目指すは空
その日、三者会合が終了した後、アマーダン公爵は自らの邸宅の席で嘆息していた。
「いかがしましたか」
ちょうど終わったころを見計らって、執事がアツアツの紅茶を公爵がいる部屋へと持ってくる。
知恵袋として重用している公爵にとって、この執事はとても大切な懐刀だ。
「ああ済まない、少し知恵を貸してほしい」
「わたくしでよろしければ、いくらでもお貸しします」
紅茶は公爵がいるテーブルの上に置かれる。
いつも通り、角砂糖は1つ、牛乳はなし、濃いダージリンの香りは部屋いっぱいを埋め尽くさんばかりに広がる。
テーブルの上は会合で使ったであろう資料と、オンライン会議のために使っていた30インチになろうかというパソコンのモニター、キーボードやマウスといった周辺機器が置かれていた。
「実はというと少しばかり悩んでいるのだよ。手野武装警備は海上部門が非常に強力だ。彼らの海の戦力は米軍をも上回り、それが極めて堅牢な鎧となっている。一方でテック・カバナー総合軍事会社は陸上部隊主力だ。彼らはよく研がれた刀のように、凶暴な警察犬のように相手に一度かみついたら死ぬまで離さないだろう。しかし翻って我々はどうだ」
「つまり中心核となる部門が存在しないと、そうおっしゃるのでしょうか」
「そうだ。先祖が築いてきた軍事部門といえばグッディ子爵記念学院、つまりは軍事学校だけだ。我々は食品系の財閥一門として、紅茶とワイン生産には一日の長がある。だが彼らのように、自らの国体を守るだけの剣も鎧も存在しない。これらの不均衡をどうにかしたいと考えているのだよ」
「海と陸、我々はどちらかといえば海側に立つべきなのでしょうが、そうであれば手野グループにかなうわけもなく。かといって陸側に立てばテック・カバナー財閥に食われかねない。そうお考えなのでしょう」
「まさしく」
さすがは以心伝心の執事だ、と公爵は手を打って喜んだ。
そして、それを打開するために策が必要なのだと続ける。
「では」
と執事は公爵に提案した。
「盾も矛もあるのでしたら、それらを使うための『目』となりましょう」
「目、か」
「そうです。海も陸も太刀打ちできずとも、我々にはまた一つ違う道があります。空から敵情を観察し、的確に指示をするために必要な知識を提供するという役目です」
執事は天井を、さらにはその上にある空を指さしてみせた。
「空、か……」
「そうです、空です。空軍を組織することは、テック・カバナー財閥にも手野グループにも恩を売ることはできるでしょう。我々が取得したデータを彼らに提供するのです。彼らが手足となり、我々が目となり考える。我々が上に立つことはそれでできるでしょう」
「では、新たに企業を組織するべきなのか。今の軍事学院では空軍を作る領域がないから別の場所に作ることは確実になるが」
「それがよろしいかと思われます。空軍を主力としますので、政府とは必ずあらかじめ話をつけておくほうがよろしいと思われます」
「よし、ではさっそく提案をしよう。幹部らを集めてくれ。話があると」
「承りました」
お辞儀をし、公爵の部屋から辞去する。
のち、アマーダン公爵は、アマーダン防衛会社を設立し、航空部門を主軸とした民間軍事会社とした。
これにより、陸のテック・カバナー、海の手野、空のアマーダンという3強が出そろい、彼らの協力体制はいよいよ強固なものとなっていく。




