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episode.2

 


 僕たちが連れてこられたホールには、沢山の、沢山の、人間がいた。空いている席などほとんど無いほどに。



 〝おぉ、……あの少年、美しい……。どうする……?〟

 〝いや、恐らく高くつくだろう、……あの少年を視ている、高貴な御方が沢山おられる……。俺にゃ、とても手が出せん……。〟

 〝だよなぁ……はぁ……もっと金があればなぁ……。〟

 〝いやしかし、そればっかりは仕方がないだろう?他に、は……っと、あの少女なんかどうだ?〟

 〝あの亜麻色の髪の毛にペリドットの瞳の少女か?……あの子も、中々高そうだが……。〟

 〝しかし、少年よりは安かろう。それに、もっと美しい少女は他にいる。あれぐらいだったら俺たちにも手が出せるはずだ……。〟

 〝……まぁ、正直少年狙いだったが、他に目当ての物も無いし、女でも良いか……。いや、しかし……次の時までに、金を貯めておくというのも……。〟

 ふと、こんな会話が聞こえてきた。何の話をしているのだろう。……ここで、僕は何をするんだろう?


 ちらと隣を見ると、少女は目を見開き、青ざめて震えていた。

「……どうしたの?」

 僕は、それを不思議に思って訊いてみた。すると少女は、一瞬口をぱくぱく動かし、その(のち)、絞り出すように、声を震わす。

「──ぁ、あぁ、……シスターが言ってたこと、本当だったんだわ……。時々、孤児院に知らない男がやって来て、そうして連れていかれる子が、競りに懸けられるってこと……」

 それは、僕の質問に答えるというよりは、独り言のようだった。

「……どういうこと?」

 僕は再び訊ねた。少女はなおも青ざめながら、答える。

「……ここは、人身売買をするところ。私たちは、競りに懸けられて、値段をつけられて、買われるのよ。私たちは、あの客席に座っている者の誰かに、飼われるの。」

 少女の感じている恐怖を、そうして事の重大さを、僕は分かっていなかった。


 舞台に、コッコッと、靴が床を叩く音が響き、その音は、上手で止まる。


 “Ladies and gentlemen!!”


 突然、ホール全体に響いた男の声。少女が、ビクッと肩を震わす。


 ホールに響いた男の声の残響と共に、パッと、スポットライトが舞台を照らし出す。男と、それから舞台の中央を。舞台の上には、僕たち二人以外にも、十数人の少年少女がいた。同じように、手足に重り付きの枷を嵌められて。


 照明に照らし出された、ファントムマスクを着用した男が、再び口を開く。

「本日は、各国よりお集まり戴き、有難う御座います!これより、美しき少年少年たちの里親探しを始めます!お値段はご自由に御決めください!最も高値をつけることの出来た方の元へ、此方(こちら)の少年少女が行きます!それでは、納得のいく値段で、お気に入りの少年少女が見つかりますように。」



 この男の言葉で、僕たちは、この舞台の上にいる少年少女の生命は、この客席に座っているヴェネチアンマスクをつけた人々にとって、ただの“商品”にすぎない、という事を理解した。



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