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03. ずっぽずっぽ、ささる

「おーい、メルミィちゃん。こっちの木も植え替えをお願いしたいんじゃが」


「はーい、わかりました!」


 おじいさんが指差す、二階建ての家の屋根を越すぐらいの高さがある大きな木。


「お願いします!」


 その言葉とともに、木の周囲の土に、ずっぽずっぽと触手さんが突き刺さっていきます。


 七本の触手、全部を使い、グルっと一周するように。


 じゅうぶんに、根っこなどを切れたのでしょう。触手さんが一本の自分をまきつけ、グイっと木を引っ張ると、軽々と、それが持ち上がったのです。


 私の背中から生えている触手さんが、木を持ち上げているのですが、あいかわらず、重さなども感じませんね。


 どうやったのか、根っこも、刃物を使ったかのようにキレイに切れていて。


「何度見ても不思議じゃのう」


 そんな、おじいさんからの言葉もいただきましたが。


「この木を置く場所は……あそこですか」


 あらかじめ、穴を掘ってもらっていましたから、あとは、そこまで歩いていくだけ。


「触手さん、ここに木を置いてください!」


 その言葉に応じるように、穴へと、ゆっくりと木が下ろされたのです。


「おおっ、終わったか! 数日以上かかると思った作業が二時間で……。根っこの切り方などもうまかったし、メルミィちゃんが、この依頼を受けてくれてよかったぞ!」


 土をかぶせていると、嬉しそうなおじいさんから、そんな評価をいただいたのです。


 冒険者ギルドにあった、たくさんの木々たちを植え替えるという依頼。触手さんのおかげで簡単にクリアできましたねー。


 複数人向けの数日かかる依頼を、一人で(しかも短時間で!)終わらせたことで、報酬もかなり良いはずですよ!


 これも全部、触手さんのおかげです。


 《祝福》の魔法で、触手さんから神の属性を感じ取れるようにしているのが良いのか、見た目で邪悪なものと思われることもないですし、驚かれるのもちょっとだけ(多分!)


 私たち、ずいぶんとうまくやっているんじゃないでしょうか?


 私は最後に木へ回復魔法をかけると、おじいさんからお茶とお茶菓子をもらい、冒険者ギルドへと戻ったのです。


「ティーナさーん! 木々の植え替え依頼、終わりましたっ! 報酬くださーいっ!」


「……ここ数日で慣れましたが、相変わらずの早さですね」


 ()めてくれます。


 もらっているお金もたんまりで、数日前まで食事代にさえ困っていたのが、嘘のよう。


 今では、スラムの方々に振舞うための食料のお金さえ、修道院に渡しているほどです!


 この町にスラムは無いので、お金は別の町に送られているはずですが。これも僧侶修行の一環(いっかん)なのです!


 いつもは寄進(きしん)を受け取るほうなので、渡すのは新鮮でしたね。


「依頼票にある、依頼主の方のサインを確認しました。問題ないですね」


 出された報酬を受け取ります。


「……あと、メルミィさんに用事があるという冒険者の方がいたのですが」


 そこまで伝えたティーナさんが、何かに気がついたように、私の後ろを見ます。


「彼女ですね」


 そこにいたのは使い込まれた革鎧を着た女の子でした。十四、五歳の見た目なので、私と同い年ぐらいでしょうか?


「僧侶の服に、後ろの触手……あの……メルミィさんでしょうか?」


 彼女の質問に、私はうなずきます。


「はい、僧侶のメルミィです! あなたは?」


「あっ、私はシフといいます。妹がお世話になりまして……」


 はて。妹?


「宿屋のアムというのが私の妹なのですが、最近メルミィさんに、重篤(じゅうとく)な病気を(いや)していただいたとか」


 ああっ、アムちゃんのお姉さんですか!


 病気だった宿屋の娘さん。彼女を魔法で治し、代わりに素泊まりを無料にしてもらったんです。今も、そのお宿に代金なしで住んでいますよ!


「アムちゃんは、お金がないときにお茶とお茶菓子をもらいました!」


 彼女は天使です。


「家族もアムも、メルミィさんに、すごく感謝しているようなのですが、恩を返せていないと聞かされまして」


 そんなことはないんですがね。


「メルミィさんが、パーティーメンバーが見つからなくて困っているとのことなので、同じ冒険者として手助けできないかと訪ねて来たのです。――仲間が必要なら、加わろうかと」


 おっと……これはありがたいのですが。


「私は僧侶の放浪修行者の中でも、わりとマジメに修行をするタイプかもしれないんですが、良いんですか?」


 回復魔法は貴重なんですが、マジメすぎる放浪修行者は仲間として避けられることがあるんですよね。


 そういうタイプに近いほど、危険があっても、困った人を助けに行こうとしたりして、パーティーの安全を脅かすことがあるんです。


 ある程度、融通が利けば、どの冒険者にも好まれるんですけど。


「本物の、聖女候補生ですね!」


 キラキラとした目で見られているため、問題はないようです。


「いざとなったとき、僧侶としてふさわしい行動がとれるかはわかりませんし、聖女になるのは、ほとんど無理でしょうけれど……」


 通常は、『清浄なる神々の奉仕者』という称号を神さまから得ることで終わる修行の旅。ですが、『聖者』や『聖女』という称号を得る可能性もあるとは聞いていました。


 そのため、『聖女候補者』などと呼ばれることもあるんですね。


「でも、女性ならば、仲間として院長先生からの許可ももらえそうなので、ありがたいです!」


 そう言います。女性の純潔を守るのは、称号を得るのに重要な部分。そのため、最初の仲間ぐらいは見せに来なさいと院長先生からは注意されていました。


「では、メルミィさんの出身の修道院でしょうか、そちらにご挨拶に(うかが)えば良いのでしょうか?」


「来ていただけるのならば、ありがたいです!」


 答えた私。ティーナさんに別れの挨拶をすると、修道院に向かったのです。


「いんちょーせんせーっ! シフちゃん連れてきましたっ!」


 呼び鈴を鳴らし、建物の中から出てきた院長先生に告げます。


「依頼人……いえ、仲間候補ですかね?」


「当たりです!」


「可愛い子ね~」


 院長先生と一緒に玄関まで出てきたミュミュお姉さんが、シフちゃんにニッコリと微笑みます。


「女の子なら安心ですね……。どのような子なのですか?」


「えっと……私は斥候(せっこう)を得意とするCランクの冒険者です」


 院長先生の質問に、シフちゃん自身が答えてくれます。


「周囲を警戒する魔法や、気配を消す魔法なども使え、今までソロを中心に活動して来ました」


「……ソロでCランク、さらに魔法も使えるのですか。斥候職のエリートという感じですね」


 院長先生の言葉に、堂々(どうどう)ととうなずくシフちゃん。


「能力には自信がありますから……必ずメルミィさんを守って見せます。メルミィさんには妹、アムを助けてもらった恩もありますから」


 シフちゃんは、妹思いなんですねー。


「私は戦闘能力も、それなりにはありますので」


 ちらりとショートソードを見せる彼女。


「妹から手紙をもらい、この町に来る途中も、近道の森を通り、トラップベアを返り討ちにしています」


 それに院長先生が感心した表情をします。


「Cランクの力はじゅうぶんにあるのですね」


「宝は重くて持ち帰れなかったのですが……」


 シフちゃんの残念そうな表情。


「魔物が何かお宝を持っていたんですか? 持ち帰れなかった理由が、重かったから、ということなら、私がシフちゃんと一緒に、それを取りに行きましょうか!」


 ()(はこ)びです!


「お宝は、今から取りに行っても回収できると思います……。しかし、金属の性質などから、多分、五百キロ以上あるものなので――」


「そのぐらいなら大丈夫です!」


「……触手で、家具などを持ち運べるとは聞いていましたが、五百キロ以上でも大丈夫なのですか?」


「メルミィなら、持ち運べると思いますよ」


 院長先生が支持してくれます!


「ただ、あなた達だけでなく、人数を増やしたほうが良いのではないかと思うのですが……」


「……魔物と出会いにくくなる魔法も使えるのですが、それには人数が少ないほうが好都合なのです」


「そうなのですか……。では、裏庭で魔法の能力を見せてもらえますか? その魔法の他、全体的にどんなことができるかも見せてもらいたいのですが」


「かまいません。全部お見せします」


 と、シフちゃんがうなずきました。


「……一応、自分たちの能力の全てを伝え合うのは、仲間としてやっていけると確信してからのほうがいいかもしれません。メルミィは、どこかで待っていてくれますか?」


 冒険者の公開していない能力を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反とされていますしね。院長先生に「わかりました! 礼儀正しく振舞います!」と答えます。


「私はメルミィさんになら、見せてもかまわないのですが……」


 そんなことも言ってくれましたが、彼女を逃がさないためにもここは紳士っぽくふるまうのです!


「じゃあ、行きましょうか、シフさん。……あと、メルミィは、その間ヒマでしょうから、ミュミュから《調査分析》の魔法の結果を聞いておきなさい」


「了解です!」


 この前、触手さんにかけてもらった、スキルなどの調査結果でしょう。

 聞くのが、楽しみですねー。


「それじゃあ、メルミィちゃん。私たちは、建物の中で……どこかのお部屋で説明をしましょうか?」


「はい!」


 うなずいて、ミュミュお姉さんの後を、ワクワクしながらついて行ったのです!

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