8.冷たい気持ちと海の導き
アクセスありがとうございます。
長いですが少しずつでいいのでどうぞ最後までよろしくお願いします。
最後まで本当にみてね!
雨はまだ降り続いている。一晩中降りしきった後、朝になっても景色は変わらない。
「こんな天気を変えられるのは誰なんだろうね?」
雨での馬車移動はつらいな。ちょっとずつ魔力が削られていく。
「シートル様、こんな日にお出かけされなくてもよろしいのではないでしょうか。まぁ今さらですが。」
「それはそうだが。今しか会えないものがいるんだよ。」
この馬車の周りには雨粒が一粒も当たっていない。なぜなら俺の魔法がかかっているから。
俺の魔法属性は水。プラス魔法量もこの国トップクラス。水の魔法は水の魔法と相性がいい。でもそれは水の流れが同じの時だけ。今回は風によって真下に落ちない水と雨に当たらないように張っている水、水の流れはもちろん違う。だからその分だけ俺の魔力はじりじりと削られる。めんどくさい魔法だよ。
「目的地までは...あとちょっとだな。お前もちゃんと鼻かんどけよ。」
目の前にいる従事者はなぜか雨に弱い。なのになぜか俺についてくる。不思議な奴だよ。この従事者曰く雨が降る日は鼻をかむとちょっとだけよくなるらしい。
「よし、早く行こう。」
目的地に着いたので足早に向かう。もちろん転ばないように。
ここは小さな湖。湖の中心部には小さな小屋がある。俺たちはそこへ向かっていく。ここには何度来たことだろう。
「それではここで待っています。お気をつけてください。」
小屋の中で従事者と別れ一人その先の湖の中に進んでいく。
湖の奥深くに進むにはある力を持ったものだけ。その力とは、長いから言わない。
「シートル・アクアルータだ。時間いいか。」
湖の奥深くにいるあるものに向かって叫ぶ。これはここに来た時に毎回やっていることだ。
「ん、シートルか。今日は無理。また今度だな~。」
っちょ。もう、気分屋すぎるだろ。今日は絶対折れないぞ。
「まだ話は終わっていない! ちょっとでいいから会ってくれないか。」
「んもう。そんなに急かすな。もうちょっと優しく扱えよ。」
「いえ、少しでいいんです。」
「あ~もう。いいよ。わかったから。小屋で待ってろ。」
その声の主に言われた通り小屋に向かう。いろいろと溺れないように。
「あれ、早かったですね。いつもならこの倍はかかっているじゃないですか。」
「今日は勝ったんだ。少しだけ隣で待っててくれないか。」
「は~い、シートル!」
ん? 何か変だったよな今。
「ふう~。久しぶりだなぁ。シートル。毎回会うたびに生意気になっているのはなぜだ。」
この部屋に現れたのは、藍色から水色にグラデーションした美しい髪をポニーテールした人間だった。
「この姿になるのはめんどくせぇんだから、ってかほんと、なんで呼んだの。」
毎回この反応には困る。何度言われても慣れないのは、はぁ。
「今日はこの雨のことを聞きに来たんだ。この雨、特殊な魔力を感じる。どう思う。」
「この雨? 確かにおかしいな。というか獣のにおいがする。」
獣のにおい? そんなにおいしてたかな。普通の雨のにおいしか感じないけれど。
「これはそうだな。魔獣が関わってる。それも厄介な。」
魔獣が関わってくる厄介な雨なんかあるんだ。魔獣が関わる...まぁ確かにそういうことができる魔獣もいると聞いたことはあるが。でもそれは百年近く前にあったことだと言っていたが。
「シートル、早く帰れ。このにおいはお前の心を壊す。だから早く帰れ。」
「他にも聞きたいことがあるのだが! まだ待ってくれ。」
「無理だ。お前の心が壊れたらこっちだって困る。さ、帰った帰った。」
その言葉を最後に、目の前にいた人間は消えた。音もなく。
「帰るぞ、調べなくてはいけないことができた。」
「早いですね。これは前回の二分の一ですね。わかりました。」
行きましょうか。そう聞こえたと思ったら次に聞こえたのは「バタンッ!」という鈍い音だった。
「大丈夫か、生きてるか。」
先ほどまで元気に話していた従事者が倒れたということは、この雨は相当やばいものかもしれない。彼を急いで担ぎ上げ馬車に向かう。危機感と恐怖を抱いて。
屋敷についてからすぐに彼を部屋まで運んでもらった。意識はあったがぐっすりと眠っているようで安心した。
彼を近くのメイドに預けた後、書庫に向かった。
この書庫はそこまで広くはないけれど、重要な本で埋まっている。今日話したあの相手は魔獣。アクアルータ公爵家の人間は代々結構強い魔獣と契約をしてきている。もちろん俺もその一人。今日話した人間は魔獣本来の姿ではないけれどあの姿を見たとき、あいつは「こっちの姿も自分」そう言っていた。
ここにある書庫は全部読んだが、魔獣のことについて書かれたものは多い、だが魔獣と天気に関することが書いてあった本はなかった気がする。だからあったかもしれないという期待にかけて本を探すことにした。
一冊だけあった。それもたった三ページだけ。
それでもあった。慌てて内容が頭に入ってこないなんてならないようにゆっりと噛みしめて読み進める。
「魔獣と天気はほとんど関わりはない。だが例外もある。水属性の魔獣が天気を変える可能性もある。」
と書いてあった。
これは結構重要なのではと感じた。天気を変える、これは人間一人が祈っただけではすぐに変わらない。だが魔獣の持つ膨大な魔力の量だったら天気を変えられる可能性もあるということなんだろう。
ここまでわかったはいいが、どうすればいいんだろうか。記録もここにしか残っていないし、何より魔獣とはそこまで多くあったことがない。誰か魔獣について知っている人はいなかったか。
確かすごく身近で、それもつい最近結構はっきりと見たような。...あぁ、あの時か。今度アイラスさんと会うときに聞こう。この天気のことを何か知っていないか。これはかなり答えに近づくのでは、そんな少しだけ喜びの気持ちのまま散らかしてしまった本たちを片付けることにした。
というのが一週間前のこと。今、俺はガッチガチに固まっている。なんて言ったって目の前にあの、アイラスさんと例の魔獣がいるからだ。ここからが勝負だ俺。
「アイラスさん、急なお願いありがとうございます。魔獣を見たいって言っちゃって。」
「いえいえ、いいんですよ。でもどうして魔獣を見たいだなんて。理由をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「え、いいですよ。このまだ続く雨がきになってですね。」
「ああ、それは私も気になります。でもそれってこの子と関係あるんですか。」
はい、あるんですよ。それがね。とは言ってもこの魔獣が関係あるのかはわからないが。
「この天気、というか雨。何かを訴えている。それもある特定の人物に向けて。」
アイラスさんの周りをくるくると回りながらそう話したのは例の魔獣だった。
「そうですわ。ツァイト、あっちの姿になってみるのはいかがでしょうか。」
「ううん。今は嫌だ。」
「ごめんなさいアクアルータ様今日はこのままでもよろしいでしょうか。」
何のことかはわかりかねますが問題はないですよ。
「そういえば、この子の名前はツァイトで合っていますか。」
「えぇ、合っていますよ。そういえば、アクアルータ様には魔獣様はいらっしゃらないのですか。」
魔獣様か。そういえばあいつも魔獣様なんだよなぁ。あんな感じだと忘れちまう。
「まぁ、何とも言えない感じですよ。」
「そうなのですね...。それよりこの天気」
「チョーっと待てーい! おい、あたくしを呼ばないとはどういうことだシートル!」
アイラスさんとの素敵な時間を過ごそうとしていたのに、この大事な空気をぶち壊してというか扉をぶち壊して入ってきたのはつい最近あったあいつだった。
ここはアクアルータ公爵家なんだから、勝手に入ってきてほしくなかったんだけどな。
「ア、アクアルータ様。この方は一体誰でしょうか。」
アイラスさんは少しだけ震えて、顔色も青白くなっていた。
天使のアイラスさんが怖がってるじゃないか。あ~もう、はぁ。
「初めまして、アイラス・ジェシー。あたくしはオルクールだ。いつもこのうるせぇ奴と仲良くしてくれてありがとな。」
「アイラス...ジェシーです。」
「ぼく、ツァイト。初めまして水の魔獣王。」
水の魔獣王!? なんでツァイトはこいつが水の魔獣王であることを知っているんだ。そもそも今は人間の姿をしているというのに。
「ツァイト、よくわかったな。あたくしの正体に気づく奴なんてなかなかいないぞ。いい鼻持ってんだな。」
ツァイトは褒められて少し嬉しそうにしていて、普通の動物とほぼ変わらないと思った。
その一方でアイラスさんは少しふらついていて今にも倒れそうだった。慌てて隣で支えようとしたが、「大丈夫です。少しお手洗いに行ってきますね。」と言って壊れた扉をくぐって部屋を出て行ってしまった。
大丈夫ですか、アイラスさん。
「シートル、嫌われたな。」
「そんなこと言うなよ。どうすればいいんだ。」
ツァイトは突然走り出して部屋を出て行ってしまった。もしかしたらアイラスさんを追いかけに行ったのかもしれない。それより俺も追いかけなくては。そう思って扉の方に向かおうとしたときオルクールに足止めを食らった。
「今お前が言ったところでなんにも意味ないよ。今彼女に必要なのはお前がいない時間だ。」
そんなこと言わなくてもいいじゃないか。俺だって心の中でそんなことわかってたよ。それでも。
私は今迷子になっている。角を曲がったときに謎の隠し扉とぶつかってしまい薄暗い部屋に閉じ込められてしまった。
「あのぅ、誰かいらっしゃいませんか。」
返事は帰ってくることなく、私の声が響いているだけだった。
そもそもあんなに素敵な令嬢がいらっしゃるのにどうして私を呼んだんですか。
海のように綺麗なグラデーションした髪を高い位置で一つにまとめたその儚い美少女を見てしまって、私は動揺を隠せなかった。ツァイトが何か言っていたような気がしたけれど、そんなのも聞こえなかった。
はぁ、一瞬でもアクアルータ様を好きになってしまった自分が恥ずかしい。もう、この気持ちは閉まっておこう。この苦い気持ちは全部捨ててあの美少女にすべて任せてしまおう。
それよりもこれどうすればいいのかしら。ずっとここにいてもどうすることもできないですし。なんか、ひんやりしてる?
キョロキョロと辺りを見回してみたが特に不審な点は見られない。だが耳を澄ませると「ぴちょん、ぴちょん」という音が聞こえる。この音は一体何かしら。水?
ヒャッ
足元に液体がたまり始めていた。少しづつ足元が冷えてくる。寒い。どうしよう。
しばらく経ったが足元くらいだった水位が膝上近くまで来てしまった。
ドレスが液体を吸ってしまい、どんどん重くなっていく。ドレスに足を取られ思わずこけててしまった。そしてその時に頭を強く打ち付けてしまいそのまま気を失ってしまった
「...らす! あいらす! アイラス!」
目の前には美少年...ツァイトがいた。とても大泣きして。
「よかった。アイラスが生きていてくれて本当に良かった。」
記憶があるのはあの薄暗い部屋にいた時まで。今は、恐らく私の部屋にいるで合っていると思われますが。
「えっと、私、何があったのですか。」
「アイラスは後で知ればいいよ。それより、もうあいつと会っちゃだめだ。」
あいつとはいったい誰のことでしょうか。
「あいつって一体誰のことでしょうか?」
「あいつってシートルのこと。」
そうですか。もう、あの時に苦い思いは閉まったからもう彼に対して何とも思わない。そう思いたい。彼は過去のこと。もう大丈夫。
「ツァイト、体調がよくなったら一緒にお出かけしましょう。」
涙なんか流さない。私は強くなると決めたのだ。ベッドの中で静かにそう決意した。
あのとき、俺は何をすればよかったのだろう。
アイラスさんが屋敷の隠し部屋で溺れていたとメイドから聞いたときは心臓が飛び出るのではないかというほど焦った。あの部屋はアクアルータ家の魔法水を保管するための部屋になっていて、あの部屋を調節して魔法水を精製しており、本来人が入る場所ではない。なぜそこにアイラスさんが入ってしまったのかはわからないが無事生きていてくれただけよかった。
あの日から数日後、アクアルータ公爵家に一通の手紙が届いていた。それは、
「もう二度と娘と会わないでくれ。」
というものだった。
その手紙は俺の心を絶望に落とすものでしかなく、この状況を変えられない自分にとてもムカつき、苦しかった。でも、俺の未熟な判断が招いてしまたことだと自覚しているからこそ、ジェシー侯爵家に反論の手紙を出すことはしなかった。
この件で、俺は深く心に決めたことがあった。もう二度と己の判断不足でこのようなことを起こさず、静かに過ごしていくと決めた。
今はただアイラスさんの体調がいち早く回復するのを願うばかりだった。
外は雲で覆われ、陽の光がどこに当たっているのかすらわからなかった。
+DOOR
魔獣の生き方とは、そんなものは誰に聞いてもわからない。今回の一件で、魔獣の行動がどれほどの人間の未来を動かしてしまうのかを実感した。長い人生でもなかなか感じないことだった。
今、あたくしにできることはあれしかないと、湖の奥深くで何かを実行し始めるオルクールだった。
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すぐ投稿サボるダメダメユーザー兼矛盾多すぎ怪文書製造者ですが皆さんを頼りに小説書いていこうと思っています。
もしよければキャラクター達を愛してあげてください。
今回から「+DOOR」というものを追加しました。ちょっとした一瞬? みたいな感じなのでよろしくお願いします。