風邪
くしゅっ。
くしゅん。
ぐしっ。
「……言わんこっちゃない。」
「だ、だって……っ、」
くしゅっ。
「…………。」
秋は深まっても、まだ冬は遠い。そんな日の休日。
僕は、少し気の早い風邪っぴきの看病をしている。
「ほい、ティッシュ。」
「……ありあと《ありがと》。」
「まったく、馬鹿なんだから。」
彼女が風邪だと知ったのは、1番最近のデートの後。中々連絡が取れず、自宅を訪ねた所、布団の中でぐたっとしているのを発見した。
「電話取れなくてごめん。」
僕を見た直後に、彼女は掠れ《かすれ》声でこう言った。
何度も擦った所為で、鼻の下は赤くなっていて。
「……なんで、すぐに言わなかったの。」
「ご、ごめん……。」
「…………。」
「お、……怒ってる?」
ものすごく不安そうに見つめる瞳は、熱の所為で潤んでいるから、余計辛そう。
ベッドの横に座って、目線を合わせる。
どうしても、聞きたいことがある。
「ね、俺ってそんなに頼りない?」
「え?」
どうして、すぐに呼ばなかったの。
「来て」って言ってくれなかったの。
俺は君を心配することも出来ないの?
「違っ……。」
次に出る言葉が目に見えて、言葉の先を遮る。
「俺、確かに頼りないかもしんないけど、自分の1番大切な恋人守る甲斐性くらいあるよ?」
だから、
「もっと、甘えて欲しい。」
あなたの細く、白い手を握る。
「風邪の心配くらいさせてよ。」
誰も頼ろうとしないあなたを、迷惑を掛けたくないと意地を張るあなたを、
嫌というほど見てきたから。
だからこそ。
「つらいって言っていいから……。」
「……っ…。」
彼女の瞳は、大きく見開かれて、次にこぼれ落ちたのは、
愛しい人の本音。
あなたの、数少ない我が儘。
「ねえ、」
「ん?」
ここにいて。
手を繋いで。
「大丈夫って言って……?」
泣き顔も怒った顔も、小悪魔な微笑みも情けない風邪っぴきのあなたも。
僕の大事な恋人。
願わくば、
いつかそれが、
この命
続く限りの
幸福となることを。
身近に風邪を引いた人がいたので。病気になると、それがどんなに軽い風邪でも、人恋しくなりませんか? そんな想いで書きました。お読み頂きありがとうございます。