【お題で小説:ゴリラ】 とある遭難者の木簡
火の上月 13日 晴れ
船が難破し、この島にたどり着いてから10日が経った。
流れ着いた船の残骸や島の木材から木簡が出来たので日記をつけることにする。
紙を使う方が嵩張らないのだが、手に入らないものは仕方がない。
遭難生活は長くなるかもしれない、筆不精ではあるが備忘録代わりに続けていこう。
火の上月 25日 曇り
私が流れ着いた島は意外に大きい。
これほど大きな島なら海図にも載っているのではないかとも思ったが、今の所船の影が通りかかることはない。
幸い、島には湧き水もあり食料となる植物も多い。
島の奥地にはまだ行っていないが、危険がないか確かめに行かなければならないだろう。
空が荒れていない間は良いが、雲行きが怪しくなれば沿岸は危ない。
できれば内陸の場所に拠点を構えたいものだ。
火の下月 4日 雨
この島は通り雨が多いが、今日は一日を通して雨が降っている。
本来は火の月と言えば雨の一滴も降らない地域も珍しくないのだが……
そのせいで溜めていた食料の一部を流されてしまった。
洞穴などの雨の及ばない場所を探してみるか。
火の下月 16日 晴れのち曇り
島の奥地で珍しい動物の群れを発見。
――――――ゴリラだ。
別名、森の戦士とも呼ばれる彼らはその雄々しい姿からは考えられない程、心優しい生き物だ。
特にこの島に生息するゴリラは通常種に比べて短躯で、顎髭の様な体毛が長い。
不意に遭遇してしまったが、別段威嚇されることもなく、まるで群れからはぐれた子供のように扱われて困惑した。
まさか長い遭難生活で伸び放題の髭や髪で仲間と思われたのか……?
幸運ではあったが、少し不本意でもある。
金の上月 2日 晴れ
間が空いてしまった。
前の拠点が土砂崩れで壊されてしまい、ゴリラの群れの塒に拠点を置いている。
彼らは非常に友好的で、言葉が通じないことが些末事に思えるほどだ。
彼らの理知的、かつ髭の生えた姿から、彼らの事を森の巧人と呼ぶことにした。
本物のドワーフ族も彼らの事を知れば、名前を拝借することに否やはあるまい。
金の下月 26日 曇り
火を使える私は森の巧人の中ではかなりの地位だ。
食料も幾らか融通してもらえるし、常に周りに護衛の様な雄たちがいる。
彼らも火や道具を使える有用性がわかっているのだろう。
……なんだが群れになし崩しに留められている気もするが、まあ問題はあるまい。
土の上月 7日 晴れ
ついに船の影が見えた!
毎日諦めずに狼煙を上げた成果と言えるだろう。
先遣として小舟に乗って島に上がった者たちはだいぶ驚いていたが、助けてもらえるなら些末な事だ。
ついにこの遭難生活は幕を閉じる!
土の上月 8日 曇り
船で島を離れる。
森の巧人との出会いは私の人生での大切な思い出となるだろう。
だが、船長! 最初にゴリラと思われて檻に入れられたのは忘れてないからな!