4-8 海運都市スプキロ
竜暦6561年4月26日
宿のベッドで朝早く目が覚める。
横にはサリスがスヤスヤ眠っている。
相変わらず綺麗だなとサリスを眺めてから、俺は起こさないようにベッドをそっと抜け出る。
部屋に備え付けられたテーブルに出したままにしていた旅行記の記事の続きを書く為に椅子に座る。
記事を目の前にして【地図】を俺は使う。
空白が目立つが今まで通った航路に沿って地図が埋められている。
俺はじっくり眺める。
港湾都市パムから南部都市バセナまで大型帆船で2日。
南部都市バセナから離島都市アニータまで大型帆船で7日。
離島都市アニータから古代都市ネテアまで大型帆船で4日。
古代都市ネテアから海運都市スプキロまで大型帆船で5日。
以前パムからバセナまで内陸を通って移動した時間を考えると約300km。
海岸線沿いに進んで海路300kmを2日間で着いたとすると大型帆船は1日150km進むことになる。
風雨による影響があるけど、それを考慮しなければ時速は約6km。
18日間海路を進んでいるとなると約2700km進んだことになるな。
目の前に浮かぶ地図を縮小しながら、今まで寄った港の点在する間隔を確認する。
だいたい計算と合うような位置に港がそれぞれ位置していた。
船員の話だと海運都市スプキロが、港湾都市バイムまでの中間地点という話なので港湾都市パムとは約5500kmくらい離れていることになる。
かなりの距離だなと考える。
たしか添乗員時代で覚えた知識だと成田からハワイまでが約6200kmくらいだったはずだから、それよりちょっと短いくらいか。
ロージュ工房で依頼中の熱気球の事を考える。
魔石加工技術による熱気球の基礎技術が体系化されたら、俺の旅行用には基礎技術を転用した飛行船の方がいいかもしれないなと思う俺がいる。
飛行船なら移動する方向と速度を自由に操作できてキャビンで寝泊りできる。
仮に飛行船の速度を時速30kmなら1日に720km進む。
目的地の港湾都市バイムまで約5500kmなら約8日間くらいで到着する。
仮に飛行船の速度を時速60kmなら1日に1440km進む。
目的地の港湾都市バイムまで約5500kmなら約4日間くらいで到着する。
飛行船の製作となると資金が更に必要になるなと天井を見上げる。
パラノスまでの旅行記を出版したとしても厳しいだろうと目をつぶる。
考えても良い考えが浮かばないので、とりあえずアイテムボックスから取り出した旅行準備メモに"飛行船"と"資金集め"の2点を記入しておく。
俺はメモを終えると、そのまま旅行記の記事の続きを書きはじめる。
俺は時計が7時になったところでサリスを起こす。
海運都市スプキロでの滞在時間が短いからだ。
四番目の寄港地である海運都市スプキロに到着したのは、昨日25日の夜20時を過ぎた時間だった。
明日27日の8時には出港するという話なので活動するのは今日しかない。
サリスがあくびをしながら上半身を起こし猫のように肢体を伸ばす。
手の甲で目をこすったあとに俺を見つめる。
「おはよう、サリス」
「ん」
「えっと…」
「ん」
「あのぅ…」
「ん」
サリスが目をつぶって唇を突き出している。
(しょうがないなぁー)
サリスに目覚めをキスを軽くする。
唇を離すと、サリスが満面の笑みで朝の挨拶をする。
「ベック、おはよう」
「はいはい、さっさと着替えてね」
「えーーーっ」
「今日は活動できる時間が少ないからね」
サリスが頬を膨らませて抗議するが俺は手早く冒険者装備に着替える。
「膨れていても綺麗なサリスと結婚できて俺は幸せ者だなーー、その顔を写真に残したいなーー」
「もう、意地悪なんだから!」
「まあ、冗談はさておいて今日はいくつか行ってみたい場所があるからね」
「でも昨日ベックが宿の受付に聞いてたけど、見所は少ないんでしょ?」
サリスが冒険者装備に着替えながら尋ねてくる。
「海運都市スプキロから南に1時間ほどいった場所に、セイレーンの楽園って浜辺があるらしいんだよ」
「へぇー」
「あ、そうそう水着持っていってね」
「泳げるの?」
「らしいよ」
サリスが俺の話で水着を取り出す。
「冒険者ギルドは昨日はなしたように今回はパスしちゃうのね」
「時間がないからね。浜辺にいって夕方戻ってきたら買物にいかないといけないだろ」
「そうなるわね。次の寄港地は遠いらしいし…」
「景色の良い場所と料理だけでも堪能してから、あとは買物で今日はすごそう」
俺達は準備を済ませて隣の部屋のアミと合流する。
アミももう準備が終わっていたが、水着の話をすると部屋に戻って水着を持ってきた。
宿の受付でオススメの朝食が食べれる店を教えてもらうと斜向かいのレストランを紹介してくれた。
どうやら提携を結んでいるらしい。
レストランに入ってメニューを見るが、やはり名前が分からない料理が多いので店員にオススメをたのむ。
「どうぞ、キッビのライム添えと葡萄酒です」
キッビについて店員に聞くと、ラム肉をミンチにして香辛料で味をつけて引き割り小麦をまぶして揚げた料理だと説明を受けた。
ナイフでボール状になったキッビを切ると、中から肉汁が溢れ出す。
「これ美味しいわ。あとこの調理法なら他の料理に応用できそうね」
「揚げてあるから小麦も香ばしくなってるな」
「外がカリカリですー」
キッビだが食べた感想としてはメンチカツに近いなと思った。
朝食を堪能した俺達は、宿の受付に聞いたセイレーンの楽園へ向かう。
既に5月も近い。
昼間の陽射しも少しきつくなってきている。
俺は全天候型レインコートを出そうかと話すと、二人からまだ平気といわれた。
着れば内側の温度を調整してくれる優れものなのになと思ったが、たしかに晴れた日に着るのは周りの目が気になるのかもしれないなと思いなおした。
日傘タイプも用意してあげようかなと、歩きながら旅行準備メモに記入する。
11時過ぎに目的のセイレーンの楽園という浜辺に到着したが、非常に綺麗な浜辺だった。
しかしそこまで特別という景色でもないなと見渡して思う。
とりあえず砂地に足をつけると変化に気がついた。
歩くたびにキュっと音が鳴るのだ。
鳴き砂という砂地だと気づいた。
(ほー、めずらしいな)
俺は詳しい理由はわからないが、確かに鳴き砂を売りにしている各地の観光地があったことを思い出した。
「面白いわね、ここ」
「歩くと音が鳴るですー」
楽しそうにサリスとアミが砂地を歩き回る。
歩くたびにキュッキュッキュッキュッキュッと音がなるのだ。
(海の魔獣のセイレーンも喜びそうな音がするから、セイレーンの楽園か…)
そんな感想を抱きながら、アイテムボックスから簡易テントを取り出して俺は水着に着替える。
俺が着替え終わり、次にサリスとアミが着替えてる最中に俺はセイレーンの楽園の風景を写真を撮っていた。
(音も記録できるといいのにな…)
俺はそう思うと蓄音機が頭の中に浮かぶ。
(あれって、この世界でも作成できそうだよな)
俺は旅行準備メモに"蓄音機"と記入しておいた。
「おまたせー」
「おまたせです!」
二人が水着に着替えて出てきた。
非常に眼福である。
サリスはワインレッドとホワイトのストライプ柄のビキニ。
アミはピンクがベースの花柄のワンピース。
もう一度言おう、非常に眼福である。
サリスはDカップだろうか、谷間がはっきりと分かる。
アミはCカップ、少し控えめだがこちらも谷間がはっきりと分かる。
さらにもう一度言おう、非常に眼福である。
「さて少し泳ごうか」
「はーい」
「楽しみですー」
俺達は砂を鳴らしながら浜辺に向かう。
踏みしめる砂の音が海水浴の楽しさを演出する。
蒼い海、白い砂浜、青い空、潮騒の音に、頬をなでる心地よい海風。
遠浅の浜辺は、海を楽しむには良い場所だった。
こういった場所があると楽しいなと思う俺がいる。




