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06. 恋人づくりだって手伝う

 オークたちがいた広場の、すぐ近く。丘になったような場所に来ました。


「ここが、トラップベアの巣――お宝があった洞窟ですね!」


 と、シフちゃんが言います。


「入り口は、岩や木の枝などでうまく隠されているんですねー」


「はい! おかげで、洞窟も、オークなどに荒らされていないようですよ! 採取する予定の洞窟内のキノコとかを食べつくされていたら、ショックでしたから」


 それもありましたねー。

 そのキノコの採取と、トラップベアのお宝を運ぶために来たのですから。


「こっちですよ! 中は広くなっていますから!」


 シフちゃんが、魔法の明かりを指先に灯し、私を洞窟内へと導きます。


「ここです!」


 しばらく歩いた先でしょうか。そこに目的の、トラップベアのお宝がありました。


「うわーっ! キレイですねっ!」


 シフちゃんが灯した魔法の明かり。それに照らされ、白銀色の像がたたずんでいます。あー……ただ。


「……ただ、像のモデルは、鎧をつけたオークなんですね……」


「はい! これは、オークの騎士の像ですね! エルフの女王の従魔であり、その恋人であったと伝えられる者です! 架空の人物かもしれない、という話もありますが」


「そうなんですか……」


 架空の人物――魔物さんかもしれない、ということで。


 わかりづらいですが、像は、鎧の下に、従魔である証の首輪もしていました。


「……私としては、さっき洞窟の外で倒したのと同じ種類の魔物の像、というのも不思議な感じがするんですけど。……なにか、理由があるんでしょうか?」


 そう思う私に、「多分、偶然でしょうね」というシフちゃんの返答があります。


「この森は、もともとオークが多い場所ですし」


 なるほど。


「専門ではないのでハッキリしませんが、魔力を流してみても呪いのようなものも感じられませんでしたし……」


 そう言って、首をかしげるシフちゃん。


「……でも、オークを呼び寄せる呪いでもかかってないか、ちょっと心配になってきましたね。メルミィさんも、確かめてみてくれますか?」


 「はい」とうなずいた、私。像に魔力を流してみます。

 ……たしかに、呪いなどは感じられません。


「そういうのは、ないようですね。あとは、これを持ち上げられるかなんですが」


 その言葉に反応した触手さんが、くるっと像に巻きつきます。


 グイっと引っ張って――


「……一本の触手だけで、持ち上がるんですね」


 シフちゃんの言うとおり、何の問題もなく持ち上がりました。


「五百キロぐらいあって、トラップベアでさえ、多分、コロとかテコの原理とか応用して運んだんじゃないかと思っているんですけど……」


 ……クマさん、テコの原理とか応用して物を運べるのですか。頭良すぎじゃないでしょうか。


「では、それを持って、次はキノコの採取に行きましょうか! あっちのほうにあります。トラップベアが作っていたらしい罠熊酒とかも残っているんですけど」


 お酒って聞いた途端、なんか触手さんが、ぴちぴちと元気いっぱいに跳ね始めました。


「お酒も欲しいんですね!」


「そうみたいですね、……お願いできますか?」


 触手さんが欲しいなら、もらいましょう。

 そんなやり取りをして、白いキノコがたくさん生えている広間にまできたのでした。


「お酒は、あそこですね」


 鎮座(ちんざ)している大きな岩を指す彼女。


「あの大岩に、くぼみがあって、そこでハチミツなどを醗酵(はっこう)させていたみたいです」


 へー、と思った私。さっそく行って、調べてみますが――


「……平たい石で、くぼみにフタがしてあるんですね」


「ええ。トラップベアがキレイ好きなので、飲食にも問題ないみたいです。食通の方などが買い求めるお酒になります」


 なるほど。


「まあ、この森だと、薬草とかを発見して、それを持って帰ったほうが報酬も良いんですが」


「……それもあってシフちゃんは、この罠熊酒を持ち帰らなかったんですね」


 納得しました。


「じゃあ、これの持ち帰り方ですけど……」


 案を出そうとしたら、その前に触手さんが動きました。


 ズガン! と音を立て、大岩に突き立つ一本の触手。


 さらにズガン! ズガン! と他の触手さんも突き立ちます。


「これは……」


 みるみる間に、お酒が入った岩のくぼみ、その周囲の部分が切り落とされていきます。


 大岩の、余計な部分を切り落として、持ち運びが簡単な大きさにしているみたいですね。


 私の手を広げたぐらいの大きさがあった大岩が、私の上半身ぐらいの大きさまで縮みました。


「岩でできたタル、みたいな形になりましたね……」


「そうですね! 数分で作った割には、工芸品として売りに出せそうな()()()えですよ」


 シフちゃんに、()められます。


「……でも、これで、お酒も、この広間の外へと持ち運べますねー」


 最初の大きさのままだと、洞窟の通路とか、一部、通らなかったでしょう。ホッとします。


「あとは……キノコの採取はどうしましょうか?」


 シフちゃんに聞きます。この広間に生えている彼らの採取も、大きな目的の一つでしたが。


 彼女は私の言葉に、キノコの様子を確認します。


「うん、もう大丈夫そうですね」


 うなずく、シフちゃん。


「このキノコの場合、日が落ちてから採取をおこなう必要があるんですが……見ててください!」


 彼女が、指先に灯していた魔法の明かりを暗くします。すると――


「うわあ……キノコたち、淡く輝いていたんですね!」


 今まで魔法の明かりが強かったせいで気がついていませんでした!


「意外にキレイですよね! 日没後の時刻になると、こうやって光るんです。採取しましょう!」


「はい!」


 そうして、触手さんやシフちゃんと一緒に、大収穫を行ったのです。


「いっぱい採れましたね!」


「そうですね!」


 流行り病が出たときの薬、その原材料となるキノコをたくさん採りました。

 これがあるおかげで、命が助かる人も出るかもしれません。


 僧侶冥利(みょうり)()きるお仕事です。


「じゃあ、あとはキャンプの用意をしましょうか。一晩を洞窟ですごし、朝になったら森を抜けて町へ帰還します!」


「はい!」


 うなずきます。


「火を使いたいので、もう少し風が(とお)る場所に移動しましょう」


「わかりました!」


 触手さんに、白銀のオークの像を持ってもらい、罠熊酒の()まった岩のタルも持ってもらい、大量のキノコや、その他森で採取した薬草なども持ってもらって、入り口に近い、洞窟の一室へと向かったのです!


 ……後ろを見ていなかったので気がついていませんでしたが、あらためて見ると、荷物の量がスゴいですね。


「それでは、この部屋でキャンプをしましょう! 洞窟の中ですが、ここでは煮炊きをして大丈夫なので」


 そうして、シフちゃんに先導され、手早く料理を作り終えたのです。


 途中、触手さんが、料理に、薬草やら木の実やらを加えていたのが少し気になっているのですけれど……


「じゃあ食べましょうか!」


 そうですね!


「いただきます!」


 そう言って、ちゅうちょせず、シフちゃんが料理にかぶりつきます。


「……! メルミィさん! 私の作ったハムのソテー、薬草を加えたせいか、すごくおいしくなってますよ!」


 そうなんですか! 触手さんが加えた薬草ですね。シフちゃんによると、あの薬草は、香辛料にもなる一品だということなので、料理と相性が良かったのでしょう。


「メルミィさんのスープは、どうですか?」


 聞かれた私は、ながめていたそれを口にします。


「……おいしいですね……」


 塩と胡椒と野草に干し肉、それに触手さんが、木の実を加えただけの簡易的なスープ。味に謎の深みが出ていました。


 作った私自身、なんでこんな味になったのかがわかりません。


 ちなみに、触手さんが一人で作ったフルーツゼリーもあるんですけれど。

 フルーツは来る途中、森で採ったもので、ゼリーは何か薬草から作っていて……


「あっ! このゼリーもおいしいですよ!」


 シフちゃんが食べたようです。


「トロッとしているのに、噛み砕くときに歯ごたえがあって初めての食感です!」


 かなりお気に入りの様子。


 触手さんは強いだけでなく、本当に何でもできますねー……。料理もできる、女子力の高さも見せつけてくれました。


 男の人でも、この触手さんなら、お嫁さんにしたいと思うかもしれません。


 すごいなー、と、じーっと触手さんを見ていると、シフちゃんから話しかけられます。


「そういえば、持ってきた、お酒は飲まないんですか?」


 岩熊酒ですか? 私は飲まないので……。あっ、いえ、何か、触手さんがピチピチと跳ね始めました。


 喜んでいるように見える()(かた)なんですが。


「もともと持ち帰る予定のものではありませんでしたし、飲みたいならばグイグイいっちゃって良いですよ」


 そんなシフちゃんの言葉に、触手さんが狂喜乱舞(きょうきらんぶ)している感じでピチピチします。


 ……飲みたいんですね。


「じゃあ、お言葉に甘えていただきましょうか。うっかり酔っ払いすぎても、魔法で元に戻せますし」


 そう言った途端(とたん)、シュピっと伸びた触手さんの一本が岩のタルに絡みつき、それを近くに引き寄せたのです。


 ……でも、どうやったら触手さんにお酒を飲ませたことになるんでしょうね。


 疑問に思っていると、タルのフタを開けた触手さんが、ぽちょんと、お酒の中に、触手の先端を入れて。


 何しているんだろう、と思っていると、タルの中の様子を見たシフちゃんの言葉が聞こえてきます。


「うわーっ! お酒が、みるみる減っていますよ!」


 私も見てみると、その通りでした。触手さんの先端からでしょうか? そこから液体を吸い込んでいるようです。


 こんな機能があったんですね……。新発見です。


 食事は欲しがらないし、口が無いので、飲み物とかも必要ないものだとばかり思っていましたが。


「なんか、すごい勢いで減っていますよ! ぐんぐんと! ぐんぐん……と……、……あの……メルミィさん、顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」


 ……言われてみれば、何か目の前が、ふにゃふにゃしているような。

 えっ、これ、酔っ払ってます!? 触手さんが飲むと、私が飲んだことになるんですか!??


 急いで魔法で回復しようとする間にも、目の前のグラグラはひどくなり。


 ――そこからの私の記憶は、完全に途絶えたのです。


 そして次に私が目を覚ましたとき、私はシフちゃんに抱きついていました。


 何故か、私の服が少しはだけていて、シフちゃんが全裸な状態で。


 先に目を覚ましていたらしい、そのシフちゃんと、目が合いますけれど……


「い、いったい、何があったんです……?」


 恐るおそる。いっしょに、洞窟の地面に横になっているシフちゃんに聞きます。


「え……えっと。メルミィさんたち、酔っ払ってしまったみたいで……。い、一応ダメって言ったんですよ? で、でも、押し倒されてしまって」


 !?


「で……でも、メルミィさんの……、すごく、気持ちが良かったです……」


 そんな感想を聞いた、シフちゃんの下着が落ちている、洞窟の部屋。シフちゃんは、恥ずかしそうに、両手で顔を隠してしまい……


 ――いったい私、ナニしたんですーっ!?

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