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妖魔紀行  作者: 生田貴博
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3話

「コインロッカーベイビー?あの都市伝説の?」


「ああ、そうだ。普通都市伝説なんかは誰かが勝手に作った話だ。だが時に本物もある。」


「私‥大丈夫ですかね‥?」と怯えた顔をする。


「うん?ああ、大丈夫だ。俺が付いてる限り赤ん坊如きには殺させはしないさ。」と笑いながら上着を羽織って帽子をかぶる。


「でも‥」


「心配するな。俺はそこらへんの霊能者ってやつよりかは遥かに強い。」


そう言ってニコって笑うと、少女もぎこちなく笑った。



その日の夜


二人は例の駅に来ていた。


「さて‥ここか。ほう‥確かに何かがいるな。しかもデカイ。」といつ間にか買ってきていた缶コーヒーを飲み、同じように手に持っていたココアを渡してきた。


「本当に大丈夫ですよね?」


「安心しろ。いざとなったら奥の手がある。」


「久しぶりに嫌な空気だな。」と歩きながら言い、コインロッカーにたどり着く。


まるでこちらを待っていたかのように一つ扉が開き、そこから鳴き声がした。


遥は背筋に悪寒が走った。


「来たか。」


ズルリ


その扉から手が浮かび、遥を掴もうと指を開閉しながら迫る。


「ひっ‥‥‥!」


遥は後ずさろうとしたが、恐怖で動けない。


「ふざけるな。」


そのまま掴まれそうになったところで手が手首から落ちる。


同時に遥の体も動くようになっており、桐山が日本刀を持っているように見えた。


「その程度で俺に立ち向かおうとはな。」


刀を振って血を落とす。


手首から先がなくなった腕がロッカーの中に引っ込む。それと同時に全ての扉が一斉に開き、肉片がボトボトと大量に出てくる。


それが粘土のように形を成し、大きな赤ん坊と化した。


「オギャアアアアアアア!!!」


そう一声泣くと遥に襲いかかった。



「させるかよ!」と刀から斬撃を飛ばす。


それが赤ん坊の腕に刺さり、動きが止まる。


「オラオラオラオラ!!!」と次々と斬撃を飛ばし腕を削いでいく。


「オギャアアアアアアアアアアア!!!!」


そう泣くと追い討ちをかけようとした桐山を殴り飛ばした。


「な!?‥ガハッ!」


殴り飛ばされた衝撃で壁に叩きつけられる。


「桐山さん!」


遥が叫ぶが、桐山は動かない。


桐山が動かない事を確認し、赤ん坊は遥の方を向いた。


「ア‥アア‥」


「た、助‥けて‥」


赤ん坊はその遥の声が聞こえていないのか這い寄る。


「助けて!」


その瞬間、何かが赤ん坊の腕を斬り落とした。


見ると何かは分からないが、地面がまるで鋭利な刃物で斬り裂いたかのように傷が付いていた。


「痛えな。」と後ろでムクッと桐山が起き上がる。


スーツはボロボロになったが、帽子が無事な事を確認すると、埃を払ってかぶり直した。


「覚悟しろよ?」


「き、桐山さん‥」


「ああ、心配かけたな。だがもう大丈夫だ。」


「そこの赤ん坊。」と親指と人差し指だけを立てて銃みたいなポーズを取る。


「本気でいくぞ。」


そう言うと風が吹き出した。


桐山から。


両腕が竜巻に包まれ、晴れると手首から先が鎌に変わっていた。


すると先程まで傷だらけだった体が元に戻る。


「さあ、いくぜ?」


そう言うと姿が消えた。


赤ん坊は一瞬何が起こったか理解できていないようだったが、腕を振り回す。


ザクッ


ザグッ


ザクッ


何かが斬れる音がし、音が止むと同時に桐山が現れた。


「終わりだ。」と空中でクルッと一回りすると桐山自身が大きな竜巻となった。


そのまま赤ん坊に突っ込み、斬り裂いた。


赤ん坊から血が吹き出して背中から倒れた。


桐山は痛みにのたうちまわる赤ん坊を一瞥し遥のもとへ歩いた。


「怪我はないか?」


「ないです‥でもその姿は‥?」


「これか?鎌鼬って知ってるか?」


たまに道を歩いていると、何かに転んだと思ったら切り傷がある。でも血が流れず痛みがない。


それは鎌鼬の仕業だ。


奴らは三匹一組で行動する。


まず一匹目が転ばせる、二匹目がすれ違いざまに切る、そして三匹目が薬を塗る。たまにそれを一匹でやるやつがいるがな。


俺はその鎌鼬を自分に憑かせて戦う。


人外の物と戦うんだから、それくらいやらないとな?


「と、いうわけで俺みたいな奴は沢山いる。」


遥はうなづくと赤ん坊の方を見た。


先程までのたうちまわっていたが体力がなくなったのか動かなくなった。


すると赤ん坊から血が大量に流れ出し、みるみる小さくなった。


「オ‥ギ‥ャ‥」


掠れた声をあげる。


小さくなりふつうの赤ん坊のサイズになった。


死にかけている赤ん坊は遥に目を向けながら必死に手を伸ばす。


そこには先程までの姿はなく、ただの赤ん坊が母親に手を伸ばすようなものにしか感じる事ができない。


自分を殺そうとした相手とはいえ、同情を禁じ得なかった。


「桐山さん‥」


「ダメだ。赤ん坊は殺す。このまま放っておけば、また被害は増えるし、これ以上デカくなったら一人では手に負えん。そうなればこいつは本能のままに人を殺しだす。」


「確かに可哀想だ。同情してはいけないとは言わない。だが俺はそれを言い訳にして被害者を増やしたくはない。」


「‥‥」


遥の目からツーと涙が流れた。


「‥泣かないでくれ。俺だって殺すのは嫌なんだ。」


「だったら‥!」


遥は顔をあげるが、桐山ははっきりと否定する顔を見せた。


「しょうがないんだよ。」と両腕を元に戻して刀を手に取り赤ん坊に近づく。


遥に縋り付こうと必死に届かない手を伸ばす。


「‥‥‥‥ァ‥‥‥」


かすれる声が少しだけ聞き取れるようになる。


「マ‥‥‥マァ‥‥」


その言葉が聞こえると遥はポロポロと涙が止まらなくなった。


赤ん坊は人を殺したかったんじゃない。


ただ愛して欲しかっただけなんだ。


それは見知らぬ少女に母の愛を求めるように。


「マ‥マァ‥!」


「ーーーーっ!」


桐山は涙を流す遥の姿を見て、少し考えたが、前を向いた。


「すまない。来世ではせめて‥お前が愛される事を願う。」と刀を振り下ろした。


しかし刀が赤ん坊に刺さる事はなかった。


遥が間一髪赤ん坊を抱き寄せたからだ。


赤ん坊は遥にしがみつき、遥はしっかりと赤ん坊を抱きしめていた。


「お前は何をしているのか分かっているのか?」


悲しそうな顔をしながら言う。


「この子は殺させない!」とより一層抱きしめる力を増す。


「さっきも言った通りだが、こいつは‥」


「分かってます!でも!」


押し問答をしていると急に赤ん坊の体が光り出して宙に浮いた。


そのまま遥の中に入り、光が収まった。


え!なにこれ?


遥は体が熱くなっていくのを感じ意識を手放した。



そして次に目を覚ました時は桐山探偵事務所に戻っていた。


「あれ?私いったい?」


「目が覚めたようじゃな。」と杖を突いた老人がいた。


「食べなさい。」


懐から飴玉を出してくれた。


それを口に入れる。


「甘い‥」


「とりあえずこれで安心じゃ。それに同化もできておるわい。」


「ありがとよ。白爺はくじい。」


白爺と呼ばれた老人は杖をついて帰っていった。




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