04. あんなことやこんなこともできる
「じゃあ、これが、触手さんについて調べた結果ね!」
廊下につながる修道院の広間。イスに座ったミュミュお姉さんが、笑顔で一枚の紙をヒラヒラさせます。
「どうだったんですか! おいしいものを触手から出せるようになるとか、素敵な能力はありましたか!」
対面のイスに座った私は、期待に胸を膨らませてお姉さんを見ます。
「そうね~、女の子に嬉しい、素敵な能力はあったわよ!」
なんとっ!
「教えてください!」
「ふっふっふー、その名は……」
もったいぶる、お姉さん。
「『睡眠回復(主)』! ――触手の主、つまりメルミィちゃんが眠っている間に、メルミィちゃんや触手さんを完全回復する能力ね。ちぎれた腕も再生するぐらい強いわ」
「それはスゴい! ……ですが、それだと冒険者に嬉しい能力で、女の子に嬉しい能力ではないですよね?」
「ふっふっふ。この睡眠回復はそれだけではなく、ある程度、若さを維持できたりするみたいなの!」
おおっ!
「まあ、見た目の若さを保つだけで、寿命とかはあまり変わらないみたいなんだけど」
それでも、スゴい!
「ついでに、『睡眠不用(触手)』なんかもあったわね……。こっちは、触手さんの睡眠が不要になる能力みたい」
夜営での警戒も、触手さんがいればバッチリそうですね!
「他にも、メルミィちゃんと恋人――相思相愛になりそうな相手を見つける能力や、触手さんが好きになれそうで、メルミィちゃんとも恋人になれそうな相手を引き寄せる能力も、触手さんにはあるみたいなんだけど」
「それは、今やっている僧侶修行が終わったら使ってもらいましょう!」
運命介入系の強い能力です!
「そうね……。恋人になりそうな相手を引き寄せる能力が、常時発動系のスキルじゃないと良いんだけど……」
ああ。常に発動している能力なのか、触手さんが『使いたい』と思ったときに発動する能力なのか、どちらかわからなかったんですね。
『常時発動』の場合、修行中に、異性がわんさか寄ってくる可能性がありますが――
「そのときはダイヤモンドの意志でお断りするので大丈夫です!」
私の意志は固いので!
「……ダイヤモンドって、ハンマーで叩くと砕けるらしいから不安ね」
そんなことを言われてしまいましたが……
ダイヤモンドの剣とかありますけど、あれは、魔法か何かで加工してるんでしょうか。
「恋人関連は、メルミィちゃんを信じるしかないわね」
そう結論を出されました。
「あとは……例の、触手さんが持った、荷物の重さが感じられないでしょ? あの関連の能力があって」
ふむふむ。
「それで……、これで紙に書いてあるスキルは全部なんだけど」
言いよどんでいる雰囲気のお姉さん。
「もしかすると、紙に書かなかったスキルがあるんですかね?」
推測すると、うなずかれました。
「実は他にも いくつかスキルがあるみたいなんだけど、うまく読み取れなかったのよ~……」
「……貴石の分析が、難しかったんですね」
《調査分析》の魔法は、魔水晶などの貴石を使って行使されます。
その使った魔水晶などを、魔法などで分析することで、どんなスキルがあるかを判定するのですが、たまーに、分析がうまく行かないことがあるんですよね。
「これじゃないかと推測をたてているものもあるし、他のも時間をかければわかると思うんで、調べてみるわ~」
再トライをしてもらえるようなので、「よろしくお願いします!」と頭を下げました。
「あと、他にも気になることがあるんだけど……もう一回《調査分析》の魔法を使わせてもらって良いかしら……?」
「……貴石を二つも使わせてしまいますが、いいんですか?」
初回に触手さんに使ったものと、今回使うもので二つ。
貴石は、魔法での分析が終わったら再利用できるのですけれど。
「かまわないわ! ……それと、話は変わるんだけどね。この前、アムちゃんに会ったんだけど、あの子とは、仲が良いのかしら?」
アムちゃんは、私が回復魔法で病気を治した子。シフちゃんの妹さんですね。
私は「はい!」と答えます。
「町で会ったんですか?」
その質問に、首を振るお姉さん。
「ううん。この前、修道院に来てね~。今日も来るはずだったんだけど……今、来たかしら?」
ちょうど、玄関の呼び鈴がならされましたね! お姉さんといっしょに見に行きました。
「……! メルミィ……おねえちゃん……!」
とつとつと喋る、見目は十歳ぐらいの女の子。
「アムちゃん! シフちゃんを紹介してくれてありがとうございました!」
まず、お礼を言います。
「アム……役に立った……?」
「はい! とっても!」
その言葉に、照れたように顔を赤くして、笑顔を見せる彼女。
「よかった……」
ホッとしたようです。
「そういえば、お姉ちゃんは……?」
「シフちゃんは、裏庭で、院長先生に魔法とかを見せているところですね! 私は、それを終わるのを、ミュミュお姉さんと、雑談しながら待っているところなのですが……」
「……アムも、メルミィおねえちゃんと、いっしょにいて良いですか……? メルミィおねえちゃんとお話ししたい……」
かわいいことを言ってくれる彼女。
「じゃあ、広間でいっしょにお話ししましょうか! あっ、でもアムちゃんは、それで良いんですか? 修道院に、何か用事があったんじゃないかと思ったんですが」
「今日のアムちゃんの目的は、僧侶の修行者について学ぶことだから、大丈夫ね~」
言いよどんでいた様子のアムちゃんに代わり、ミュミュお姉さんが答えてくれました。
私のような、僧侶の修行者について学ぶためですか?
「なんで、そんなこと……」
「メルミィちゃんがお金がなかったとき、大きなお茶菓子……巨大なパンとかをあげて良いのを知らなかったのが、悔しかったみたいでね~」
「……もしかして、私のためですか!?」
赤くなって、うなずくアムちゃん。
「ありがとうございます! お礼に、神さまがアムちゃんのことを見守ってくださるよう、めちゃくちゃ祈りますからね!」
――この祈りで、私に触手さんが生えたのです。アムちゃんにも、きっと良いことがあるはずですよ!
そんな会話をしながら(ミュミュお姉さんから、再度の《調査分析》の魔法もかけてもらったりして!)院長先生とシフちゃんが裏庭から戻ってくる間を、楽しく過ごしたのでした。
そうして、しばらくが経ち――
「……ずいぶんと、にぎやかですね」
院長先生たちが戻ってきました。
「どうでした!?」
ワクワクしながら、シフちゃんの能力の感想を聞きます。
「優秀でしたね。もちろん、魔物のいる森に行くのですから、油断はしないでもらいたいのですが」
何があるかはわからないというのは、冒険者の心得として何度も言われましたからね。「もちろんです!」と答えます。でもシフちゃんは優秀なんですねー。
「院長先生から好評価をもらえるなんて、シフちゃんはスゴいです!」
アムちゃんと手をタッチさせ、姉妹同士の挨拶をしていたシフちゃんが、照れた様子で髪を弄ります。
「どうにか、メルミィさんと二人で、森に出かける許可をもらえましたよ」
ほんとうに良かったです!
「それで、出発はいつぐらいにしましょうか!」
「あー、それなんですが。ちょっと採取したいものができたので、今から向かいたいんです。メルミィさんは大丈夫ですか?」
今からですか?
「大丈夫ですよ! でも、ずいぶんと急なんですね」
「はい。トラップベアの巣……洞窟にお宝を隠してあるのですが、そこにキノコが生えていまして」
「キノコですか?」
「そうです。流行り病の対策に重要なキノコなのですが、なんでも供給量が足りていないらしく」
そう言って院長先生を見るシフちゃん。
「なるほど! 院長先生に採って来てってお願いされたんですね!」
その推測に、院長先生が「そうです」と答えます。
「雑談中に、洞窟でそのキノコを発見した、という話になりましてね。シフさんに採取をお願いしたのです」
「そのキノコは、夜に採取をしなければいけなくて。今から準備をして出発すれば、ちょうど良い時間になるため……」
今から出発、という話になったんでしょう!
――これは人々が必要とする薬を確保するための依頼。やりがいのある依頼です。
やる気が、みなぎってきましたよ!
背中の触手さんも、私の気持ちに応えるように、いつもより元気にニョロニョロしている気がしたのでした。