19.残機ゼロからが本番
腹が立って仕方ない。
自分の不甲斐なさと。理不尽極まりない状況と。無力な体と。
天羽優陽はどこかで思っていた。
いざとなれば、スロースは自分をおいていくだろうと。
それがまた腹を立てている原因かもしれない。
シャレムは借り物のローブを体に巻きつけ縮こまる。
辺りに響く轟音。立ち昇る火柱はこの世のものとは思えない。そもそも『この世』は天羽優陽が生きていた『この世』ではないので何ら不思議なことではなかった。
地面を覆っていた白い雪はすっかり大地へと吸い込まれた。枯れ草に火種が広がり、渇いた地面はひび割れる。
騎士は執拗にスロースを追いかけていく。鎧兜の下から発せられる声に怒りを感じる。何故かは知らないが、スロースはあの鎧の騎士を怒らせたらしい。
シャレムは震える脚を叩いて立ち上がる。
踏み出した地面はぬかるんでいて、彼女の白い素足を呑み込んだ。ただでさえ不自由な足は思ったよりも深いぬかるみに取られ、何度も転ぶ。
それでも、彼女はスロースに示された方向とは逆へと進み続けた。
死にたくはない。だからと言って納得もできない。
少なくとも自分を駅のホームから突き落とした男が、また自分を理由に別の人間を意図的に巻き込んだ上、見殺しにしようとしている。それは事実だ。
泥にまみれた重い足を引きずり、彼女は夕暮れの空を貫く炎の柱を睨み付けた。




