


 ジャラスの顔が強張る。モルオクの声に動揺するジャラスをサヘルは訝しんだ。

 彼女の手首を掴む腕は迷っていた。普段の彼ならばこんな状況でためらうはずはない。

 まるで先ほどサヘルを置いて逃げ出した馬のように、ジャラスの視線は定まらない。


「私は……まだっ…………ケテル様だけはっ…………」

「……ジャラス殿、あなたは()()()()()のですか?」


 サヘルは震えるジャラスの手を掴み返した。

 ケテルが何故、アイギスの存在を伏せていたのか。何故、頼りになるはずのジャラスへ頑なに助力を求めないのか。今までにケテルから聞かされた『真実』と集約して出した答えに、彼女の声は震えた。

 

「教えて下さい。このままでは、あなたはケテルに殺されてしまいます……!」

「ケテル様…………! 陛下を…………! ケテル様まで、失う訳には…………!」

「ジャラス殿……! あなたはケテルと話さないと……!」


 サヘルの体が浮かぶ。ジャラスの腕を叩くがサヘルの力では到底かなわない。

 岩壁の牢獄は中が見えず、クリードとレイがどうなっているかも分からなかった。そもそも閉じ込められたふたりは無事なのか。自分がここを離れてしまえば、レイは再びのろいに呑まれてしまう。

 焦るサヘルは体を捩り、ジャラスの腕から逃れようとする。


「…………!!」


 叫びかけたサヘルは文字通り宙に放り出されていた。驚く間もなく地面を転がる。幸いにもそこまで頭を強く叩きつけられはしなかった。

 鈍い痛みを堪えて顔を上げると、ジャラスが膝をついて乱入者を睨みつけている。


「アイギス殿……?」


 頭を抑えながらサヘルは彼の名を呼んだ。周囲を見回すもシャレムの姿はない。

 彼はひどい汗を流してジャラスと対峙している。ジャラスを見ているようで、その視線は彼の後ろで成り行きを眺めているモルオクに向けられていた。

 落とした槍を手にとったジャラスがサヘルへ近づこうとすると、アイギスは彼女の前へ出てジャラスの行く手を阻む。

 ジャラスは脇腹をおさえながら唸った。


「やはりあの魔女から私を殺すよう命じられたか……。我ら同族を争わせるとは、醜悪な……」

「……ちがう…………関係ない…………」


 アイギスは首を横へ振った。

 我に返り、サヘルは慌てて岩の壁へと駆け寄る。見た目通りのかたい岩壁はいくら手でたたいてもびくともしない。

 その後ろでアイギスは息を荒げながらもはっきりとした声音でジャラスの言葉を否定した。


「あいつは、関係ない……。俺は……自分が……そうしたいから、やってる……。あいつが俺に、死ねと、命令したことは一度もない……。俺が何もしなくても、あいつは……俺を助ける……。だから、俺もそうする……。俺は、お前とは違う…………。俺に、カミサマはいらない…………」

「神に逆らい、守れるものなどあるはずがない…………!」

「俺からまた奪うなら、今度こそ殺してやる…………!」


 アイギスは声を張り上げた。

 サヘルは強い風を受けて煤だらけの地面を転がった。どこからともなく砂嵐が巻き上がっていた。クリードたちが閉じ込められた岩の影に身を隠すも、まともに目も開けない。

 身動きが取れないでいるサヘルを大きな影が覆う。おかげで少し砂と風が弱まった。うっすらと目を開けたサヘルの前に巨大な爪が置かれる。

 灰色の鱗を備えた巨体。長く柔軟な尾。連なった3つで1つの目。ねじれた角。

 ユーヒから聞いていた彼の人ならざる姿に息を呑んだ。額に冷や汗が浮かぶ。サヘルは思わず身構えていた。

 しかし彼女の心配をよそに、巨大な爪はサヘルの力では手も足も出なかった岩壁の牢を爪先でいとも簡単に崩してみせた。


「レイ……! クリード殿……!」


 砂山のように容易く岩を崩すと、顔色の悪いふたりがアイギスを見上げて表情を険しくした。

 クリードは外套で口元を覆いせき込む。


「助かったぞ、サヘル……。何が起こっている……?」

「アイギス殿が私たちを助けて下さったのです。ふたりとも大丈夫ですか……?」

「死にはしていないが……」


 クリードがレイを引っ張りあげる。意識はあるものの、彼女の視線は定まっていない。

 砂嵐が徐々に静まる。サヘルたちの前に現れたのはアイギスの体躯を超える巨体だった。まるで岩山のようなそれは低く唸り声を発する。

 巨体が身動きするだけで地面が大きく揺れた。そしてその脇腹からこぼれる鮮血が大地へと吸い込まれていく。


「ジャラス殿……!」


 サヘルの呼びかけにも彼が応えることはなかった。

 ゆっくりと近づいてくる岩山にアイギスも吼える。

 気づけば辺りは銀色の雪原から煤と砂に覆われた渇いた大地へと変わっている。

 サヘルがレイへ呼びかけると彼女は険しい表情で頷き返し、膝をついた。

 唇を噛む彼女の肩をクリードが掴む。


「サヘル、このままではレイ・ジールがもたん……。俺とアイギスが時間を稼ぐ」

「あなたを置いていくことはできません」


 クリードの言葉の先を察してサヘルは首を横へ振る。

 どちらにしてもサヘルの力だけではレイを運ぶことはできない。そして、彼女の脳裏に柔和な笑みの青年の言葉がよぎる。


「……クリード殿はレイを連れ、砦まで退いてください。どなたかが、ユーヒ様を迎えに行かなければなりません」

「待て、サヘル……」

「サヘル様……。私はまだ、戦えます……」

「私はジャラス殿と共にリュシオンへ戻ります。多少は時間が稼げましょう」


 黄金色(こがねいろ)に輝く竜が吼える。地の底から響く咆哮と太い四肢が大地を揺らし、砂を巻き上げた。

 行く手を阻もうとするアイギスはまるでトカゲのようだ。それでも彼はサヘルたちの前から動かずに姿勢を低くした。

 クリードは頭を横へ振る。

 

「バカを言うな。ここで貴様がいなくなればどちらにせよ、レイ・ジールが……」

「モルオクは次の器である私を取り戻すことが最優先のはず。女王の身に危険が迫っている今、アイギス殿の相手をしている暇はありません。私さえ取りもどせれば、すぐに撤退するでしょう。仕方のないことです。これはケテルが選んだこと。……私たちに抗う術はありません」

「次の、器……?」


 クリードは眉を潜め、サヘルは目を閉ざす。重ねたレイ・ジールの手は冷たかった。

 分かっていたはずだった。『サヘル・オルランド』の人生を知っている彼が、サヘルを生かしておくはずがない。今でも『サヘル・オルランド』は自身の目的を諦めた訳ではない。

 そんなサヘルの心の内も、彼は知識として知っているのだろう。


「お前はそれで良いのか?」


 サヘルとレイの手にクリードの手が重なる。顔を上げたサヘルへ、彼は声を荒げた。


「ケテル・ミトロンは本当にお前たちの犠牲を選んだのか? 選んだとして、お前たちはそれで納得するのか?」

「…………」


 渦巻く黒い雲から降る厄災。大きくなる地鳴り。欠けた羽を広げるアイギスの咆哮。

 それらが不意に白く消えた。

 とっさに目を閉じて手のひらで顔を庇うも、くらんだ瞼の裏で白い光がちらつく。強烈な白い光はすぐに収まったらしかった。サヘルは恐る恐る、瞼を持ち上げる。

 クリードが彼女のかたわらで息を呑んでいた。彼の視線の先は南を向いている。

 暗い曇天と、その下にいくえにもそびえる城壁が遠くに見えた。その境で太陽のごとく、辺りを照らすモノがある。

 三対の白い翼。しなやかな四肢と、体よりも長い尾。額からまっすぐに伸びる角。雪よりも白い真白に覆われた、輝く神秘。

 ソレが澄んだ咆哮をあげると、ジャラスとアイギスの動きがぴたりと止まった。耳障りだった魔獣の叫びも、まるで聞こえなくなった。

 三対の翼が大きく羽ばたく。その羽ばたきひとつで、厚い暗雲が裂け、澄んだ青空がサヘルの視界に広がった。

 柔らかな風がサヘルを撫でていく。震えていた手に感覚が戻り、呼吸が楽になる。

 サヘルの手をレイが握り返した。


「ケテル、様…………」

「え……?」

「なんだと……?」


 うわ言のようにレイが発した名にクリードとサヘルは目を瞬いた。

 遠くに輝く真白の姿はこの距離でも見えるほどの大きさ。つまりは、目の前のジャラスよりも大きな存在になる。それがあの、華奢で穏やかな青年とは信じがたい。

 ジャラスはサヘルと同じ方向を見上げ、その巨大な体を縮めていた。

 真白の姿は徐々に薄くなる。雲が月を隠すように、その輪郭は青天の空に消えた。


「……おさまった?」


 クリードは困惑ながらに自身の手のひらを握りしめる。

 サヘルが彼と、膝をついているレイを見ると、彼らの顔色は普段通りに戻っていた。サヘル自身も胸に手をあて、不安と恐怖ではちきれそうだった鼓動が穏やかになっていることに気付く。

 しかし静寂は一瞬だった。

 辺りを再び砂嵐が襲い、サヘルは顔を覆う。

 クリードの耳にはわずかにサヘルの悲鳴が届いていた。それでも目を開けることすら許されず、クリードは強風に煽られ地面へ伏せる。

 

「サヘル様……!」


 自身の脚で立ち上がったレイが腕を伸ばすも、サヘルの声は遠ざかる。

 砂嵐はあっという間に彼らを腰まで埋めた。埋もれそうになるふたりをアイギスの体が覆う。

 

「サヘル様………………!」

「…………」


 砂嵐が収まる頃には、王の姿も、巨大な黄金色の竜の姿もなかった。

 さらさらとアイギスの体から滝のように砂が流れていく。

 レイは膝から崩れ、遠くそびえる城塞の陰を呆然と眺めていた。

 苛立ちげに唸ったアイギスが、ジャラスが残した砂の山を手当たり次第に壊す。


「おい……! 止めろ……! 止めないか、阿呆……!!」


 舞い上がる砂にクリードは堪らず口元を覆う。

 クリードが声を荒げるとアイギスは尾で地面を強く叩いてぐるぐると唸った。


「腹が立つのは分かるが落ち着け……! ユーヒはどうした。どこかへ置いてきたのか? それともラーストーが一緒か?」


 アイギスは体を伏せ、長い首で頷いた。

 自身の身体にかかった砂を払い落とし、クリードは息をつく。


「そうか……。ひとまずは安心した。しかし、迎えに行くにも、急ぎサヘルも追わねば……」

「サヘル様は私が……。私が必ず取り戻します……。クリード殿は、急ぎユーヒ様を……」


 うなだれながらも、レイはまっすぐにクリードとその後ろのアイギスを見上げた。

 アイギスが体を震わせる。降り積もっていた砂が舞い上がり、再び砂を被ったクリードは無言で髪を払った。

 

「お前ひとりじゃ、どうにもならない。俺も行く。ユーヒも行くと言うだろう」

「その格好で話せたのか、お前……?」


 頭上から聞こえてきた声にクリードは振り返る。

 レイも感嘆の声を漏らして立ち上がった。


「左様に竜の身を操れるとは……。アイギス殿には魔法の才があるのですな……」

「……知らない。初めて知った」

「話せることに気付いてなかったのか……」

「違う。今まで話せたことはなかった。それに、こんな思い通りに体を動かせるのも、初めてだ……」


 長い首をもたげてアイギスは左右にうねる自身の長い尾を眺める。


「それよりもこのままあの女を……。サヘル・オルランドを、追うことになるだろう。ユーヒの迎えは必要ない」

「ラーストーだけでここまで連れてこられるのか? 魔獣がまだうろついているだろう」

「また、厄介事に首をつっこんだらしい。妙なモノを連れてきた」

「妙なもの、とは……?」


 不意に辺りが暗くなる。見上げると、三度巨大なその姿。

 真白に輝く神秘とは対照的な、夜の暗闇のような艶やかな漆黒の光沢は軽やかに旋回し、地面へ近づいてくる。

 上空を覆い隠すその姿にふたりは肝を冷やした。

 アイギスはひとり、不満そうに鼻息を鳴らす。


「俺だって……。背中に乗せて、とぶくらいできる…………」


 そんな小さなぼやきは大きな羽ばたきにかき消された。

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