表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

奪われた未来

 刑事が二人やって来た日の夕食後、スマホに電話が掛かってきた。また元彼女からだ。


「はい。柳です」


「私よ、分かってるんでしょ」


「そうですね。今日はまたどんなご用件でしょうか?」


「そんな他人行儀な言い方は止めてよ」


「事実他人じゃないか」


「そりゃ、まだ籍は入れてないけどね」


「何馬鹿な事言ってる」


「分かったわ。別れたのは認める。別れたのは認めるから、よりを戻しましょ」


「あのな」


「だって、折角研修終るって言うのに一人じゃ詰まらないでしょ」


「女医さんなら幾らでもお相手はいるんじゃないか?」


「都合の良い相手はそんなにいないわよ」


「今、都合の良い相手って言ったな」


「だってそうなんですもの。あなたにとっても都合が良いでしょ。働かなくても済むし」


「家事も労働のうちだよ」


「それもそうね。ね、私理解があるでしょ」


「男女が世間と全く逆なんだが」


「いつまでもそんな古臭い考えじゃ駄目よ」


「もう頭が痛くなってきたから切るぞ」


 大輔はそう言うと通話終了のボタンを押すと、ラップ音がした。直ぐノートを開く。


『また、元彼女さん?』


「そうだよ。別れたのは認めるからよりを戻せって言うんだ」


『戻さないの?』


「まさか。さっきも俺の事都合が良い相手って言ってたよ」


『でも、明日私みたいに交通事故に遇って死ぬかもしれないよ。一人で死ぬのは寂しいよ』


「あー、そうだ、俺がノートを見つけるまではどうしてたんだ?」


『夢を見てると思ってた。ずっとこの部屋にいたんだけど、気がついたらお母さんがいなくなってて。色んな人が越してきたけど、皆直ぐ出て行ったよ』


「そりゃまあ、ポルターガイストだしね」


『それで、元彼女さんの面倒を見てたの?』


「まあそうだな。研修で疲れてたんだろうけど、こっちだって仕事で疲れてたんだよ」


『でももう仕事してないんでしょ』


「疲れ果てたから少し休んでるだけだよ。充電期間ってやつ? それに今はあんたの世話を焼いてるし」


『そうか。そうだね』


 大輔は少し話題を変えることにした。


「そう言えば天文部だったんだろ。天体観察ってどんな感じ? 大きな望遠鏡を使うのか?」


『あの日の事? 流星群の観察には望遠鏡は使わないよ。視野が狭くなるから。午後7時に学校に集まって11時半まで屋上で観察したよ。本当は9時位からが本番で、それまでは他の天体観察したり、雑談したりしてた。私は健二君と喋ってたけど。あれが最後になっちゃったね』


「ちょいまち。健二君って彼氏だよね」


『健二君が天文部だから天文部に入ったんだよ』


「まあ、いい。それで」


『9時頃から流星が見え始めて、帰る前には数分に一個位になってた。もっと見たかったな』


「星降る夜か」


『違うよ。星降る夜って言うのは、星が一杯見えて落ちてくるんじゃないかと思うっていう事で、流星の事じゃないよ』


「そうなのか?」


『そうだよ。学校の屋上でも街の明かりが邪魔で、そこまでは見えないもの。あの時健二君と話したんだ。いつか本当に降るような星の見えるところに二人で行こうって。でももう無理になっちゃった』


「そうだな」


 大輔は何故晶子があんなに未来が奪われたと言うのか少し分かった気がした。


「それが奪われた未来なのか?」


『そうだよ。降るような星を好きな人と見に行くのが夢だったんだよ』


「そうか」


 『あき』ちゃんは思ったより純真だったんだな、あいつとは大違いだと大輔は思った。


 もっともあいつと知り合ったのは大学に入ってからだし、高校の頃どうだったか知らない。それにあいつの方が年上だし。


 『あき』ちゃんはかわいそうだな。だからと言って大輔に出来る事は犯人を見つけてやる事ぐらいだ。それも警察が十年近く掛かって出来なかったんだから相当難しい。せめて殺人である事を示して時効を無くす位か。


 よく考えれば警察はこれまで交通事故として捜査してきたのだから、殺人に切り替われば捜査の方向性も変わるはず。ひき逃げ事故には動機が無いが、殺人事件には動機は不可欠だ。


 ノートを警察に渡せば殺人事件として捜査してくれるだろうか?だが殺人の被害者が死後に書いた文章なんて証拠採用される可能性は無いし、下手すればもみ消される。非常識極まりない事態だしな。


 大輔は当分の間はノートを警察に見せるのは止めることにした。自分に嫌疑が掛かってきた時の切り札として取って置こうと思った。


 その夜寝床の中で大輔はひき逃げの瞬間を頭に描いた。信号の手前30mに停車した乗用車から前方を監視している。左端に止めた車の助手席の向こうをI高校の制服を着た女の子が通り過ぎる。横断歩道の一点を自転車のライトが照らし、その上に暗闇の中に光る信号が青から黄色から赤へと変わる。車が前に進み始め、ライトに照らされた横断歩道を目印に少し左側を目指して進む。横断歩道の明かりは一定速度で左から右へと進む。横断歩道に到達した瞬間、女の子が車の右のヘッドランプ付近に激突し、ボンネットに乗り上げ……違う。


 もしそんな衝突の仕方をしたなら、ヘッドランプの破片が辺りに散乱していたはずだし、フロントグラスに当たるかもしれない。そうなれば運転手もただではすまない。


 もう一度。


 車は自転車を踏み倒して、女の子の左を通り過ぎ、女の子は右のドアミラーにぶつかって転倒して頭を打つ。衝突による女の子のダメージは軽微だったが、転倒時に頭を打った事で脳に損傷を被る。救急車が来るまでは意識があったものの、脳に受けたダメージにより救急車による移動中あるいは病院到着後死亡する。


 ドアミラーなら人体と時速40キロでぶつかったとしても折りたたまれるだけで遺留品を残さないかもしれない。だがその状況なら『あき』ちゃんが死んだのは運が悪かっただけと言う事になる。


 確実に殺そうとすれば遺留品から足がつくし、遺留品を残さずにおこうとすれば殺せない。そもそも殺人だというのが間違いなのか?だが状況は犯人が車を『あき』ちゃんに向けて進めた事を示している。


 轢くのが目的じゃなく脅しだったのか?だが脅しなら脅した相手が分からないと意味が無い。


 もし計画殺人なら、犯人は遺留品無しにひき殺す手段を用意していたのではないか?


 そんな事を考えているうちに大輔は眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ