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僕の師匠

作者: くろねこハルカ

 強い男はカッコ良い

 弱い男はカッコ悪い

 そう大人に教わった

 いぶきは力が弱いね

 いぶきは魔力が低いね

 いぶきは剣術が下手だね

 いぶきは凄くカッコ悪いね

 なんだよみんなして

 すぐに見返してやる


 特訓だ、なんて言って

 山奥まで一人で行って

 何度も危ない目にあった

 何とか助かったときには

 運が良かっただけなのに

 実力なんだと勘違いして

 自分は強いと錯覚してた


「ボクは強い!カッコ悪くない!」


 自分は強い、弱くなど無い

 その大きな勘違いのせいで

 死んでいたかもしれない

 あの人が来なかったら

 確実に今は無かった

 あの人に教わった

 沢山の大切な事

 皆へと伝える

 たった一つの

 名もなき物語

 幸せを呼ぶ、四つ葉のクローバー


 僕はあの人を、幸せにできたのかな?



「助けて! 誰かっ! 魔獣がっ!」

 ボクの声は、山の木々へと溶けていく。


 マズい。これはマズい。()()()は、ヤバい。

 流石にボクでも分かる。


 冷静に考えてみたら、そもそもアイツを倒そうなんて、まだ所詮は子供のボクには無茶な話だったんだ。

 むしろ、どうして勝てると思ったんだろう。無理に決まってるのに。


 とにかく今は走れ。走らないと。

 アイツに追いつかれたら、その時は命など無い。


 この世界には、色々な生き物がいる。()()もその内の一つだ。

 一級魔獣、()()()

 それは、討伐の経験をある程度積んだ者が十人で戦っても、勝てる保証は無い程強い。そう教わった。

 そんなただでさえ強い青炎熊、ここら一帯の青炎熊は、他の地域の個体と比べて体格が良く、魔力も高いそうだ。


 ……ナメていた。完全に自惚れていた。

 この世界を、甘く見過ぎていた。


「Μην αφήσεις」

 逃げろ。早く。もっと早く。走れ。走れ。走らないと。考えるな。考えるな。考えるな。


「ぅわぁ!」

 膝に血が滲む。アイツの影が僕を覆う。

 もう終わりだ……!

 恐怖から、ギュッと目をつむる──。


 …………おかしい。なぜか痛みがこない。

「おい、そこの、顔を上げろ。無事か」

 ……声だ。女の、声だ。恐る恐る、顔を上げる。

 吸い込まれそうな艶の良い黒髪が、風を撫でる。

 二色の瞳に宿る星が煌めいて、ボクを捉える。


 ……居ない。青炎熊が。少し前までボクと追いかけっこをしていたアイツは、もう既に塵と化していた。

 その事に気付くのに、時間なんて要らなかった。

 この人が、倒したんだ。

 そんな。

 たった一人で? こんな華奢な少女が? 一瞬で?

 有り得無い。普通じゃ無い。でもすごく──

「カッコいい……!」

 その少女は、リリィと言った。



 ──そして僕は今、リリィさんのお屋敷の前にいる。


 リリィさんに助けられ、憧れと尊敬の念を抱いてから、早五年。

 あれから僕は必死に鍛練を積んで、リリィさんへ弟子入りするのにふさわしいレベルとなった。


 ──五年。長いようで、短かった。


 夢なんかじゃ、無い。今日がついに、本当に、弟子入りの日なのだ。

 嬉しさからか、緊張からか、心臓が大きく跳ねている。

「僕は小さい時に、あなたに助けられました。だから今度は、僕が誰かを助けたいんです!」



  今日、いぶきと言う少年が私に弟子入りした

  まだまっ白な状態で、

  これからどうなるのかが楽しみだ



 リリィさんの一日は、お茶を煎れる事から始まる。

 僕が朝起きれば、いつだってお茶の良い香りがした。


「あ、このお花やっと咲いたんだ~」

 リリィさんの『毎朝、起きたら身仕度をしてウォーキングへ行け、朝食はそれからだ』という指示に従ってウォーキングをしているお陰で、ここらの地形も大分覚えてきた。


 それより、ここへ来てもう数日が経つけど、まだ修行らしい修行はしてないな……。



「どうだ、ここでの暮らしにも慣れてきたか」

 もぐもぐとトーストを頬張る僕に、リリィさんが訊いた。

「はい、お陰様で!」

「……では、そろそろ良いかもな」

 意味ありげに微笑む。──まさか!

「朝食を食べ終えたら、 庭に来い」

「……はいっ!」



  今日は適正審査をした

  どうやらあいつには、

  強い闇の魔力が宿っているようだ

  上手く育てれば、化けるかもしれない

  さて、どうやって花咲かせようか



 残りのトーストを口に詰め込み、急いで庭に出る。

 庭には、見慣れない魔法石の様な道具が出ていた。

 色こそ無いが、光を受けてキラキラと輝き、とても綺麗だ。


「準備はいいか。これから、魔法適性検査を行う」

 魔法適性検査。一体どのようなものだろうか。

 全く想像が出来なくてワクワクする。


「まず、この石に手を重ね」リリィさんが石に触れる。「石に心で語りかけろ。石と分かり合え」

 意外と簡単そうだ。つまり石に干渉すれば良いんだ。


「上手くいくと──」

 ふわり、石とリリィさんの周りを囲むように、風が立つ。

 無色だったはずの石が、虹色に揺らめき、神秘的に光を放つ。

 ……まるで生きているみたいだ。

「このように、魔法属性を示す」


「……やってみます!」

 軽く石に手を滑らせる。ひんやりとしていて心地良い。


 ──石さ~ん、聞こえますか~? 僕に力を貸してくださ~い


 ……しかし、石は依然として黙ったままだ。

「意外と難しいですね……」

 リリィさんが、フフッと楽しげな声をあげる。

「まぁ、そう焦らない事だ。意識を石へ、そして手のひらへ集中させろ」


 もう一度、石と向き合う。

 体だけじゃなく、心も。


 ──僕の魔力、全部を、手のひらへ集める。

 ──ゆっくり、焦らず。手のひらの魔力を、高めていく。

 ────今だ!


 石へと魔力を送り込む。

 ピシピシッ!と乾いた音がたつ。


「これはなかなかに興味深いな──」


 石が漆黒へと染まっていく。薄く紫色を纏い、綺麗だ。

 石が口を開くかのように、亀裂が入っていく。

 ビシ。石が鈍い音をたてた。

 ──マズい、破裂する!

 とっさに構える。


 バキ、パガッ……

 ガシャーーン!


 石が、破裂した。

 破片が、当たりに飛び散る。

 ……だが、痛くはない。

「大丈夫か、怪我は無いな」

「あ……はい、ありがとうございます──」

 どうしようどうしよう、石割っちゃった。謝らないと──


「お前、やるじゃないか! 魔法石を割るとは、大した魔力だ」

 ……え?

 リリィさんが、僕を、褒めた?

 今まで見たことない位に、嬉しそうなリリィさん。

「え……石割れちゃったのは、良いんですか……?」

「石なんていくらでも替えはある。そんな事よりもお前の魔力の方が、よっぽど貴重だ」


 ……まさか、自分にそれほどの力が眠っていたなんて。

 思わず手のひらを見るが、普段と何一つ変わらない。


「今日はもう疲れただろう。適正も分かった事だ、今日はもう休め」


 そんなこんなで、僕の修行ライフは幕を上げた。



 修行は、正直厳しかった。

 何度も膝を付いた。

 でもそのたびに、リリィさんが励ましてくれた。



 リリィさんは修行では、剣術や魔術の他にも、色々教えてくれた。

 例えば、薬草やお茶について。

 他には、命とは何か、生きるとはどういう事か。

 そして、誰かを大切に思う心とは、どんな物なのか。



  最近、いぶきの様子が変だ

  まるで、見えない何かから逃げているような、見えない何かに怯えているような、そんな感じなのだ


「おい、大丈夫か?」

 いぶきは普段はとても素直で大人しく、私に従順だ

 そんないぶきが、私に向かって臨戦態勢をとるなんて

 ……魔力の乱れを感じる

 明らかに、何かがおかしい

「今は眠れ。目覚めたら、また──」



 ハーブの良い香りに、意識が現実へと引き戻される。半壊した部屋いっぱいに広がる、ハーブの香り。


「ぁ……」

「どうだ、少しは落ち着いたか?」

 ……情けない。

 自分の魔力すら、コントロールできないなんて。


「ごめんなさい…………僕──」

「謝らなくて良い。それよりも、事情を聞かせてはくれないか?」

 あぁ、リリィさんが僕の為にハーブティーを入れてくれたのか。ハーブの香りに、心も落ち着きを取り戻していく。


「このハーブティーには治癒魔法も掛けてあるから、飲むと良い」

 ……暖かい。リリィさんの心に触れているみたいだ。

「ありがとうございます。…………実は──」


 僕はリリィさんに、真実を話す事にした。ありのままを。



 ──ブリンザス。

 災厄を招く、呪いの子。

 僕は、呪われた子、だった。

 生まれ持った痣、白銀の髪。

 たったそれだけなのに。

 生まれ持った物なのに。

 大人たちには忌み嫌われ

 子供たちにはいじめられ

 いつも、一人きりだった。

 辛い。悲しい。寂しい。痛い。

 負の感情から生まれた魔力で

 いつしか呪いは本物となって

 僕自身を、飲み込みつつあった。


「……そうか」

 リリィさんが、ぬるくなったハーブティーを口にする。


「今まで黙っていて、ごめんなさい。でも、言ったら、もしかしたら捨てられるかも、って……それで──」

「何を言っている。そんな事で捨てる訳が無いだろう?」

 リリィさんが僕の頭を撫でる。

「正直に話してくれて、ありがとうな」


 リリィさんはいつだって、僕を、受け入れてくれる。

 大切に思ってくれる。

 それが、嬉しかった。

 それが、好きだった。



 カーテンが揺れて、清らかな風が、柔らかな光を連れてくる。

 ……とても静かだ。


 今日はリリィさんは、お仕事で居ない。だから、今このお屋敷には、僕一人だけ。

 僕も、今日は安定しているみたいだ。

 ──リリィさん最近忙しいようだし、お掃除でもしておこうかな。


「流石はリリィさん、どんなに忙しくても、机の上が綺麗に整頓されている……」

 僕の介入など要らない程に綺麗な机。その上に置いてある何かが、僕の目に留まった。

「あ、いつもリリィさんが書いてるやつ、開いたままだ」


 日記だろうか。閉じようとして、覗き込んだ僕。

「…………え」



 私が帰宅すると、家は異臭に満ちていた

 案の定、いぶきは部屋で吐血しながら、魔力を暴走させていた

 大分状態が安定してきたとは言えども、流石に一人はまだ危険だったかもしれない

 暴れるいぶきの頬には、血に混じり、涙の跡があった

 可哀想な子

 孤独の海に溺れる、呪いの子

 そんな事を思いながら、またいぶきを眠りにつかせた


 今日、いぶきが訊いてきた事

 もしかするとあいつはもう、

 知ってしまったのかもしれない



「ぅ…………リリィ……さん?」

 あぁ、僕はまた魔力を暴走させてしまったのか。

 ──自分の感情すらコントロールできないなんて。


「寝覚めたか。一人にしてすまなかったな。もう大丈夫か?」

 目覚めれば、リリィさんがいる。

 ──別に、普通な事なのに。

「……ねぇ、リリィさん」

「なんだ?」

 ────別に、普通な事の、はずなのに。

「リリィさんは、僕の事を、おいて()()()()よね? 僕の事、一人にしないよね?」


 やっと見つけた、大切な人。

 もう、一人には、なりたくない。


「……今更、何を言っているんだ。前にも言っただろう?」

 少しの間を置いて、続ける。

「私はそんなことで、お前を捨てたりなんかしないさ」


 信じたい。

 リリィさんを、信じたい。

 でも、もし僕が見た事が、本当だったら?

 そう思うと、どうしても、信じる事が出来ない。

 さっきの間も、何かあるのではないかと、疑ってしまう。


「ねぇ、ほんと? ほんとうに? ずっと、一緒に、いてくれるの?」

「…………あぁ、お前に寂しい思いはさせないさ……」



 以来僕は、どんどんリリィさんの事を信じる事が出来なくなっていった。

 リリィさんの優しさすら、裏があるように思えてしまう。

 本当は、信じたい。

 信じたい、のに。

 そんな自分が、もどかしい。

 そんな自分が、憎らしい。



  いぶきの状態が悪化した

  私なら治せるかもしれないが、

  それには代償がいる


  魔力の乱れが確実に大きくなっている

  もう、残された時間は短いのかもしれない

  急がなければ、手遅れになる前に



「大丈夫か?」

「リリィ……さん」

 ベッドに寝ている僕を覗き込んだリリィさんは、なんとも言えない表情だ。

 ……こんな時ですらリリィさんは、自分の事よりも、僕の事を心配してくれる。


「いいか。よく聞け。このままだと、お前は、死ぬ。しかし、私ならそれを治せる。だが、それには代償がいるんだ」

「代償……?」

「あぁ。それはな、お前の記憶だ。だが、安心しろ。お前が失う記憶は、私に関する事だけだ」

「ぇ……そんな、嫌だ…………忘れたくない……!」


 ワタシニカンスルコトダケ。


「え…………嘘、ですよね? 辞めてくださいよ、そんな──」

「嘘では無い」

 リリィさんがあまりに落ち着いた話し方をするから、どうしても信じる事が出来ない。

 でも、リリィさんはどう見たって、嘘をついているようには見えない。


「だからな、お前は、私の事を忘れる。だけど二つ、覚えていて欲しい事があるんだ」

「嫌だ…………嫌だ! 忘れたくない!」

 あまりに急で、思わず大きい声が出てきてしまった。


「人の話を聞くときは黙れ。いいか? お前は誰よりも、命の大切さを分かっている筈だ。このままだと、お前は死ぬんだ! 本当に分かっているのか?」

 珍しくリリィさんが声を荒らげる。

「そんなの、僕が一番分かってます。分かってる……分かってるけど! それでも! 僕は……!」


 どうして、分かってくれないんだ。

 つい、感情的になってしまう。


「あなたの事を忘れたくないんだ!」

 想いが溢れてくる。

「あなたに出会って、僕の人生は大きく変わった! 何をするにも、どこへ行くにも、常にあなたがそこにいた!」

 涙が溢れてくる。

「僕は! あなたが! あなたの事が!! ずっと……ずっと……っ」


 ──好きでした。


「知っていたさ、お前の気持ちなんて」


 え。『知っていた』なんて予想もしなかった言葉に、頭が一瞬フリーズする。


「…………じゃあ、リリィさんは、それを知っておいて、そんなことを言うんですか……? そんな、そんなのって……!」

「だからこそ、だ。私はお前には生きて欲しいんだ。お前は私なんかより、ずっと良い人生を歩める筈だ」

 分からない。

 リリィさんの考えている事全部が、分からない。


「話を戻そう。お前にはな、二つだけ、覚えておいて欲しい事があるんだ」

 リリィさんは少しだけ、早口に感じる。

 ──そっか、もう時間が無いのか。


「まず、一つ目。お前は、一人では無い、ってこと。お前の周りには、いつだって、お前のことを、大切に思ってくれる者がいる」

 リリィさんは、優しく僕に語りかける。


「そして、二つ目。私の事を忘れてしまっても、それは悪いことでも何でも無いし」

 リリィさんが、息を吸う音が聞こえる。


「むしろ、忘れて良いんだって話」


 リリィさんは、本気だった。

 大好きだった、落ち着いた声。

 憧れだった、あの凛々しい表情。

 全部、失うことになっちゃうなんて。


「分かってくれるのなら、それで良いんだ」

 こうしている間にも、僕は段々と悪化していく。


「どうやら、もう時間が無いみたいだ」

 そう言いながら、リリィさんは魔方陣を展開する。

 この五年間、飽きる事無く追い掛けて、見続けてきたその姿。


「これが、師匠として私にできる最後のことだ」

 リリィさんは、沢山の事を教えてくれた。

「最後くらい、師匠らしくさせてくれ」

 リリィさんは、充分過ぎる程に僕の師匠だった。

「……最後まで僕の弟子でいてくれて、ありがとう」

 ──ありがとう、だなんて。


 光が僕を包む。

 あぁ、この最後のやり取りすら、


 僕は忘れてしまうのだな




 僕は、こんな所で何をしているのだろう。

 僕は、僕は……僕は…………


 ──何故、泣いているんだろう?


 辺りを見渡す。

 眼下に、街が見える。僕の、知らない街が。



「ここ、どこだろ……? 体が自然に動いて、無意識のうちに来ちゃったけど……」

 気が付けば僕は、一軒の大きなお屋敷の前にいた。

 ひっそり閑としていて、まるで、世間から隠れようと息を潜めているようだ。


 戸惑いつつも、記憶が曖昧な中辿り着いたお屋敷へと、そっと足を踏み入れる。

「…………綺麗な家だ。それになんだか、懐かしい感じがする……」

 どこかで嗅いだ事のあるような匂い。薬草でも栽培しているのだろうか。

「……なんだか暖かくて、でも、少しだけ切ない様な……、そんな気持ちになる」


 その時、机の上に、日記のようなものを見つけた。僕は、そっとそれを手に取る。

「リリィ……なんだか、懐かしい響……」

 静かに、ページをめくっていく。


「──!」

 途中から、いぶきという名前が出てきた。

「これって僕……?」

 まさかとは思いつつも、ページを読み進めていく。


「あれ…………何故だろう、涙が……」

 だんだんと、文字が歪んでいく。

 そして僕は、とあるページに釘付けになった。



 今日でいぶきとはお別れだ

 あいつは、もう私の事を忘れる

 これで良い、全部、上手くいく筈だ

 どうかいぶきが、幸せな人生を歩めるように



 記憶が流れ込んでくる。

 頭の霧が晴れていく。


 ──あぁ、そうだ、そうだった、どうして僕は忘れていたんだろう。

 あんなに幸せだったのに……あんなに忘れたくなかったのに…………!


「リリィさん!」


 全部、思い出した。


「酷い……酷いよリリィさん……一人にしないって、ずっと一緒だって、そう言ったのに…………なのに──」

 ふと、最後のページに何かが挟まっている事に気が付く。

「これは……手紙?」



ごめんな、いぶき、一緒にいてやれなくて。一人にしてしまって。私だって、お前と一緒にいてやりたいさ。お前の成長を見守りたいさ。でもな。出来ないんだ。仕方ないんだよ。私にはもう未来は無いんだ。明日は無いんだ。だからどうか、お前がこれから先、幸せな人生を歩めるよう



 手紙はここで終わっていた。

「リリィさん…………こんな手紙を……。それに──」

 手紙と共に、日記に挟まっていた()()を、きゅっと握りしめる。

「クローバーの花言葉は、確か……」

 空は遠く

 地は広く

 山は高く

 海は深く

 生きとし生けるものは皆いずれ死に

 死なばその命を以て他者を生かす



「リリィさんリリィさん! 見てください!」

 リリィさんに、自慢のクローバーの冠を見せる。

 ──褒めてくれるかな?

「フフ、これは私への宣戦布告かい?」

「えっ」

 ──予想外の反応だった。こんな時はどう返せば……?

「でも、まぁ……」

 リリィさんは、冠のクローバーから、四つ葉のクローバーを引き抜いて、こう言った。

「ありがとう」



 初作品でした。

 ありがとうございました。

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