4-11 フォレストテグレ
竜暦6561年5月13日
森林都市スカットを朝一番で出発して、2時間ほど歩いて海岸沿いの森に来た。
このあたりまでくるとナツメヤシではなく普通の木々が鬱蒼と生えていてる。
「依頼票ではこのあたりなんでしょ」
「そうだな」
「わたしに任せるです」
「ああ、こういった鬱蒼とした森のなかじゃアミの暗視が活躍するしな、期待してるよ」
「はいです!」
アミが胸をはってうなずく。
「しかし全天候型レインコートは大助かりだな」
「これなかったら大変だったわね」
「ですです」
森の中は非常に湿度が高いようで蒸し蒸ししていた。
内側の温度調整機能があるレインコートで快適に過ごせているので二人は喜んでいた。
「4年前に発注した品なんだけど、売れば儲かるかな?」
「欲しいって冒険者は多いんじゃないかしら」
「ドルドスじゃあまり必要を感じなかったけど他の都市にくると、この恩恵を実感出来たよ。帰ったらファバキさんと相談してみるかな」
「ベック冒険出版商会のロゴ付きで売ったらどうかしら」
「かっこいいです!」
「それは…恥ずかしいだろ…」
なぜかアミとサリスはロゴ付きに拘っている。
俺の感覚がおかしいのだろうか、まったく不思議である。
「あと女性向けにカラフルな色使いにしてもいいわね」
「それいいですー」
どんどんオシャレアイテムになっていく。
「温度調整用の交換用の魔石の値段を考えないとな」
「そこが難しいわね」
そんな会話をしながら森を探索していくとアミが突然止まる。
無言で木の幹を指差す。
そこには木の幹に魔獣の毛とおぼしきものが数本ひっかかっていた。
フォレストテグレの縄張りに入ったらしい。
俺達は慎重に森の中を探索していく。
4時間ほど探索したが目的の魔獣が見つからないので、一旦海岸線まで戻ることにした。
「もう13時だな」
「スカットに戻る時間を考えると16時までかしらね」
「そうだな、とりあえず休憩として昼食をとろうか」
「たべるです!」
「じゃあアミと一緒に調理するわ」
「調理の間は、俺が見張りに立つよ」
「おねがいね」
俺はチェーンハンドボウを構えながら周囲を警戒する。
海岸沿いで背後の海側は見通しが良いので、それほど警戒しなくてもいいが、森側は見通しが悪いので、注意を怠るのは危険である。
背後から良い香りが漂ってくる。
朝早く朝食をとっていなかったので匂いにお腹が反応してしまったが、ぐっと我慢して警戒を続ける。
襲撃に備えて警戒していると茂みが微かに動くのが見えた。
俺はその茂みを注視すると陽の光に反射した牙が光る。
(【分析】【情報】!)
<<フォレストテグレ>>→魔獣:アクティブ:火属
Eランク
HP 158/158
筋力 2
耐久 2
知性 2
精神 2
敏捷 4
器用 2
俺は躊躇なく茂みに向けてスパイクを5本撃ちだした。
茂みから飛び出す魔獣の姿が見える。
5本中2本が魔獣の胴体に刺さっているのが見えるが浅い。
フォレストテグレは見た目は巨大な猫科の魔獣であった。
特徴的なのは深緑色の体毛が長く伸びており尻尾の先が二つにわれている。
この体毛だと深い森の中の茂みに隠れられると発見が困難なのもうなずける。
俺の射撃とフォレストテグレの出現に、調理中のサリスとアミがすぐに反応した。
サリスとアミが盾を構えて飛び出す。
フォレストテグレが俺を狙ってきたが、二人の姿を見ていったん距離を取ろうとしたので俺は狙いをつけてスパイクを連射した。
ザシュザシュザシュッ、今度は5本中3本のスパイクがフォレストテグレの胴に突き刺さり、動きが鈍くなった。
「アミ!」
俺が叫ぶとアミが飛び出し、動きの鈍くなったフォレストテグレの頭部に向けて右の拳を振るう。
頭部に拳による打撃があたった瞬間、アミが《ライト・スティング》と呟くとフォレストテグレの頭部を太い杭が突き抜け、そこで地に伏すことになった。
「助かったよ、アミ」
「今回はアミのお手柄ね」
「ああ、皮をなるべく綺麗に採取してくれって要望もあったからね」
「えへへ」
アミの猫耳がぴくぴくさせて喜んでいた。
「肉の回収もあるし、まだ調理途中だからフォレストテグレの血抜きの間に昼食をすませましょ」
「俺はまた見張りに立つよ」
「アミ、フォレストテグレの血抜きをお願いね」
「はいです」
それぞれ分担できるって本当にクランっていいなと思う俺がいる。
しばらくするとサリスが昼食を作り終えたので先にサリスとアミで食べてもらい、俺はそのまま見張りを続けた。
「案外ずっとフォレストテグレに俺達狙われていたのかもな」
見張りをしながら俺は考えを口に出す。
「可能性高いです」
「わたし達に隙が出来るのを待ってたのかしらね」
その言葉を聞いて、この世界の魔獣はいろいろなタイプがいるなと思う俺がいた。
「でも今回も思ったけど、私達の実力じゃもうEランクじゃ物足りないわね」
「Dランク以上となると内陸部だな、もしくは迷宮の深い場所か」
「パラノスのクシナ迷宮都市についたら、クシナ迷宮の奥にいってDランク以上の魔獣と戦ってみたいわね」
「うーん、危険かもです。サリス」
「そう?」
「まあ、クシナ迷宮に行ってみないとEランクのクランでどこまで潜れるか分かんないし、これ以上は着いてから考えよう」
俺はそういって話を打ち切る。
装備や動きを基準に考えるとDランク魔獣も視野に入ってくるが、今はまだ旅の途中だ。
いずれ大陸内陸部への旅行も考えているので、これから先を考えるとD以上とはいくらでも戦うことが出来る。
焦る必要はないなと俺は思っていた。
二人が食事を終えたので、見張りをサリスに任せて俺は食事をとる。
アミはというとフォレストテグレの解体作業を始めていた。
サリスの作ってくれていた昼食は野菜とラム肉の葡萄酒煮込みだったが、ラム肉をミンチ状にしていて非常に食べやすかった。
この旅で新しく出会った料理を元に、新しい料理方法を試しているらしい。
さすがだなと感心する。
そのうち手作りハンバーグも食べれるかもしれないなと少し期待した。
美味しい料理を食べ終わった俺はアミの解体を手伝う。
ほどなくして魔獣の処理もおわり、俺達は森林都市スカットへ向かって戻り始めた、
帰路で俺はサリスの言っていたDランク魔獣の件とスタード大陸南端の国パラノスのクシナ迷宮都市について思いを巡らしていた。
たしかに強い魔獣と戦いたいというサリスの気持ちも分かる。
しかし今回の旅はアミの件で猫人族の里探しの側面もある、まずは無理をせずに猫人族の里をしようと思った俺がいる。




