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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

-死地-

作者: 水神

 



 大地は今、熱気に溢れていた。

 吹き晒す風はその熱気にあてられ、熱風へと変わる。


 この地を埋めつくし、熱気を放つ人、人、人。

 数万の人間のぶつかり合い、一人また一人とその生涯を終えていく。


 かち合う金属とその音、肉が斬られ、骨が折れるその中、私は一人、立ち尽くしていた。


 私の小隊は劣勢の中獅子奮迅の活躍をしている。


 一人は頬に矢が刺さるも、動き続け敵に剣を突き刺し、しかし蹴り飛ばされ地に伏した所を槍で滅多刺しされる。


 一人は剣の腕に覚えがあるのか、軽やかな足取りで弾き、刺し、流し、斬り、受け、突き、次々と敵をなで斬りにしていく、も束の間敵の波状攻撃に呑まれ、最後は腕だけが私の足元に転がってきた。


 一人は呆然と立ち尽くす私の所に斬り掛かろうとする敵を突き殺し、「おっさん!!アンタ隊長だろ!指揮しねえと持たねえぞ!!」と喝をいれてきた。


 しかし、どうしろというのだ。この状況を。


 この地で両軍がぶつかり合う事数時間前。私達先鋒軍四千五百人は突出しすぎた。功を焦った軍長は先駆けをして、夜明けを待たずに行軍し、夜襲を警戒していた敵軍の網に引っかかったのだ。


 敵四万の軍勢に対して、こちらは四千五百、いや、既に五百以上は減ったか。本軍三万は到着してはいるものの、敵の懐に入ってしまった私達を救出するのは多くの損害を出すどころか全体の敗北に繋がる事もある。


 それにこれは軍長の命令違反、見捨てられて当然の行為であり、総大将としては優秀な判断だと私は思う。


 しかし、私自身は何もしていない!確かに、軍長の昨夜の意見には反対はしなかった!それは副軍長も、他の部隊長達もそうだ、誰も軍長には逆らわなかった!


 何が悪いと言うのだ!私には家族がいる。家族を養うには稼ぐことが重要だ、稼ぐには昇進も必要だ。なら、無難に、上司には頭を下げ、持ち上げ、気に入られる事が当たり前の事ではないか!


  「おい!おっさん!!しっかりしろって!!このままじゃ防御陣も」


 「少し黙ってくれないか!!私は悪くない!!全部あの軍長の所為だ、アイツがこんな無謀な作戦を強いるから!」


 「ふざけんな!部隊長としての責任があんだろうが!」


 「知るかそんな物!それより退路を切り開け!私を生きて祖国に返すんだ!」


 槍使いの目付きが一瞬で変わった。


 その瞬間拳が私の視界を奪い、鼻っ面がじわりと熱くなるのを感じた。


 「ワガママも度が過ぎると可愛くねえなあ、クソジジイが垂れると尚更だ。」


 地に倒れ、激痛のあまりに鼻を抑えた私が見たのは静かな怒りに満ちた槍使いの顔だった。それは後退りをする程に恐ろしく、やっと間近に死を感じ取れた。


 槍使いの背後に陣を切り抜けた敵が数人斬り掛かるもくるりとその斬撃を避け、敵と相対した時には目にも留まらぬ速さで突き殺していた。


 槍使いはこちらを肩越しに見る。


 「アンタがこの状況で何も無くつっ立ってられたのが不思議に思わねえのか...!」


 痛みのあまりに立つことすら出来なかった私はその言葉にハッとした。確かにそうだ、何故周囲が敵だらけの状況下で私は今の今まで傷一つ負わずにいられたのだろうか


 「小隊の皆が一丸になって、アンタを中心に陣を敷いて守ってたからだ!!アンタがいつか正気を取り戻して、この状況を変えてくれる事を望んで!」


 まさか......あぁ、そうか、思い出した。


 あの矢を頬に射られても尚戦い続けたあの勇敢な戦士はゴーラン。彼は優しく真面目で清い心を持った戦士だった。

 

 あの素晴らしい剣技を持ち、敵を悉く打ち倒した剣士はモルス。少し難儀な性格をしていた彼は皆とは打ち解けるのに時間が掛かったが、本当は孤児に慕われる心優しい剣士だった。

 

 そしてこの槍使いは私の副官。ベルタ。私の優秀な副長であり、生意気だが、部隊の皆から本当の兄のように慕われた好漢だ。


 そんな、皆が、こんな私の為に...


 気付くと私は涙を流していた。ボロボロと大粒の涙を。


 「俺達小隊100名はアンタに救われた。孤児だった奴や、職がなく死にかけた奴。更生した元罪人。他で馴染めなく虐められてた奴。全員がアンタを慕って来てくれた。だからよ......失望させないでくれよ」


 「すまない、すまない」


 「遅せぇよ、おっさん...いや、バラン部隊長、皆がアンタの指揮を待っている」


 倒れたままの私に肩をベルタが貸してくれた。私は涙を拭い、高らかに声をあげた。


 「此処からは私、バラン・スーベフトが指揮を執る!!この最悪の状況下、諸君等と私で打開するぞ!!!」


 鬨の声があがる。おぞましい数の敵を前にして、私の隊は意気軒昂だ。




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