夏の記憶
閲覧ありがとうございます。これは初心者の書いたオリジナル短編小説です。
今でも夏になると思い出すのは不思議な少女のことだ。
一体からあの夏から何年がたっただろうか━━━━
その日、俺はいつも通り薄暗い建物を横目に足早で帰ろうとしていた。
ついさっきまでイマイチ成績が良くないなどと塾の先生に叱られていた俺の機嫌は大層悪かった。
(くそ…雨まで降ってきた…なんであんなに高校受験でごちゃごちゃ言われなきゃいけないんだ…)
時刻は22時半。ふと俺は足を止めた。近くの路地裏の方から微かに動物の鳴き声らしきものが聞こえてくる。興味本位で俺は路地裏に入った。
声の主は痩せ細った子猫だった。ダンボールの下に隠れて雨に怯えている。
俺は後先考えずに子猫を抱きかかえると、そのまま全速力で自宅に走った。
帰宅してとりあえず応急処置をした。
(ふぅ…なんとか助かったかな)
その後子猫を風呂に入れ、ミルクもあげた。行き場も無さそうなので家で飼うことにした。
一生懸命世話をしたおかげか、子猫はすくすくと育ち綺麗な白猫になったのだ。
特にこれと言って名前は付けていなかったが、ミィ…と鳴くので俺は勝手に「みぃちゃん」と呼んでいた。毎日がみぃちゃんのおかげで少し楽しくなった。
突然、みぃちゃんが消えた。
俺が塾に行っている間に行方不明になっていた。
顔がパンパンに腫れるほど泣きながら必死に近所を探し回った。けれどみぃちゃんが戻ってくることは無かった。
辛くて忘れようとして、そのまま俺は高校生になった。
高一の夏休みのことだ。
旅先で不思議な少女と出会った。どこかで見たことあるような、すごく魅力のある人だった。
彼女は純白のワンピースを身に纏い、まるで彼女の動きに合わせるようにスカートがヒラヒラと舞う。
瞳はサファイアのように綺麗で、長いまつ毛がそれを装飾していた。
あぁ…美しいってこの人のためにあるような言葉なんだろう、と本気で思った。正直、一目惚れだった。
そこから俺は彼女とよく話すようになった。
今思えば名前も年齢も知らないのによく仲良くなれたな俺…。
彼女と過ごす日々は毎日が楽しくて仕方がなかった。
(前にもこんな事があった気がする…なんだっけ…)
旅行最終日、俺は彼女とアイスを買いにコンビニへ向かった。
「暑いねー…」
「今年気温35度超えるらしいよ」
たわいも無い会話をして横断歩道を渡ろうとした時だった。
歩行者信号には眩しいほどの青が映っていた。横を見る。俺の方に真っ直ぐどデカいトラックが突っ込んでくる。
(嘘だろ…)
トンッ
誰かに背中を押された。振り返ると泣きながら笑っている彼女が映った。
思い出した。どこかで見覚えのある彼女を。
「みぃ…ちゃ…ん……!」
俺は咄嗟にあの子猫の名を呼んだ。彼女はハッとしてこちらを見る。
中学生の頃に飼っていた子猫に彼女の影がしっかり重なる。
せめて最期に気持ちを伝えたかった。
気づいたら足元に深紅色に染まった彼女が倒れていた。壊れたガードレールと虚しいエンジン音があまりに悲惨な情景を物語っていた。
その後のことはあまり記憶にない。どうやって家に戻ったのかも、みぃちゃんの容態も。
ひょっとしたら初めから全て夢だったのかもしれなかった。
―――今、俺は46歳。今度地域の小学生たちに教える交通安全教室の資料を作っている。
毎年夏になるとあの不思議な思い出を思い出す。結局本当にあったことなのか夢だったのかは分からない。何故みぃちゃんが人間になったのかも未だに謎だ。
ただひとつ言えることは彼女が俺の初恋で、でも恋と言い表すには物足りないくらい何かすごく大きなものだった。
拙い文章を読んでいただき、ありがとうございました。