プロローグ
あなたたちは祈る。神に祈る。自らのため。誰かのため。自分ではどうすることもできないから、超常の存在の頂点である神に、ひいてはその力に縋り付く。その存在があなたたちの味方である保証など、どこにもないというのに。
「……してやる」
「うん」
なんとかしてほしい。なんとかできるはずだ。だって、神なのだから。神ならばそれくらいできるはずだ。だが、あなたたちは神の何を知っている?
「殺してやる」
「うん」
都合の良いときに、都合の良いことを並べて。どれほど着飾ろうと、その本質は気持ちの押し付けに他ならない。雨。そう、あなたたちの祈りは雨に似ている。絶え間なく降り注ぐ雨粒の前ではどれほど声を上げようとも、とうにかき消されてしまう。
「どうしようもないほどにお前たちが憎い」
「そうだね」
「この身が果てようとも、お前を絶対に許さない」
「そうだよ。そうしないとこの世界は終わってしまうから」
祈られる側の気持ちなど、きっと想像もしたことがないのだろう。
「苦しめ……。絶対的に、絶望的に……」
「あなたたちの憎しみによって生み出される祈り。そんな冷たい祈りでこの世界は回っているんだ」
だが、もしも彼らの心があなたたちと何ら変わるところはないのだとしたら? あなたたちと同じように悩み、苦しんでいるのだとしたら?
「えて……しまえ……。こんな、世界……」
「それなら、今から私があなたたちの神様になってあげる」
そう、一番の問題はこうだ。
「だからもう少し、あと少しだけ私のことを憎んでいてね」
────救いの手を差し伸べた神には、一体誰がその手を差し伸べる?