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第1部 ハルカ 13

※ケータイ、スマホの表示では文字組が崩れる箇所がありますので、読みづらいかと思います。PCでの閲覧をお勧めいたします。

 久世がこのウェブサイトの仕事の世界に入ってからほんの10年あまりだが、インターネットの普及と技術的革新のスピードは劇的とも言えるほどだった。今では企業や個人にとっても無くてはならない通信手段のひとつになっている。そしてこのインターネットには、それまでの通信とはまったく違う側面があった。

 それは独立した個のミクロ的世界を保存している各人のコンピュータが、まさに蜘蛛の巣状に世界中張り巡らされたネットワークに繋がっていて、あらゆる情報、知識、意見、批判、会話、画像、音声、動画が高速で行き交うマクロ的世界をも形成しているのである。もはや単なる通信手段ではなく、あたかも地球全体が情報伝達処理を行う神経細胞ニューロンによって構成された、ひとつの巨大な脳に置き換えることもできそうだ。そしてこのネットワークの中に、虚偽、嫉妬、誹謗、中傷、暴力、猥褻が含まれていることが、まさしくひとの中に混在する善と悪、明と暗を具現化した世界のようなのだ。決して正確な線を引いて、善悪、明暗を二分することはできないし、この境界線はぼやけていて絶えず揺れ動き、ときには逆転することさえある。だが、これら善と悪、明と暗はそれぞれ一対で存在できるのであって、どちらか一方だけではそれを認識することさえできない。きっと善ばかり、明ばかりの世界では善とか明という概念自体が存在できないのだ。影があってこそ光を感じるのだ。これは物体の最小構成単位である原子がプラスの電荷を帯びた原子核とマイナスの電荷を帯びた電子から構成されていることに関わっているのではないだろうか。善悪、明暗、プラスマイナスは引力によって繋げとめられた一対でなければならないのだ。さらに原子核を中心に回転する電子は、太陽を中心に回転する惑星やもっと離れて見れば銀河をも思わせる。なぜ、こんなにも、微小な原子が極大の宇宙にまで、そのまま対比できるのだろうか。引き寄せあう一対によって成り立つ微小で構成され、極大に包含されているひとは、きっとこの一対から逃れられないのかもしれない。

 そしてこのインターネット世界も、ひとが友人や他人に見せる表側と家族さえ知ることのない裏側の両側が、ありのままに具現化されているのである。

 多くの課題を抱えたまま広がり続けるインターネットではあるが、ひとはそれ以前とても記憶することも、所有することもできなかった膨大な情報を簡単に取り出せるようになってきていることも確かである。それは曖昧な記憶を手繰るようなやり方でもなければ、わざわざ書店や図書館へ出かけ、見上げるような書棚に並んだ背表紙から内容を推測するようなやり方でもない。欲しいものがあれば、政府機関や企業、団体、個人が所蔵、公開しているさまざまなデータの中から探り当て、瞬時にして閲覧、ダウンロードすることができるようになった。

 そしてこのネットワークは通信可能なコンピュータがあれば、どんな辺鄙な最果ての地に住むひとであろうが、大都会の高層マンションに住むひとであろうが、見知らぬ街に住む見知らぬひとであろうが、毎日顔を合わせて喋っている親しいひとであろうが、思わぬところで繋がっているのだ。

 あらためて、久世にそんなことを考えさせるようなことが起こった。そうとしか考えられないのだが、おそらく偶然「ボクとハルカのデート・ブログ」にやって来たのだろう。物好きなひとがいるものだな、と久世は思った。最近数人からブログにコメントが寄せられるようになってきたのだ。しかも随分まえからずっと楽しみにして読んでいるというひともいるのだ。まったく知りもしない他人の、しかも架空のデート話をだ。当然むこうは、このブログがありもしない久世の妄想だとは知りようもないのだが。

 もちろん、久世はこのブログのことを誰にも知らせてはいなかった。匿名をいいことに誰に見られたってかまわないと考えていたが、やはり自慰的にも思えるこのブログの存在は誰にも知られたくなかった。とくに知人には絶対知られてはならなかった。これは久世個人の楽しみであって、ひっそりとひとりで楽しめればよかったのだ。ただ、ほんの思いつきではじめた久世自身予想もしていなかったのが、こうしてブログとして形にしてみると、妙な現実味を帯びはじめていた。そんなときブログに「ふたり」を応援してくれるようなコメントが寄せられるようになったのだ。これは久世を大いに勇気づけた。最初は薄暗く、孤独で、後めたい自慰行為のように感じていたものだが、「ふたり」のことが認められたような喜びがあった。

 暖かくなりはじめた春のうららかな空気を胸一杯吸い込み、「ふたり」してしっかり手を繋ぎ、駆け出したい気分だった。

 久世圭介は、ますますブログの妄想世界へのめり込んでいった。しかしその妄想世界もやがては覚めて冷えてしまい、膨張を停止し収縮を始めるときが来るのだろうか。久世自身知るよしもなかった。それはこの膨張する宇宙の中にいるがために、膨張していることに気づかないでいるのに似ていた。



_____ボクとハルカのデート・ブログ________________


タイトル:B級グルメ第2弾

日  時:2007/03/10 23:12:11

記事本文:ハルカ「晩ごはんが?」

     ボク 「ああ」

     ハルカ「ほんとに?」「ほかに、なんにもないの?」

     ボク 「ない」

     ハルカ「たこ焼きだけ?」

     ボク 「そう」「両親が大阪出身だろ。うち」

     ハルカ「うん」

     ボク 「子供の頃、たまに晩飯がたこ焼きだったんだ」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「オトン、オカン、妹、順番で焼いていくんだ」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「ひとりが焼いて、ほかの3人が食べる」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「それがローテーションで順番に回る」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「もう、いらん。食べられへんっていうまで」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「さあ、いくで」

     ハルカ「なんで、大阪弁なわけ?」

     ボク 「大阪弁のほうが感じでるやろ」「たこ焼き屋さん」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「ちょっと、待っときな。お嬢ちゃん」

     ハルカ「たこ焼きだけねぇ」

     ボク 「横浜で、豚まんばっかりだったじゃないか」

     ハルカ「B級グルメ、第2弾ってこと?」

     ボク 「そう!」「ゼイタクだよぉ」

     ハルカ「このために、たこ焼きの鉄板、買ってきたの?」

     ボク 「いや、前から、持ってたよ」

     ハルカ「全然、知らなかった」

     ボク 「・・・」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「はい、お嬢ちゃん」

     ハルカ「いただきます」

     ボク 「もう一回、自分の分焼くから次から交代でな。お嬢ちゃん」

     ハルカ「焼いたことないけど」

     ボク 「教えたげるがな」

     ハルカ「・・・」

     ボク 「どうや、うまいやろ。お嬢ちゃん」

     ハルカ「ハフハフ、うまい」


     横浜中華街「豚まん食べ歩き」に続くB級グルメ第2弾

     「たこ焼き屋さん」をボクの部屋でやりました。

     念のためスーパーで買ったお惣菜も隠してたんですけど。

     そんな心配、いりませんでした。


_____by ボク_____コメント(4)______________


    ○ポー_2007/03/10 23:43:28

     おふたりのデートの会話、いつもほのぼので楽しみにしてます。


    ○ロンリーハート_2007/03/11 01:23:56

     ハルカさんって、ゼッタイむちゃくちゃカワイイ人ですよね。

     どんな人かなって、想像しちゃいます。

     うらやましいっす! ハルカさんみたいな彼女欲しい!


    ○サルバドール・ダレ_2007/03/11 11:41:05

     横浜港の大桟橋、すごくいいアイデアだと思って、彼女を誘って、

     豚まん食べ歩きをやったんですけど、僕の彼女は怒っちゃいました。

     絶対、ウケると思ったのに。残念。

     たこ焼きは絶対嫌がるだろうなあ。


    ○バナナ_2007/03/11 14:37:19

     ボクさんとハルカさんのデート・ブログ、ずっと拝見してます。

     ほんとに仲良しですよね。

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