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49.会いたくないヤツほど記憶に残る

 雪は止んで、夜空へ月が浮かんでいるのを久々に見た。半分に欠けた月が雪原を照らして足元が銀色に輝いている。

 優陽を背中におぶり、アイギスは枯れ木の合間を縫っていく。冷たい風が時おり足元の柔らかい雪をさらって巻き上げた。


「今年になってやっとコートが着れたね」

「静かにしてろ」


 出てくる時にサヘルから厳重に巻かれたマフラーへ顔を埋めて優陽は呟いた。アイギスの口からはかれた息が白く浮かんでは消えていく。

 膝下まで積もった雪もものともせず、彼は足早に枯れ木の森を進む。クリードから渡されたコートに身を包んだ彼は一層体格が良く見える。夜道とは言え、雪の降っていない今夜は見つかりやすいだろう。

 もっとも、優陽の目には数歩先が辛うじて見える程度だった。

 

「アイギスは初めて会った頃もこれくらいじゃ寒くなかったの?」

「口を閉じていると死ぬのか?」

「そうかも。静かだと余計なことまで考えちゃうんだぁ……」

「…………」


 ため息がまた白く浮かんでは消える。

 アイギスは歩調を変えずに進み続けた。


「……お前がいるから寒くなかった」

「子どもの体温って高いって言うよね」

「……そうだな」


 沈黙。彼が自分から口を開くことはあまりないので以前もこんな感じだった。

 思えば彼と出会ってもう7年近くが経つ。自分は数か月程前までケテルのおかげで眠りこけていたので全くそんな感覚がない。空白の期間、周囲と少し認識がズレていることが近ごろ地味に悩ましかった。

 優陽にとっては一瞬で過ぎ去った5年の間に、世界は目まぐるしく変化し、まるで別世界のようだ。


「突然いなくなってごめんね」

「……それは、もういい」

「巻き込んでごめんね」

「それは……。お前とは関係ない」

「でも、私がシャレムちゃんになってなかったら、アイギスは私のおもりをする必要もないよね」

「お前がいなかったら、俺は死んでる」


 ぎゅ、ぎゅ、と。凍り始めた新雪をアイギスの足が踏みしめる。


「奴の言う通り。オレは一度死んだ」

「……心臓が止まったってこと?」

「思い出した。あのアバズレの言われて、エストリンドの屋敷に行って……。夜まで待った。見張りを殺したら、すぐに気付かれた。女と子どもが逃げていく中で奴の気配がしたから、屋敷の人間だと思い込んでいた」

「奴って、ケテルのこと?」


 アイギスは頷く。


「追いかけて殺す前に、エストリンドの当主が出てきて、俺を殺した。俺も手応えがあった。たぶん、あいうちだった。その後の記憶は、お前が俺を外に引きずり出すまで、よく覚えてない」

「……っていうことは、アイギスはシャレムちゃんを殺してないんじゃない?」

「…………?」


 はた、と。アイギスの歩みが一息止まった。

 そしてまた暗がりに向かって歩き出す。


「……それも、覚えていない。女がお前を、シャレム・エストリンドを連れて逃げていった。……気はする」

「たぶん、それはシャレムちゃんのお母さんじゃないかな?」

「分からない。女は侍女を連れていたから、その可能性は高い」


 優陽も首を傾げた。

 今さらだがあの屋敷にはアイギス以外にも預言者の刺客がいた。『シャレム・エストリンド』が彼に殺されていなかったとしてもおかしな話しではない。なんなら優陽はケテルが殺したとしても不思議に思わない。むしろ疑っている。


「そうか……。俺はお前を殺してないのか……」


 ぼそりと。かき消えそうな呟きが静寂の景色の中に白くはき出された。

 月が雲に隠れると、足元も見えなかった。静寂の中、足音と冷たい風の音だけが耳へ届く。

 優陽は再び口を閉ざしたアイギスの背を擦る。


「……やめろ」

「寒いのかと思って」

「寒くない」

「そう?」


 ぶっきらぼうな返事を受けて、優陽は手を止めた。

 彼の背中へ耳をつけると、力強い鼓動が聞こえる。こんなに大きく聞こえるものなのだろうか。


「これが終わったら、一緒にお墓参りに行こうね」


 誰が『シャレム・エストリンド』を殺したのかは謎のままだ。しかし彼があの場にいた人間を殺したことに変わりはなかった。

 彼の意思でなかったとしても、彼に家族を殺された者たちが彼を許すのは難しいことだろう。彼は殺した人間の名や顔も覚えていない。ただ、エストリンド公を殺すのに邪魔だったから殺した。


「お前たちは、いつも土の下の死体に何を祈っているんだ」


 アイギスは暗がりの中を迷わず進む。


「死人の声が聞こえる訳でもないのに。どうして話しかける」


 優陽には当たり前のことも、彼にとっては当たり前ではない。だからと言って彼を責めるのは違うし、自分が全てを肯定してしまうのも違う気がする。

 優陽は「どうしてだろうね」と目を閉ざした。彼の背中はこの寒さの中でも不思議と快適だ。


「私が死んだ後にアイギスも試してみてよ」

「お前が死んでいるのに、試す意味はあるのか」

「何事もやってみないと分からないじゃん?」

「お前は死ぬ気なのか」

「死にたくないです」

「なら、この会話にも意味はない」


 雲が薄れてくると、前方にゆらゆらと輝く小川が見えた。月の光を反射する川に、アイギスは躊躇いなく入っていく。


「それに、死体はきらいだ」

「私が死んだら、きらいになる?」

「……死体になったらお前じゃない。死体は死体だ」

「それを言ったら、私はシャレムちゃんの死体に取りついてる霊みたいなものじゃない?」


 当然ながら、今この世界で死ねば『天羽優陽』は存在すら残らない。『シャレム・エストリンド』の墓は在っても、『天羽優陽』の墓はあり得ない。

 不意に目を背けていた真っ暗闇へと呑み込まれる。


「だから、死体は死体だ。お前は土の下にはいない。ここにいるのがお前だ」

「…………」


 そうしてまた、引き戻される。

 やっぱり深く考えない方が自分のためだと思った。無くなった体をいくら恨めしがっても戻ることはない。

 アイギスは膝より上まで水に浸かってもざぶざぶと進んでいく。見ているこちらが凍えてしまいそうだ。

 優陽は温かい背中から顔を上げてアイギスの横顔をのぞき見た。

 

「……ところで、どうして川に入ったの? 寒いし……。水、嫌いだったよね?」

「雪が降らないと足跡が残る。足跡が見つかれば追手がくる。竜人相手にそこまで意味はなさないが」

「川から出た後、アイギスの足は大丈夫……?」

「脚を切り落とされでもしない限りはどうにでもなる」

「無理はしないでね……」

「お前に言われたくない。黙って休め。眠れるなら寝ておけ」

「でも、いざって時にうとうとしてるのも……」

「眠いから変なことを言い出したんじゃないのか」


 アイギスと目が合う。

 どうやら彼なりに心配してくれていたようだ。もしかしたら顔色が悪かったりするのかもしれない。フロスト家の城を出てから鏡を見ていないのでその可能性はある。

 本来ならほとんどクリードと歳の差は無いにもかかわらず、未だこの体は6年前のままだ。健康的な生活をおくっているとも言い難い。

 優陽は頷いた。


「わかった。じゃあ、お言葉に甘えて……」

「待て」


 水を蹴る音が止み、彼の足は再び新雪を踏みしめている。

 微かなせせらぎだけが静寂の中を流れていた。思えば辺りがやけに静かだったことに気付く。

 アイギスが見ている先には、月光に輝く鎧。夜の暗がりをあまねく照らすような、黄金色の輝きを纏う鎧をまとった騎士だった。


「……前にもこんなことあった気がするなぁ」

「お前は竜を引き寄せる体質でもあるのか」

「うーん……。シャレムちゃんの記憶にはないねぇ……」


 単純に、追われる身だからだろう。

 そして今度のボス戦も圧倒的に不利だった。黄金色の鎧をまとった騎士の向こうに広がる暗がりから、無数の視線を感じる。

 サヘルは彼を何と呼んでいただろうか。

 優陽はアイギスの背中から顔をのぞかせた。

 

「お久しぶりにございます。シャレム・エストリンド様。……と、申しましても。貴女は覚えておられないでしょうが」

「……良い月夜ですね、ジャラス・マリオロネスト殿。あなたとお会いしたのは、私の誕生日以来でしょうか」

「これは失礼いたしました。当時はまだ貴女も幼かった」


 黄金鎧のマリオロネスト。優陽とは初対面だが、彼と『シャレム・エストリンド』は顔見知りだ。

 彼女の6歳の誕生日パーティー。まだ三国の関係が悪化しきる以前。フロスト家のクリード同様。ケテルもミトロン家の後継としてエストリンド家へ挨拶にやって来た。

 そのケテルの護衛をしていたのが彼だ。何故、ケテル以外の人間にまるで興味のないシャレムが彼、ジャラスを覚えている理由についてはそれほど深い謎ではなかった。

 ジャラスは礼儀正しくも兜を脱ごうとはしない。


「やはりあの日。貴女がケテル様をたぶらかそうとしたあの時。私の首を差し出してでも、私は貴女を罰するべきでした」

「あー……。その節は、申し訳ありません……。私ったら、はしゃぎ過ぎて、ケテル様へとんだご無礼を……」


 お前を下ろさない。という強い意思がアイギスの腕から伝わってくるので、優陽は地面に下りることができない。が、それが正解かもしれない。

 コレばかりはジャラス・マリオロネストへ同情する。『シャレム・エストリンド』はケテル・ミトロンから「申し訳ありませんが多忙のため祝辞のみとさせていただきます(要約)」と前置きされたにもかかわらず、彼女は挨拶が終わったケテルを引き止めた。誰の目から見ても口説いてた。しかし周囲の反応など彼女にとっては些末過ぎて目にも入らない。

 もちろん、彼女の両親は可愛い愛娘の言動を止めはしない。立場的にジャラスは口出しができず、いい気分ではなかったろう。

 そしてケテルから離れようとしないジャラスを、シャレムも疎ましく思っていた。恋する少女の完全な逆恨みだ。

 もっとも。()()ケテル・ミトロンはそれを全て承知の上で素っ気ない祝辞だけを彼女へ贈ったはずだ。隣で自分の臣下が腹を立てていることも気付いていたに決まっている。


「上辺だけの謝罪は結構。サヘル様はどちらにおられるか」

 

 激おこ。身の丈以上の槍の柄が地面を揺らした。

 優陽は小声でアイギスへ問う。


「どうしよ……」

「逃げる」

「囲まれてない?」

「雑兵の足だ。たかが知れてる」


 アイギスは自信満々の様子。優陽は悩んだ。

 雑兵はまけたとしても、目の前でご立腹の騎士様は難しそうだ。レイ・ジールの時はラーストーの援護があったし、身を隠す森があった。

 一方。現状では、優陽を担ぐアイギスの両手は使えず、周囲の森は比喩でなく枯れ木のにぎわい。身を隠す場所もなく、逃げ込む先であるラーストーの別働隊の正確な位置も分からない。

 優陽はチラリと空を見上げる。山裾が僅かに白んできていた。辺りが明るくなればラーストーを見つけやすくなるだろう。ラーストーもこちらに気付いてくれるかもしれない。

 それには少し時間がいる。


「……なぜ、サヘル様のお名前が出てくるのでしょうか。かような地に次期、預言者様であるサヘル様がいるはずもありません」

「相も変わらぬ厚顔無恥。話しをするだけ無駄のようですな」


 ヘイト管理もう少ししっかりしてくれませんかね、ケテル様。

 ジャラスが手で合図を送ると周囲から弓の(つる)を引きしぼる音が聞こえた。このままだとハリネズミになるらしい。

 しかし、彼の反応で分かったことがある。


「そこまで知っておられるのであれば、サヘル様がなぜ私達へ協力を申し出たのかもご存知ではないのですか」


 サヘルがこの地にいるのを知っているということは、預言者。あるいは国王から彼女の離反の理由を聞かされたはず。

 ジャラスの声は低くくぐもる。


「信仰にあついサヘル様を惑わし、その上……。我々の若き同志をも惑わす魔性の化身。そのような魔女の話しに耳を傾ける気はない」


 泣きたい。泣きたくて笑ってしまう。

 一文無しの令嬢ではあるが悪役令嬢に転生した覚えはない。

 

「サヘル様が信仰にあついお方と分かっていらっしゃるのであれば、それこそ不思議に思われないのですか? あの方がこんな小娘にそそのかされると? それこそサヘル様への」

「放て」


 少しくらい話し聞いてくれたって良いじゃんんんっ!!


「口を閉じてろ。舌を噛むぞ」


 内心。悲鳴をあげる優陽に、横へ飛び退いたアイギスが実に冷静な忠告をくれた。

 最初の矢の雨が外れたと分かった瞬間、今度は火の玉が二人を掠める。上へ横へととび跳ねるアイギスの背中に優陽は必死でしがみついていた。


「冬の森に火を放つとか正気ぞ?!!」

「自分を殺しに来たヤツへ正気を尋ねてどうする」


 アイギスの足は強く地面、時には木の幹を蹴り、スピードを全く落とさない。体感、車で高速道路を走ってるくらいには景色が流れていく。もっと速いかもしれない。

 「おんぶ紐なんて恥ずかしいからヤダよぉ……」と。駄々をこねたことを謝らねばならない。なかったらとっくに地面とキスしている。


「部隊とヤツを引き離す。掴まってろ」


 さらに速度が上がる。かと思えば、高く上昇して気持ちの悪い浮遊感がぞわぞわと腰の辺りを這い上がる。そして着地。また走り出す。

 さながら、セーフティのないジェットコースターと言った所。ついでに後ろから矢とか火の玉とか得体の知れないものがとんでくる。アトラクションとしては不向きだ。

 アイギスの脚は宣言通り追手を引き離し始めた。矢はとんでこなくなった。火の玉もずっと手前で落ちて届かない。

 レイ・ジールの炎とは違い、辺りを焼き尽くすほどの火力はない様子。


「……いや、それは反則でしょ」


 そうして、ちょっと安堵しようものなら現実はそれを許さない。

 例えば進行方向の地面が突然、地鳴りをあげながら盛り上がり始めたりだとか。


「なん……?」

「サヘル・オルランドが言っていただろう。あの男は騎士の中でも国王のお気に入りだ。次期国王と預言者の護衛役。魔術も魔法も先の雑兵とは格が違う」


 そう言って、アイギスは鼻であしらった。


「だが、ヤツには見えるものも見えてない。あの毒ヘビに見えてるものでさえ見えていない」

「つまり、スロース殿より目が悪いってこ……」


 激しく横へ揺られて本当に舌を噛みそうになった。

 巨大な波のように迫る地面をアイギスはそれ以上の跳躍力でとび越える。


「ヤツは見えてるのに見えていないと思い込みたいだけだ。あの女の竜騎士に見えていて、ヤツに見えていないはずがない。お前が説得するだけムダだ」

「うう〜ん……。ごめん、よく分からない……」

「今に分かる」


 大地の波を飛び越えたアイギスの前には、再び黄金の鎧をまとった騎士が立ち塞がっている。

 思わず優陽は背後を振り返った。他の兵士たちの足ではやはりアイギスに追いつけないようだ。

 山裾がくっきりと浮かび上がり、代わりに月や星は姿を潜めていた。白いまっさらな大地に立っているのは彼だけだった。


「私を孤立させた所で事態は変わらん」


 槍の柄が地面を揺らすと、優陽たちを囲むように地中から岩が生えてきた。柔らかい雪が辺りへ飛び散り、むき出しの硬い大地が現れる。


「今ごろエストリンドの軍勢は夜襲を受け、立て直しをはかるのが精々。率いるべき将が不在の寄せ集めなどその程度」

「…………」


 やはり先に手をうたれていたらしい。

 敵の援軍が来ると分かっているなら、到着を妨害するのは当然だろう。ましてやその援軍が戦の趨勢を左右するのであれば余計に。

 アイギスはジャラスから目をそらさずにゆっくりと歩く。ジャラスもこちらと一定の距離を保ち続けた。


「サヘル様は何処か。答えねば女とて容赦せぬぞ」

「……あなたたちの国では、あなたたちの神様を信じていないと人間扱いすらされないと聞きました。信じていたとしても、報われないことも。サヘル様から聞きました」

「貴様……」

「そもそも。あなたたちの勝手な都合で無理矢理サヘルを連れてきたのでしょう。そんな人たちの元へ、サヘルを返したくはありません」


 思ったことは言っておいた方が良い。後で言おうと思っていたら伝えられないで終わるかもしれない。

 ソースは気づいたら体がふっとんでいた上、別世界に転生させられた私。ただしそれに伴う結果には自分で責任をもつ必要がある。よくよく考えるべきだ。

 地面がぐらぐらと揺れ出した。黄金色の鎧が朝焼けよりもまばゆい。

 アイギスが腰を落とす。

 

「言っただろう。説得はムダだ」

「でも、サヘルとレイの知り合いだし……」

「なら、何故。ケテル・ミトロンはヤツへ、毒ヘビやあの竜騎士のように声をかけていない」

「…………」


 『シャレム・エストリンド』の記憶を垣間見ても、2人の関係はリュシオン王国を出て行ったスロースよりもよほど親しい間柄だ。

 ケテルは彼と同じ立場にあるレイ・ジールをサヘルと共にクリードへ預けた。レイ・ジールとサヘルも、ケテルがこれから何をしようとしているか当人から聞かされているようだ。

 一方。槍を構える黄金の鎧騎士は預言者の言葉を信じて優陽の目の前に立ち塞がっている。触れるのはサヘルとレイ・ジールのことだけで、ケテルのことには触れていない。ケテルに尽くしていた男が、ケテルから真意を聞かされていれば、何故こんなことになっているのか。

 ジャラスの身の丈以上の槍が横へ奮われると、地面が音を立てて裏返る。高く跳躍したアイギスはそのまま近場の太い木の枝へ難なく着地した。

 唇を噛みしめて押し黙る優陽に、彼は淡々と事実を述べる。


「ケテル・ミトロンは、ヤツを救うことをすでに諦めている」


 槍の切っ先が再び大きく地面を払った。割れた大地が枯れ木ごと優陽たちを呑み込もうと迫る。

 そこへ、青白い閃光が走った。

 辺りへ響き渡る轟音に堪らず、目を閉ざして、耳を塞ぐ。突然の出来事にまぶたの裏がチカチカしている。

 音からして、恐らくは雷だ。朝焼けも間近な空にそんな予兆はなかったはず。

 恐る恐るまぶたを持ち上げる優陽の目にはやはり、朝焼けで薄く紅をひいた日の出が広がっている。


「おっと……。外したか。意外と身軽だな」


 耳を塞いでいた手を退けると軽薄な笑いが聞こえてくる。

 ジャラスの姿は先ほどの場所よりずいぶんと優陽たちから遠ざかっていた。兜の下にある彼の表情を読むことはできないが、怒っているのは確かだ。


「初めまして、四騎光(しきこう)のおひとり。ジャラス・マリオロネスト殿。お会いできて光栄だ」


 後ろでひとつに束ねられた黒い長髪が朝の冷たい風に流れていく。

 隻眼の男はジャラスとは対象的な細身の槍を器用に回す。


「エストリンド家が忠臣。ラーストー。ご主人様のためならいつだって駆けつけるぜ。なぁ、お嬢?」


 こちらを見上げたラーストーは口角を持ち上げる。

 その不敵な笑みに、優陽の口からは自然と深いため息がはき出されていた。

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