てんやわんやな翡翠狼
『で、使徒殿。お聞きしたいのだが、何故あの場を離れたのですか? 』
翡翠狼が怪訝な声で自分に聞いて来る。
偉そうな声なのに聞き方がおかしい。
幻獣翡翠狼。全長4〜5m。
深淵の緑と言われるほど美しい緑の毛を持つ誇り高き巨狼。
…てな感じで世間では広まっているのだが、尻尾をフリフリしながら顔を寄せて来るこの姿を見てどう答えたらいいのだろう。
『こちらをずっと見ているが我が毛並みに魅せられたのか?』
ドヤ顔な感じでこちらに話しかけて来る翡翠狼。
なめし皮ならどんな感じになるんだろう。
気になります、自分。
『何か生命の危機を感じるのだが』
オロオロしだす翡翠狼。
やりすぎたかな?
「いや、これからの事を考えていてな。どうやって生きていこうかなぁ…なんて」
どうやら今の自分だと人の中で生きていくのは大変だ。
何処か静かな所で過ごそうか。
「翡翠狼の所にでも行こうかなぁ」
そう言った瞬間翡翠狼がガクガクと震えだした。
風邪かな?
『勘弁して下さい』
なに真顔でそんな返事をするんだ。
こうなったら意地でも付いていってやる。
「決めた。お世話になりに行こう。」
『嫁に怒られる〜』
ん?この駄目狼、なんかおかしい事を言いだしたぞ?嫁だと ⁈
こちらがこんなに困っているのに奥さんとイチャイチャすることだけかんがえていたのか?
これは免罪符を使ってもいい事案ではなかろうか。
「そうか。俺がこんな事になった理由がお前にもあるのに、お前は嫁と仲良くよろしくする訳だな。そうか〜」
『や、やばい。この人おかしい。神様なんでこの人使徒にしちゃったの、何なのこの黒いオーラ?!』
そんな世間話をしながら、森の奥までやって来た。
狼が肩を落とすって始めて見たなぁ。
『嫁よ。今帰って来た。少し問題があってな。済まんがここまで来てくれるか?』
わぉわぉ吠えてる内容がこんな感じでした。【念話】の汎用性凄いな。
少しの時間が経つと、【索敵】と【第六感】に反応が有る。
そして木々の影からひと回り大きな翡翠狼が現れた。
『あんた。どこ行ってたのよ。食料も取らず良い身分ね。人間の子供の匂いがするわね。また、助けて来たの?』
旦那への怒りがかなり大きくなっているみたいなので、割り込むように会話に入る。
貸し1つだからな。
「横から口を出しますがすいません。旦那さんは私を助けてくれたんですよ。奥様にはご迷惑をおかけして申し訳無い。わたくし創世神グリムベルトの使徒でございます。借り名で宜しければベルとお呼び下さい」
礼をして話しかけると、…固まっていた。
うん、定番だよね。
固まるのは。
『ちょ!あんた!何しでかしたのよ!神罰対象になるなんて、私も謝りに行くから訳を話しなさい』
コソコソ話してるけど念話だから丸聞こえなんだよね。
あ、旦那従えて伏せをした。
『えー使徒様に対しとんだ失礼を。ウチのものがご迷惑をおかけしたようで大変申し訳ございません。つきましては…』
やっぱり誤解してるな。
旦那の方を見てみるがすでに目が死んでいた。
うん。これは不味い。
手助けしよう。
「いえいえ。彼が悪いわけではありませんよ。彼のせいで問題が大きくなったのは事実ですが使徒である事がバレるのは時間の問題だったでしょうし、こうして彼が匿ってくれましたから」
そういうと、奥さんは感激したのか、ギャウギャウ吠えだした。
うん。丸く収まったようだ。良きかな、良きかな。
『今、わざと恩を着せるように言ったよね?ワシとばっちりなだけじゃろ? 嫁さん切れちゃったじゃないか! しかも、さらっとここにいる事をワシが決めたみたいに言わないで? 無理矢理じゃろ?…ちょ、ルオン。痛い! 痛いって? ワシ悪くないって! 」
『あんたって人は、いつもいつも!』
そんな念話が飛び交う森で奥さんにペシペシ前脚で叩かれる旦那を見て、ほっこりする自分であった。
あの後これから世話になる礼に大鹿の肉を渡し、自分は携帯食で夜食を済ませた。
翡翠狼の巣が近いと迷惑だろうし少し離れた所でキャンプする事にした。
深夜となり星空の下、双月を見ながら今日あった事を思い出す。
魔獣ミノタウロスを倒した後、翡翠狼にこの場を離れる事を【念話】で伝え彼の背に乗りながらその場を去った。
更に人が来るのを感じたし、流石にあそこまですると普通じゃ無い事は誰にでも分かるはずだ。
助けた事は後悔してないが、これからの事を考えるとあの都市で暮らす事は難しい。
取り敢えずはこの森で暮らし、ある程度時間が経ってからこの国を抜けよう。
次の国は獣人多めの国にして癒しを求めよう。
段々考えがおかしくなってきているのを感じながら夜が明けるのを待つことに…
『すまんが話がある。人間共がこの森を囲んでいる。手を貸してくれないか?』
…事が出来なかった。
自分のとった行動で起こった出来事。
その結果を知る為に自分はもう一度彼らと相対する時が来たのだと早めの再会を果たすべくキャンプ場の火を掻き消した。
考えを文字にするって本当に難しい。
他の作家さんを尊敬してしまいますね。




