freestyle
見たことのない世界に一緒に飛んでください。
私は、フリー女。どんなことにもフリーで前を見る。そんな私は、学生時代から大人しくて言い訳をしない真面目な少女だった。親に気に入られようとして頑張って違う自分を演じて、演じて、疲れて、今、フリー女になった。自由に世界を生きてみたくて。どんな場所にも羽ばたいて行きたくて。そんな私は、一つの楽団に惚れていた。音を奏でて人を魅了させれるピエロのような楽団を。
「あの、この楽団っていつからこの場にいるんですか?」
いつも桜が咲く公園に居座っているお爺さんに話しかけてみた。
風貌からしてホームレスのようだ。
「なんだい、嬢ちゃん。この楽団に興味があるのかい。奇遇だねぇ。俺もなんだよ。」
そのお爺さんは、白いひげを触りながら座っていたベンチから立ち上がった。
「行ってみるかい。」
「え、どこに?」
「そりゃあ、決まっているだろう。楽団さ。まだ、名前も知らない。」
そう。この楽団は、名前がない。いや、私達聞く側の人間がその楽団の名前を知らないのだ。
気になる。名前があるのなら。
「行きたいです! 是非!」
私は、いかにも怪しいお爺さんと共に真っ赤なテントを目指した。彼らは、あの場にいる。
「今日は、皆を幸せにする曲を弾くよー。まずは、ヴァイオリン!」
優しい音色が聞く者の心を溶かしてくれる。
「綺麗な音。」
「和むわね。」
主婦の人たちや、子供たちが楽しそうにその曲を聞いている。
「いいねぇ、やっぱりこの楽団は!」
いきなり、横にいた白髪のホームレスお爺さんが騒ぎ出した。
私は、せっかくの綺麗な音色が雑音に変わるのを防ぐため、お爺さんの口を塞いだ。
すると、その光景を見ていた一人の楽団の青年がやってきた。
「あぁ、あなたはいつもの!」
そう言って、目を輝かせてこちらへとやって来る。
眼鏡をかけた青年は、どこか理知的で楽団のリーダーなのではと思わせるような好青年だった。
「ホームレスおじさんだね。今日も見にきてくれたのかい?」
「あたぼうよ。俺は、この楽団のファンなんだ。」
「へぇ、そうかい。そちらのお嬢さんは?」
急に話を振られておどおどしてしまったが私は、聞きたいことを彼に尋ねた。
「私もこの楽団のファンで。好きで、でも、あなた達の名前を知らないから。」
「あれ、君はもう、知っているんじゃないのかい?」
「え?」
私は、首を傾げた。
しかし、赤いテントがそれを教えようとしていた。
昔、この景色見たような。
「あれ、ホームレスのおじさんも知ってるけど、君も会ったことがあるね。」
後ろから金髪の青年が歩いてきた。彼は、片手にフルートを持っている。
「あなたは。」
天使、そう呼ぶに相応しい表情をしていた。
「お嬢さん、君は、ここに来たことがある。それは、昔、学生の頃。そして、僕達に名付けてくれたのさ。」
え、そんなことあったっけ。
すると、横にいたお爺さんが私の背中をドンと叩いた。
「あぁ、あんた、マキちゃんか。あの中学生の時目を輝かせて来てた。あの。」
あれ、私のことを知っているの?
どうして?
「覚えていないのかい? 君が名付けてくれたんだよ。」
赤いマントに眼鏡の青年に金髪のフルートの青年。そして、ホームレスのお爺さん。桜並木が綺麗でこの公園が大好きで。自分の居場所だった。
中学の寂しい学校から抜け出すために。
ここは、私の居場所。
彼らは、いつも私に自由を見せてくれた。
私は、彼らから自由を学んだんだ。
何で、今まで忘れてたんだろう。
気付かせてくれた大切な人達なのに。
「思い出してくれたかな。僕達の名前を。」
うん、思い出した。
あなた達は。
「free」
『style』
ガバっ。
あれ、ここは、自分の部屋?
何でここに?
「マキ、起きたの? 早くしないと会社に遅れるわよ。」
今、午前6時。今まで見ていたのは夢。
希望。。
黒の長い髪にくしを通す。見慣れた景色に慣れた行動。
いつも、こればかり繰り返してる。
刺激が欲しくて。思い出したんだ。
あの楽団を。
『freestyle』
彼らは、私に自由を教えてくれた。
私は、今から自由を追い求める。
私が幸せになる道を探すために。