24話
体が誰かに持ち上げられるのを感じる。
ストラが目を開くと、アルマフィアが今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていて、そこで自分は今彼女に抱き抱えられているのだと理解した。
「ストラ……」
もう全ては終わったのですか。
そう言いたいが、声は出ない。それどころか、指一本動かせない。瞼を上げるのが精一杯で、まさに後は死を待つだけの状態だ。
彼女はそんなストラの頬に触れてから、髪を指先で梳いた。
「あんなに綺麗な金色だったのに」
震える声でそう呟く。見れば、両翼からもかつての穢れなき純白は一切の漆黒に飲み込まれている。変わり果てたその姿に耐えきれず、アルマフィアは目を背けてストラの胸に顔を埋める。
拗ねた子どものような仕草に内心ストラは苦笑した。もとより、自分の全てに価値など感じていなかった。それなのに、目の前の神様は本気で私のことを悲しんでくれている。私が私を失うことを憂いてくれている。その優しさがとてもくすぐったくて、嬉しくて。
「今、戻してあげるからね」
しばらくそうしていた彼女だったが、やがてストラに優しく口付けをする。初めてメギドライトを渡したあの日と同じように。
口を離した彼女は涙を流しながら微笑む。
ああ、この感覚もあのときと同じだ。
失われてもう戻らないはずの力が体の奥底から湧いてくる。体の節々の感覚が戻っていく。
そして、髪色も、翼も。元の彼女へと。
一つに戻ったメギドライトの修復力は神の呪いを凌駕し、完全に体から跡形もなく消し去っていった。
「おかえり、ストラ」
「ただ今戻りました、アルマフィア様」
もう声も出るまで回復したようだ。
二人で顔を見合わせて笑い合った。
立ち上がって見回すと周囲には二人以外誰もいない。それどころか、物一つない空間だった。天井も壁もないが、立てていることから床は存在しているようだ。空間の全てが虹色のような、違うような不思議な色をしてマーブル模様を作り、川のように絶えず流れていく。
「ここはどこなのでしょうか?」
「ここは世界の果て。この世界の全ての時間が交差する場所」
「そのような場所に私たちは辿り着いたのですね」
「そう。神が世界の担い手の時代は終わり、これからは人が担い手となる時代がやってくる。私たちは死んでしまうわけじゃない。今度また世界が人の手にも負えないような状態になったら、彼らがまた超常の存在の頂点である神に祈りを捧げる時代がやってくるでしょう。そうしたらそのときはまた私たちの出番。世界の担い手は私たちに回ってくる。だから、それまでの間私たちはしっかり体を休めておかないと。世界の窮地を救ってほしいと祈りを捧げて現れた神が疲れ果てていたら、彼らも安心して世界を任せられないでしょ? だから、それまで私たちは眠るの」
それを聞いて想像したストラは思わず吹き出してしまう。
「確かに、そんな状態では彼らも困ってしまいますね」
「うん。だからそのために」
アルマフィアは手を差し伸べてくる。
「さあこの手を掴んで、ストラ」
手を取ると、世界は徐々にひび割れていく。
「やって来ますよ。私たちにとっての夜。彼らにとっての朝が」
「ああどうか、次の世界は幸せに満ち溢れたものでありますように」
──祈りを捧げられる存在であるその神は、一体誰に祈りを捧げたのか。
崩れていく世界に、二人の笑い声が溶けていく。




