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10. 球体でも、つかめちゃう!

 多くの人々が集まった、町の中央広場――。エルド国へと向かう我々の出発式が開かれているそこで、仮設の壇上にいる男性を見上げました。


「よく来た! 聖女候補、メルミィ! そのパーティーよ!」


 この『聖女候補』というのは、私のような放浪修行者を指す、大昔からの言い方です。演説用の声を届ける魔法を使っているのか、よく声が聞こえました。


 男性は、この地域一帯の領主さまです。エルド国へと向かうのにあわせ、町を挙げて、この出発式をしようと決定した人でもありますが。


「さあ、像を!」


 うながす領主さま。エルド国に渡す予定であるオークの騎士の像は、布をかぶせ、触手さんに持ってもらっていました。


 後ろで出番を待っていたシフちゃんとアムちゃんが、布を取ります。


 「「おおっ」」と上がる町の人々の声。


「あれがエルドの宝なのか……」「きらきらしてる」「本当にオークの像なのね」


 (かか)げる像に注目が集まります。


「このエルドの至宝を、聖女候補のパーティーが魔物より取り戻してくれた!」


 町の人々に、声を張り上げる、領主さま。


「これが国交が絶えていた妖精族の国と使者をやり取りする基因ともなり、わが国は、すでにエルドから、直接(しな)を輸入できるようになったという!」


「すごい……」「エルド国と」


「いつの間にか、物品を輸入できるようになったんですね!」


 驚きの声が聞こえる中、早口でシフちゃんが私にささやきかけました。


「魔物の脅威に常にさらされる我らに取り、これは()()とない幸運!」


 そうですね……


「皆で、持ち帰った聖女候補、そして見つけるきっかけとなった彼女の仲間に称賛を送ろう!」


 領主さまの合図により、「わーっ!」と、その場が歓声に包まれました。


 「聖女さまー!」と叫んでいる人までいるんですが……。私は聖女さまでは無いですよ?


「さて、本来なら我らは、このままエルド国から来るものと落ち合うため森に向かう予定だったのだが」


 眉間にシワを寄せた領主様。


「少し手違いがあり、そのエルドの使者殿が、ここに来るらしい」


 わーっと軽い歓声が上がります。皆の声から判断すると、エルド国の(かた)を見れるのかと思っているようですね。


 聞いていた予定と違い、私は困惑していますが……


「残念ながら、来るのは妖精族の方々ではなく、彼らの従魔なのだが」


 落胆した様子の町の人々。


「しかし、嘆くことはないぞ。S級の冒険者であってもおいそれとは見れないものを、諸君()は見ることになのだからな! あそこだ!」


 どこだろうと、そっちを見ると、後ろからいきなり肩を叩かれてビクリとします。


「すまぬ、状況がわからないのだが手違いがあったようだ」


 国の人です。


「従魔殿の到着に合わせ、『僧侶の祝福』をお願いしたい」


 その言葉の詳細を聞こうとすると、隣のシフちゃんが私の袖を引いてきて……


「メルミィさん、あれの対策じゃありませんか?」


 指差すのは空を()けるウロコに(おお)われた馬の姿でした。領主さまが指していたものと同じでしょう。竜馬(りゅうば)という魔物ですね。翼はなく、空中を蹴るようにして空を走ります。


 聞いていた通り、人は乗っておらず、簡易的な馬鎧がある部分に、エルド国の紋章がついていて……

 エルド国から来る、私たちを運んでくれる予定だった方――従魔でした。


 放浪修行者は、従魔かどうかを見ただけで判断できるよう、魔力感知などの訓練をするしきたりがあります。そのため、私は、それが従魔であることがわかりました。


「あの竜馬さん……まだ離れているから大丈夫ですが、ここからでも魔力が強そうなのがわかりますねー」


 一応、おさえているみたいですが魔力がダダ漏れで。これは人には強すぎました。


 このまま近づかれたら、小さな子どもとか、魔物の魔力で恐慌(きょうこう)(おちい)ってしまうんじゃないでしょうか。


 よく見ると、今の状態でも、肩を抱いて震えている小さな女の子がいて……


 これは出番ですね!


 こういう魔物の魔力の影響を防ぐための方法はいくつかあります。


 その一つが僧侶による魔力を振りまくこと!


 単純に優しい気持ちで、僧侶が魔力を放つだけなのですが……


 さっき国の方にお願いされた『僧侶の祝福』のことです。竜馬さんの魔力は、敵対する意志で発せられた魔力ではないので、これでもどうにかなるはず。


「行きますよ!」


 集中し、魔力を出します。


「てい!」


「おおっ! メルミィさん、魔力多いですね!」


 シフちゃんに驚かれましたが、町全体を(おお)うとまでは行きませんね。


 この広場の近くにいる子供は効果範囲ですが、そうではない、ここに来れなかった子供とかはカバーできていないでしょう。


「……他の僧侶さんも……協力してくれているみたいですけど……」


「町は全部カバーできていますか?」


「足りない感じです……」


 情報をくれたアムちゃんが、首を横に振りました。

 魔力を見れる彼女が言うのですから、確かなのでしょう。


 院長先生やミュミュお姉さんもやってくれているようですけれど。


 このままだと、それなりの子どもが恐慌状態になり……奇声を上げるぐらいなら良いんですが、壁に向かって思いっきり走り、死んでしまうような場合もあるんですよね……


 (さいわ)い、竜馬さんは、こちらに来るのを戸惑(とまど)っている様子で。なんとか意思の疎通さえできれば、どうにかできそうですが、そもそも会話ができるのでしょうか。


 どうしましょう……


 そう考えていると、視界の(すみ)でニョロニョロと触手さんが動いているのが見えました。


 触手さんから、何かが発せられていて。


「これは……」


 ――これは、触手さんの、神の力です!


 普段はできるだけ(おさ)えているそれを、開放した様子でした。


「うわあっ!」「僧侶さんから光が出てる!」


 その神の力と私の出している魔力が混ざったものでしょう、それが光として見えるようになったようです。


 「あたたかい……」「すごい……」などの声も聞こえ。


「メルミィさんの魔力、町全体を(おお)えていますね!」


「そうですね」


 シフちゃんの言うとおり、町の壁まで、魔力の光が届いていますから。


「あの魔物さんの魔力……全部、打ち消せてます……」


 魔力が見えるアムちゃんからも、お墨付きをもらいました!


「竜馬さんのほうも、こっちに来るようですね」


 私は、指を差します。


 こちらの様子がおかしいことを途中で(さっ)したのか、おりてくる途中で距離をとってくれていた竜馬さん。


 空気を魔力で固めて、踏み台のようにして走っているんですかね? 様子を確かめるように、ゆっくり、こちらに飛んできます。


 そしてウロコに覆われた、その体が、目の前で止まり……


『……すまなかったな。町の人々。そして、神の光に包まれし少女よ』


 これは。


「念話ですか」


 シフちゃんも驚いています。私と同じように、頭の中で竜馬さんの声が聞こえたのでしょう。


『森の中にいるはずの、強い神の気を持つ少女を探していたのだが、見つからなくてな……。近くに同じような気配を持つそなたがいたため、こちらに飛んできてしまった』


 竜馬さんが、ショボンとしています。


 多分、この方が探していた少女とは私のことでしょう。いつの間にか、待ち合わせの目印にされていた様子。


「おおっ! 幻獣殿! よくぞ、お()しくだされた!」


 これを言ったのは領主様でした。いつの間にか、壇上から下りて、こちらに来ていた様子。


『迷惑をかけたようだ』


 竜馬さんが頭を下げました。


「いやいや……部下に調べさせましたが、広場にいなかった者たちも含め、問題はなさそうな様子! それに、こちらが計画を少し変えたのもありますからな!」


 手を振って、答えています。もともと、この出発式はやる予定ではなかったですから、そのことでしょうか。


 魔物の魔力についても、竜馬さんは、けっこう高い場所にいました。僧侶の魔力も町全体を覆ったので、何かあっても治癒されているでしょう。


「それより、幻獣殿! この少女が、聖女候補のメルミィです! そして、メルミィ! この方が幻獣殿……エルド国から今日、来る予定だった方だ!」


「メルミィです!」


 手を挙げ、挨拶代わりの癒しの魔力を(はっ)します。


『おおっ、やはり! そなたの所属するパーティーがエルドの至宝を取り戻してくれたと聞いた! 我が主がとても喜んでいた! 感謝する!』


「い、いえ。お手柄なのはシフちゃんですから」


「大人数で、あの森の場所を移動するのは避けたいですから、メルミィさんがいなければ、いろいろ微妙でしたけどね。荷物持ちと護衛を見つけるのも意外に時間がかかるので……」


 ……そういえば、鑑定した人が、他のお宝好きな魔物に奪われなかったのはラッキーだったと言ってました。


 日にちが経っていれば、別の魔物さんに、像がお持ち帰りされていたかもしれない、という考えはシフちゃんもしていたと聞いたことがあります。


『なるほど! ならば、そなた達、全員に感謝しよう!』


 竜馬さんが、ぶるるん、と、いななきました。


『では、至宝の奪還者たち。新しき友よ! 我の背に乗ってくれ! これが我が今できる感謝の形だ! 汝らの、天を駆ける足となろう! さあ!』


 促される私たち。領主さまにも、うなずかれます。


 それなら……


 触手さんの力も借り、おずおずと(くら)(のぼ)ります。


 続いてシフちゃんやアムちゃんも……。触手さんに持ち上げられ、騎乗しました。


「……けっこう余裕がありますね」


 私の後ろに座るシフちゃんのつぶやき。


 竜馬さんの体は大きいですし、少女三人でも余裕があります。


「はわわわ」


 私の前に座るアムちゃんは、思ったより視点が高くなったのが怖いのか、彼女を支える私の左手にしがみついていますが。


「……触手さんが全員に巻きついているので、心配しなくて大丈夫ですよ」


 彼女の頭をなでました。


 触手さんは、シフちゃんやアムちゃんに巻きつくのが好きなのか、楽しそうに、複数本が巻きつきに行っています。


 竜馬さんにも巻きついていて、かなりしっかり、体を固定してくれていました。……一応、鞍の前にある取っ手につかまっていたほうが良いでしょうか。


 領主さまの部下の方が触手さんに私たちの荷物を渡しているのが見え、私はお礼を言います。


『では行こうか! 魔法の鞍なので、落馬しにくくなっているゆえ安心して乗ってくれ! 股ずれも起きにくく、風も我が力で防ぐ! ゆるりと空の旅を楽しもう!』


「はい!」


『では、領主殿! そして町の人々よ! 迷惑をかけた!』


「問題ありませんぞ!」


 応えた領主さまが、町の人に「旅立ちの祝福を!」と叫びます。


 歓声に包まれる広場。


『さらばだ!』


 そう言って走り出し、空に駆け上がる竜馬さん。眼下に見えた町が、あっという間に小さくなったのです。


「速いですね!」

「そうですね!」


 シフちゃんに答えながら、実はちょっと、あせっていました。


 竜馬さんは、強い魔物の魔力を持っていました。その影響を防ぐ僧侶の魔法をかけようと思っていたのですが、長持ちするものは、使うのに少し時間がかかります。


 アムちゃんは魔法使いなので、大丈夫なのですが、それでもかけておきたくて……

 まだ、用意ができていませんよ!


『おっと、そうだった』


 魔力を集中していると、そんな竜馬さんからの声がかかります。


『我の魔力の対策を忘れていたな……。……まあ、二人は冒険者だし、一人は純妖精族なので大丈夫だと思うが。これを使ってくれ!』


 竜馬さんの首の根元辺りにあったバッグから、私たちの方向へ、黄色の丸い宝石がふよふよと漂ってきます。


 左手でアムちゃんを支え、右手で鞍の取っ手をつかむ私に代わり、触手さんが、にゅるっとそれをつかみました。


「これは……」


『魔物の魔力への防護魔法が組み込まれた精霊石だ! 予備()の物だが、三人に防護の魔法をかけるなら問題ない! 大人数に使うのはできないが……一週間は保つはずだ!』


「予備なんですか?」


 けっこう良い物だと思うんですが。


『ああ! 本来は鞍に付属の聖石を使っていたのだが、壊れてしまって……』


 なるほど。――竜馬さんがいう石は、多分、この鞍の前のほうにハマっているやつでしょう。


 聖石なのに暗い色になっている透明な石を、私は見つけたのです。


 もしかしたら、この鞍の聖石で魔物の魔力を抑えていれば、町の子どもなんかにも影響を与えることはなかった……みたいな感じなんでしょうか?

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