episode.1
……?何処だ、ここ……。
気がついたら僕は、真っ暗なところにいた。……車?いや、トラックか。エンジンの音と、道を走る振動、それからこの暗い箱。これらを鑑みて、多分、トラック。
僕は、トラックなんかに乗せられて、一体何処に行くと言うのだろう。……一体、何処に連れて行かれるのだろう。
「あれ、気付いた?」
突然、声がかけられた。
「──っ!?」
当然、僕は驚く。声にならない悲鳴を上げた。
「あぁ、ごめん。私、早めに起きてたから……。」
そう言ったのは、僕と同じくらいの年の少女だった。まだ暗闇に目が慣れなくて、その子の顔は良く見えない。
「ねぇ、僕たち何処に連れてかれるの……?君は何か、知ってる……?」
恐る恐る、訊いてみた。
「私もよく、わからないの。孤児院に、知らない男が来て、それで、無理矢理連れてこられたの……。」
少女も心細そうに答える。そこで、「でも、もしかしたら……。」と、小さな小さな声で発された言葉は、僕には聞こえていなかった。そうして、
「あぁ、そうなんだ。僕と、同じだ。孤児院にいた僕を、サングラスを掛けた黒いスーツの男が、突然、さらってったんだ。」
まだ怖い気持ちはあったけど、少女がいることで、そして境遇が同じだということが判ったことで、少し安心して言った。
「そっか、同じだね、私たち。」
少女も少し安心したように言った。
そこで、初めて気がついた。僕の手足に、枷がはめられていることに。鎖の先には、重りが。それは、少女もだった。
少しずつ、暗闇に目が慣れる。トラックの中には、僕と、少女以外なにも、誰もいなかった。そのとき初めて、彼女の顔が見える。
少女は、僕の視線に気付いてにっこり笑った。可愛いな、と、思った。僕はそれまで、こんなに可憐な女の子を見たことがないと思った。肩甲骨にかかる亜麻色の髪の毛に、ペリドットの様な緑色の瞳。長い睫毛。眉毛よりも高い位置にある前髪。整った顔立ちでそっと微笑む彼女に、僕は惹かれた。
トラックが、突如止まる。運転席の扉が、開いて、そして閉じる音。荷台の扉が開かれる。
開かれた扉の先では、それまでの暗闇と同じくらいの暗闇が、僕たちを待っていた。それから、僕たちをさらってここまで連れてきた男。
男が口を開く。
「おい、降りろ。」
僕たちは知らず知らずのうちに、手を握りあっていた。そうして恐怖にうち震える僕たちを見て、怒りを露にして再び口を開く。
「おい!早く降りろっつってんだろ!」
瞬間、僕たちを引き摺り降ろす。
そうして、少女と共に、連れていかれた場所は……────
客席が扇状になっている、ホールの様なところだった。
異様なのは、その席に座っている者が皆、仮面をつけてマントを羽織り、出来るだけ黒ずくめになっていることだった。