01 入職
「やぁ、新人の職員さんだね。雪豊荘へようこそ。君の名前は?」
私の名前は鎌塚隼人。在学中は出版社への就職を目指して就職活動を行なっていたが、どこからも内定を貰えず。
……そして今、障害者の入所施設にて働いている。
4月
ー第1ユニットー
新山ユニット長「と、言うわけでこのユニットには比較的知的障害の重い方達が入所しているわけです。何か不安な事はあるかな?」
鎌塚「いえ、特にありません。」
新山ユニット長「なら問題無さそうだね。早速だけど、利用者の皆さんに挨拶をしてもらおうかな。」
鎌塚「皆さん、今日からここで働く事になりました。どうぞよろしくお願いします!」
10名程の利用者から返事は無かった。それもそのはず、第1ユニットの利用者達は基本的に対話によるコミュニケーションが難しいのだ。皆、デイルームと呼ばれる、日中を過ごす空間にて自分の席に座り、こちらを凝視したり、文脈の無い言葉を繰り返したりしていた。
新山ユニット長「じゃあ皆さん、鎌塚さんと仲良くして下さいね。」
新山ユニット長がそう言い終わった瞬間、1人の利用者がいきなり立ち上がり他の利用者に向かい走り出した。
新山ユニット長「あっ!」
そう言って新山ユニット長がその利用者の前に立ちはだかった。すると諦めたのか、利用者はゆっくりと自席に戻って行った。
新山ユニット長「見苦しい所を見せちゃったね。でも止めないとあのまま噛み付いていたからね。こういう事はこの第1ユニットじゃあ日常茶飯事だから、鎌塚さんも瞬時に動ける様になって行ってね。」
「はい。」と返事はしたが、心の中は自分にあんな瞬時に動けるのか?もしかしたら自分も怪我をしてしまうのではないか?と不安感でいっぱいだった。
第1ユニットは男性の利用者が入所している為、職員も基本的には男性だ。比率で言うと男性職員が私を含めて5名。女性職員が2名となっている。同性での介助が基本となっている為、女性職員は排泄介助等は行わず、リネン交換や備品整備等をしてくれている。
新山ユニット長「今日から一緒に働いてくれる鎌塚さんです。」
小太りの中年女性「ずいぶん若いのが入ったね!これから活躍してもらわなくっちゃね!あたしは林ってんだよ。よろしくね!」
細身の中年女性「私は悦子。色々大変な事もあるけど、頑張ろうね。」
2人ともこちらが圧倒される様な張りのある声で話しかけてきた。
新山ユニット長「その他に3人男性職員がいるんだけど、今日は夜勤だったり、休みだったりしていないからまた勤務が合ったら挨拶して行こう。」
林「その男性職員の中の犬木さんは凄くめんどくさい奴だから気をつけなよ。」
鎌塚「めんどくさいって言うと?」
林「そのうちわかるよ。ねっ、悦子さん!」
悦子「そうだね。でもそんな事気にしなくていいと思うよ。」
先程の利用者支援への不安に、職員関係の不安も加わり1日目は終わった。