4-10 森林都市スカット
竜暦6561年5月12日
砂漠の泉を堪能してから1週間以上経っていた。
5月5日砂塵都市クトを出港して、7日かかってようやく六番目の寄港地である森林都市スカットの姿が甲板から見えてきた。
洋上から見る限り森林都市スカットは、その名の通り三方を森で囲まれていた。
「つぎの出発は14日だから忘れずにな」
「はい」
「あと勝ち逃げは許さないからな、目的地までは付き合ってもらうぜ」
船員に出港時間を聞いた俺に、船員がトランプのゲームにまた付き合えといってくる。
洋上の船の中でやることがないので、三人でトランプをしていたのを、たまたま船員に見つかったのが原因だった。
ポーカーのルールを教えたところ、船員の間でいっきにトランプが広まってしまったのは、かなり前のことである。
今では自前でカードを準備した船員達がポーカーに熱中しており、さらに金銭の賭け事も始めるという盛況ぶりなのだ。
本当にこの世界には娯楽が少ないのだなと俺は思っていた。
先ほどの船員ともポーカーの遊び仲間であるが、俺が銀貨1枚だけ勝ち越しているので、どうしても俺に勝ち越したいのであろう。
「トランプのゲームもほどほどにしてよね、ベック」
「ああ、そうだな」
「でも楽しいですー」
アミはにっこり笑う。
実はアミは銀貨3枚勝ち越しているからだ。
清算は目的地に着いた時という話なので、それまで勝ち越しを維持したいのだろう。
アミの場合は感情と連動して動く尻尾と猫耳でポーカーフェイスとは無縁と最初おもわれていたが、手札によってフェイクを混ぜながら猫耳や尻尾を動かすのを覚えてからは非常に手ごわい相手だった。
狩猟を小さい時からやっていることから、勝負の駆け引きは得意だったのかもしれない。
大型帆船が寄港して俺達は下船した。
時計をみると10時を指していた。
「予定通り、まずは冒険者ギルドにいこう」
「はいです」
「はい」
三人で目抜き通りを歩くと、ほどなくして冒険者ギルドが見えてきた。
中に入り、Eランクのクエスト掲示板を覗く。
・フォレストテグレ討伐 銀貨4枚
「これってクトの依頼でもあったサンドテグレに近い魔獣かしら」
「名前を見る限り、それっぽいな」
「場所は森の中らしいし、討伐1匹ならやってもいいかな」
「やりたいです」
「そうね、腕も鈍ってるし少し体を動かしたいわね」
俺は依頼票を剥ぎ取り、まず受付の男性に三人の冒険者証を提示する。
次に依頼票を渡すと男性が採取箱と簡易地図を渡してくれた。
「旅の冒険者のようだから地図も渡しておくよ、あと採取箱だ」
「討伐証明は尻尾でいいですか?」
「ああ、それと依頼票に書かれているが皮と肉の採取も頼む、出来れば皮は綺麗だと助かるな」
「わかりました」
俺は受付の男性に返事をしたあと、この辺りの情報を聞いてみた。
「そういえばスカット周辺でよい景色の場所などありませんか?」
「森ばかりで特にはないな、すまんな」
「いえいえ、あと美味しい食べ物とかあれば教えていただけないでしょうか」
「それなら、ここのコーヒーは美味しいぞ」
「えっ!」
「ここの特産でな、船で他の都市に運んでいるんだよ」
(コーヒーは確か赤道に近い場所でしか取れないから、かなり南きてるのか!)
【地図】を使って確認すると、確かに港湾都市パムと比較して森林都市スカットはかなり南だ。
「そういえばドルドスにある港湾都市パムでもコーヒーを飲んでいましたが、ここのコーヒーかもしれませんね」
「パラノスのバイムからもコーヒーは出荷されてるはずだから、どうだろうな」
「そうなんですか」
「ただ、ここのコーヒーは少し酸味があってね。私は地元だし酸味のあるコーヒーの味が好きだがな」
「なるほど」
「飲み物以外でもデイツという果物を使った料理も美味しいぞ」
「そうですか、あとで食べてみますよ」
「では、港の近くにあるレストランがオススメだから地図を書いてあげよう」
そういって受付の男性が手書きの簡単な地図を書いて渡してくれた。
俺は受付の男性に礼をいって、冒険者ギルドをあとにした。
「さてとクエストと買物と食事くらいよね、予定は」
「ああ、そうだね」
「今日は買物と食事にいくですー」
「じゃあ時間も中途半端だし、今日は食事して買物、明日は朝からクエストでいこうか」
「はいです」
「それでいいわよ」
俺達は昼食を食べるために、先ほど教えてもらったレストランに向かう。
かなりの客がいて賑わっている店だった。
店に入り、デイツを使ったオススメ料理を注文する。
「どうぞ、デイツとラム肉の香草焼きです」
ドライフルーツになっているデイツを見て俺はナツメヤシの実であることを思い出した。
(なるほどそうか、どこかで聞いた覚えがあると思っていたけど、ナツメヤシの実か)
エジプトにいった際にそういえば食べた記憶があるなと思い出した俺がいた。
あと洋上からみた森林都市スカットの景色を思い出して気がついた。
森林都市スカットの周囲にある森はナツメヤシの森であろう。
たくさんの実がなり、乾燥させれば長期保存も出来る。栄養価も高い。
森林都市スカットの主要産業なのだ。
食事を口にするが、デイツのねっとりとした甘さとラム肉の肉汁と香草の香りが口の中で複雑な味わいを奏でる。
おすすめ料理だけあるなと感心した。
サリスとアミを見ると同じようにデイツの味を堪能していた。
食後は三人で特産のコーヒーを味わうことにした。
サリスとアミが苦い顔をするのをみて、おれはやっぱりなと思いながらコーヒーの味を堪能していた。
「ベックはそうしてコーヒーが平気なのかしらね」
「ですです!」
「アミ、シャモールミルクはまだ残ってる?」
「少しあるです」
「コーヒーに入れてみたらどうかな。甘くなるかも」
うーんと、アミが腕を組んで唸ってから水筒を取り出して残ってたシャモールミルクをコーヒーに注いでみた。
コーヒーが黒色から茶色になっていく。
アミがコーヒーに口をつけるとビックリする。
「苦いけど甘いです!美味しいです!」
「え、私もやってみたいわ」
サリスも同じようにシャモールミルクをコーヒーに注いでみてから口をつける。
「本当だわ!美味しい!」
「シャモールミルクが濃厚で甘いからだよ。普通の牛のミルクじゃこうはならないかもな」
「シャモールミルクって凄いわね」
「牛のミルクに砂糖やハチミツとか加えて味を整えてから、コーヒーに注いでもいいかも」
「ちょっとなんとか出来ないかやってみようかしら」
その言葉がサリスの興味を刺激したらしい。
サリスが甘いコーヒーを飲みながら思案を始めた。
アミのほうは深い味わいのコーヒーミルクを美味しそうに飲んでいる。
今後、家に帰ってもコーヒーが飲めるかもなと期待する俺がいる。
2015/04/26 誤字修正




