*◇ 夜の騎士ザット ◇*
『ヴィジョン』では、個体の潜在能力に合わせて、想像力でそれがアップする。
ゲーム大好きなザットと、空想大好きなアヤナは、建設途中の夜の街を走っていた。
「あっち、かもっ」
「こっちにもあるっ」
その街には、小さな小さなものだが、愛庭獣の欠片がいくつもある。
閉店したショーウインドウに飾られた車の玩具、その中に『欠片』を見つける。
欠片回収には、ある程度距離が近くないといけない。
アヤナは魔法石指輪『藏之助』を向けて手をかざした。
すると淡い光が玩具から出てきて、尾を引くような軌道でゆっくりと回収される。
吸い込まれた『欠片』は、藏之助の蔵の中に保存される、というわけだ。
「おい、回収できたか?」
少しぼうっとしていたアヤナが、急いでそちらに振り向く。
「こっちオーケー、そっちは?」
「猫の首輪の鈴の中にあった」
「なんでなんだろう?」
「知らねぇ。散らばった欠片の気配は少なくなって来てるな」
「夜明けまでには間に合うかな?」
「うーん・・・ぎりぎりかもしれないな」
「うーん、ふたてに別れようか?」
「落ち合う場所は?」
「おそらく、あの崖の上。登るために両側に階段あるみたい」
「あの崖の上から回収できると思うか?」
「微妙なところ。だからって、クレーンのところ見張りがいるしなぁ・・・」
「事情は通じなさそうだ」
「強行突破か、崖の上に登ってみる・・・崖の上でとりあえず落ち合おうっ。じゃっ」
「・・・やべぇ、女を夜にひとりで行動させてる、俺っ。やべぇっ」
そう言うとザットは、アヤナとは反対方向に走りだした。