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01. 生えた

「うう……ひもじいです……」


 女子修道院を追い出され五日。ろくな食事を取れていない私は、すきっ腹を抱え、町の宿屋で死にかけていました。


 ――まさか、冒険者が、こんなに稼げない職業だったとは。


 盲点でした。


 『修行』という名目で外に出されてしまった今の私は、修道院に頼らず、何らかの報酬でお金や朝昼夕の食料を得る必要があります。


 つまり、お布施等で、それらを得ることが『修行』のルールで禁止されているんですね。


 街角で回復屋でもやれればいいのですが、その許可を得るためにも(いく)らかのお金を払う必要があります。私には、そのためのお金がありませんでした。


 本当なら、どこかの冒険者パーティーに入れてもらい、後ろで回復魔法等を唱え、報酬をもらう手もあったんですが……


 修行中の僧侶の身では、自分の純潔さにも気を使う必要があります。


 女性が多い冒険者のパーティーが見つからず、それにも難儀していました。


「これ、ぜったい、詰んでます……」


 僧侶魔法が使えるため、冒険者ギルドのランクが、私にとって高いところからのスタートになったのも悪かったのでしょう。


 今のランクで受けられる雑用依頼が、かなり重い荷運びなどの、私の細腕には向かないものばかりになってしまったのです。


 もう……ダメです……


 絶望した私は、最後に残った、僧侶らしい解決方法を試すことにします。


 ――そう、『神さまにお祈りする』という、とっても素晴らしい解決方法を。きっと、これで何とかなるはず!


「神さま……聞こえていますか……? これ、多分、どうにもならんやつです……。私にはいろいろ無理なやつです……。助けて……助けて……」


 かなり環境のいい女子修道院で、ヌクヌクと育った私。

 慣れない空腹感に追い立てられるよう、魔力まで使い、真剣に祈ります。


 しかし当然のように、神さまからの返答はなく――


「もう……無理……」


 空腹時、無駄に魔力まで使った結果、そのままパタンとベッドに倒れこむことになったのでした。


 ――この宿の娘さんを助けたとき、宿代だけじゃなく、食事代もタダにしてもらえばよかった……


 そんな後悔を抱きながら、何をする余裕もなく、気絶するように意識を失ったのです。


 そして翌日……。体をまさぐられる感触で、朝、目を覚まします。


 目をショボショボさせながらも、不思議に思い、体を見下ろし――


「ふおおおっ!? なんですか、これ!?」


 つい、そんな大声を出してしまいました。


 それも、そのはず。


 ――私の体を、数本の、触手っぽい生き物がまさぐっていたのですから!


 体に巻きつく、手でつかめるぐらいの太さの触手たち。


 こんな形の、女の子を襲う魔物がいましたけれど……。しかし、(あせ)りは出ませんでした。なぜなら。


「この子たち……少し、神聖な気配がしますね」


 刺激しないよう、彼らに調査のための魔力をゆっくりと当てながら、判断します。


 神聖な気配なら、悪いものであることは少ないでしょう。


 体の動きを拘束するような巻きつき方でもないですしね。


「でも、この生き物、なんなんでしょうね?」


 不思議に思いつつも、体に巻きついている彼らを手で外そうとするも失敗します。しかたなく、もっと良く調べてみようと部屋の姿見……(かがみ)の前に移動して――


 ――そこで私は、大変なことに気がついてしまいました。


「……あ……あれ? この触手って、私の背中から生えてます……?」


 苦労して映した背中の光景。


 服をずらして見ましたが、まるで六本か七本の触手が、私の背中から生えているように見えて……って、いや、もしかしてこれ、私の体に刺さってません!?


 痛みはまったくないものの、触手の根元がそのようにも見え、(あせ)りが出ます。


「な、何か魔法を……そうだ! じょ、《浄化》!」


 触手を包む、まばゆい光。


 この魔法をかけられると、通常は強く日に焼けたような痛みを感じます。しかし、私は痛みを与えないよう、この呪文を使うことができました。ですが――


「こ、効果ないですね……」


 ゾンビや、邪悪なものが作った魔法生物、邪悪な生き物などに効く魔法。多くの触手の魔物が苦手とする魔法なのですが、神聖な気配を感じる触手には効果がなかったようで。


「じゃ、じゃあ、《病魔退散》!」


 病気の他、寄生虫や寄生生物などにも効く呪文です。


 浄化より、こちらを先に使うべきでしたね、と思いながら使った魔法は、しかし、触手に何の効果も及ぼしませんでした。


 抵抗された感じではないので、これらの魔法が効かない相手だったのでしょう。


「少なくとも、寄生虫や寄生生物じゃない――手で引っ張っても抜けませんし……なんですか、これ!」


 どうしよう……と、そこまで考えたときに思い出したのが、追い出されたばかりの修道院。


 ――師匠(せんせい)に会いに行きましょう!


 先生の僧侶としての知識は、私よりも上。


 食費とかは自分で稼がなければいけませんが、病気みたいなのは頼っても怒られないはず。今の状態も多分、()てくれるはずです!


 そう決断し、マントなどで触手を隠した私。


「院長先生ーッ!」


 宿を飛び出すと、この町にある修道院の扉を叩いたのでした。


「なんですか、メルミィ、こんな朝早く……」


 三十代ぐらいの女性――私の師匠が出てきました!


「助けてください院長先生! なんか、朝起きたら触手がっ!」


 マントを脱ぎ、体に絡みついている触手を見せます。


「……有名な触手系の魔物は、ほとんどに《浄化》の魔法が効くはずですが」


「試したんですが、効かなかったんですよう! それに、この触手、何か神聖な気配があって」


「ふむ、たしかに、そのような気配がしますね。あなたは、気配の感知が得意ではなかったはず。よく気がつきました」


 ほめてくれます。


「中に入り、もっと良く見せてみなさい」


 はい、と答えてから玄関に入り、そこで上着をめくって背中を見せました。


「これは……背中から、触手が生えていますね」


 生えていると断言されます。


「触手は、この背中にあるもののみですか? 体がだるかったり、他に異変は?」


「はい、先生! おなかがすいてクラクラします!」


「……そういえば、あまりお金を稼げていないんでしたっけ。その異変は、単なる空腹によるものですね……。他にはないですか?」


「あとは……」


 ごそごそと自分の体を触っていたら気がつきました。


「あっ、こんなところにもあったんですね」


 触手が、背中以外からも生えていたのを発見した私。


 それを取り出し、先生に見せつけます。


「お(また)の前から、しっぽみたいな触手が伸びてましたっ!」

「――《浄化》ァッ!」


 あちゅいーッ!?


「何するんですッ!? その魔法、熱いんですよっ!?」


 ピカッと光る《浄化》魔法は、かけられると、強く日に焼けたような痛みを感じます。


「すみません……。よこしまな形のものが、よこしまな位置()から生えていたもので、つい」


 ――せめて使うことを警告してください!


「しかし《浄化》でもダメージを負わない点や、神聖な気配がするのは他の触手と同じようですね……。その触手だけ、動きなどが違うように見えるのですが、あなた本人に何か違和感は?」


 触手が生えていること自体が違和感なのですが……あっ!


「院長先生! ここの触手だけ自由に動かせて、感覚もあるみたいです!」


 勝手に動く背中の触手たちと違い、この一本は自分で動かせるようです。

 膝ぐらいまで長さがありますが、伸び縮みもでき、握ると握られた感触もします! ……ついでに()でると、こそばゆいような、そんな感じの気持ちになるんですけど。


「……それは本当に不浄なものではないんでしょうね?」


「えっ、えっと。神聖な気配もしますから大丈夫ですよっ!!」


 わりと敏感な感覚があるようなので、もう《浄化》はかんべんです。


 お股から()びる触手を(あわ)てて服の中にしまい、院長先生の目から隠したのでした!

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