てんやわんやな狩人生活
鹿との距離は、後200mぐらい。
風下確認OK
【潜伏】【気配遮断】継続中。
自作の長弓を構え、相手の動きを待つ。
今なら当たる自信はあるが、獲物の位置がちょっと不満。
もう少し右に寄ってくれれば…来た!
絶好の位置に来た瞬間、矢は鹿の首目掛けて飛び出して行く。
鹿が気づいた時にはもう遅い。
首元にきっちり刺さった矢は獲物の息の根をきちんと止めたのだった。
結構大物が取れたな。川までは【アイテムボックス】に入れとくか。…その前に寄生虫やダニ退治の為に【生活魔法】の(クリーン)を掛ける。
最近手馴れて来た狩人生活に若干やり甲斐を感じながら、川に向けて移動を開始する。
神の箱庭にて1年と少し過ぎた自分は、ようやく新たな生活の為に、コルカ王国の中にある村へと向かった。
到着する前にウサギを4羽ほど狩り、村長への土産としたのが幸いしたのか村長宅の一部屋を借りることが出来た。
「旅のお方。実はお願いがあるのですが」
村長宅での夕食時に、村長から一週間ほど狩りを手伝ってもらえないかと打診される。
どうやらこの村には3人ほどいるのだが、前回行なった狩りでイノシシ相手に怪我を負ってしまったらしい。
「大した怪我では無いのですが3人とも動けないと、流石に村での肉調達がままならず… 」
そういう訳で、現在この村で狩人代行をしているのである。
今日の成果は、野鳥が2羽と先程狩ることの出来た大鹿である。
川で鹿が冷えたら村に帰るか。
血抜きをして、 川の中に鹿を入れると周りを【索敵】で警戒しながら、野草や薬草になるものを【鑑定】しながら時間を過ごす。
もう随分こちらの生活に慣れてきたもんだなぁ…
【アイテムボックス】に収穫した物を無造作に突っ込みながら、神の箱庭での1年以上の修練の日々を光が失われた目で思い出す。
あの地獄があったから今の自分がいるんだが…
あんなに激しいとは思わないよ、普通。
思い出すだけで体がガクガク震えるのは、【精神耐性】や【完全制御】さんにもどうしようも出来ない事なのである。
「ただ今帰りました」
村の入り口まで帰って来たので村の自警団の人に声を掛ける。
「お?旅人の兄ちゃんこれ又大量だな。…そんな体でよく運べるな?」
「こうみえても鍛えていますんで」
そう言い返す自分の格好は、鹿の体を両肩に乗せ背中に長弓と野鳥2羽の入った背負い袋を装備した状態である。
「最近の若い子はすげぇな」
驚く中年の自警団のおっさんの前を通り過ぎながら村の狩人達が使う解体場に向かう。
「旅人さん。今日も大量だね」
「兄ちゃん今日もありがとな」
「あんちゃん、あんちゃん。それ見せてー」
解体場に向かう間に色々な人から声をかけられる。
最初はひそひそ程度の声しか聞こえなかったのだか、いつの間かこんな感じになってしまった。
「旅人さん、お疲れさん。解体はこっちでやっておくから後は任してくれ」
解体場に着くと、この村の狩人さん達が迎えてくれる。
解体なら出来る状態だというので初日からお任せしている。
「それにしても良い腕してんな。どれもこれも一撃じゃないか。旅人さんさえ良かったら村にずっといて欲しいぐらいだぜ」
「ちげえねぇ」
「兄ちゃん。うちの娘なんてどうだい」
段々スカウトが激しくなって来るなぁ。
まだまだスキル頼りの狩だからあんまり褒められても困るんだが…
「いやいや、偶々ですよ。それにスキル頼りで経験がまだまだ足りませんから」
そういって解体場の皆さんに挨拶してから村長宅へと向かう。
一番星がそろそろ出て来る頃かな?
そんな事を考えながら夕焼けに染まる空を見つめる自分であった。
因みにこの世界、月が2つもありますよ。
さすがは異世界ファンタジー
ようやく異世界生活始めました。




