4-7 古代都市ネテア
竜暦6561年4月18日
三番目の寄港地である古代都市ネテアに離島都市アニータから4日かけて俺達は昼過ぎに到着し下船した。
いまは古代都市ネテアの冒険者ギルドへ向かって大通りを歩いている。
「古い建物が多いです!」
「船員の話していた通りね」
「この街自体が遺跡というのも、こうやって実際に目にすると理解できたよ」
街中の古い建物を興味深そうに見ながら歩く姿は、田舎から都会へ見物にきたお上りさんのようである。
しかし古代都市ネテアというだけあって、あちこちにある建物が古い。
歴史を感じさせる石造りの建物が多いのだ。
「ちょっと待ってて」
「ベック、また写真とるの?」
「うん」
「陽が落ちちゃうです」
本来は港から冒険者ギルドまで歩いて30分くらいで着くという話だったのだが、1時間以上かかってまだ着いていない。
理由は簡単で俺が歴史ある建造物の近くを通るたびに写真を撮っていたからだった。
アミが少し我慢出来なくなってきていたので、写真を撮りながら謝る。
「これで今日は最後にするよ。ごめん」
「はいです」
俺が謝ったことでアミも少し機嫌を良くしたみたいで安心した。
見応えのある古代都市ネテアは本当に罪作りである。
さて、ようやく冒険者ギルドにつきEランク掲示板のクエストを確認すると、見たことのない魔獣の名前があった。
・ジェルラット討伐 銀貨6枚
俺は魔獣図鑑を取り出して確認したが載っていなかった。
近くにいた冒険者ギルドの職員に尋ねる。
「すいません、このジェルラットってなんですか?」
「ん、他所からきた冒険者か?」
「はい、船旅の途中でネテアに寄ったのですが」
「なるほど」
職員が事情を理解してくれたようだった。
「他所からきたら、わからないのも仕方がないな」
「そうなんですか?」
「かなり昔の冒険者ギルトの代表が連絡網を使って確認したことがあったんだそうだが、ネテアにしか存在しない魔獣みたいだな」
「へぇー」
「しかしネテアに住んでいると、こいつは常に付きまとう厄介者なのさ」
「え?」
「依頼票をよく見てごらん」
言われてよく見ると生息場所が街と記載されていた。
「これって!」
「地上には、めったに出てこないけどね。地下の遺跡の通路をねぐらにしてるんだよ」
「魔獣の出る場所の上に都市を作ったんですか!」
「逆かな、古代の遺跡の上に海運で荷を運ぶ人族が住み始めてね、それでネテアは大きくなっていったんだよ。そのあとに魔獣が古代の遺跡の中に潜りこんで住み着いたのが真相らしいね」
「それでも魔獣は減らないんですか?」
「繁殖力が凄くてね。ジェルラット1匹みつけたら30匹はいると思えって言われてるよ」
「…」
転生前の世界のゴキブリのようだなと無言になって考え込んでいる俺がいる。
「めったに出てこないけど、出てくると人を襲うので、定期的に駆除しているってことですか…」
「まあ魔石の稼ぎにもなるんだけどね」
「え?」
「いろいろな種類の魔石を落とすのさ」
「スライムと同じなんですか?」
「そうだね」
スライム以外に無属の魔獣がいるのを俺は初めて知って驚いた。
「ありがとうございました」
俺は説明をしてくれた職員に頭をさげた。
職員は笑顔を残して仕事に戻る。
会話を聞いていたサリスとアミが俺に声をかける。
「受けるんでしょ。クエスト」
「うん」
「どうぞです」
依頼票を既に剥がしていたアミが俺に依頼票を渡す。
「ありがと、手続きしよう」
俺達は受付の女性に冒険者証を提示して依頼票を渡す。
「こちらが採取箱です。討伐証明はいつもどおり尻尾でお願いします」
いつもどおりという言葉を聞いて勘違いしてるなと気付いた俺は事情を話す。
「すいません、旅の途中で寄ったもので…」
「あら」
受付の女性が再度冒険者証を確認する。
「他の都市からの冒険者だったんですね」
「はい」
「少しお待ちください」
そういって奥にいって戻ってくる。
「他所の冒険者の方がくるのは久しぶりで失礼しました」
「いえ、こちらも最初に告げず、すいませんでした」
「これが街の地下へ向かう扉の鍵と地図になります」
「鍵ですか?」
「冒険者以外の方が間違って地下に入り込めないようにする処置です。昔、船できた他の土地の船員が間違って地下に入り込む事故が多かったので…」
「なるほど、わかりました」
酔っ払って地下に入り込んで、魔獣に襲われるという船員の光景が想像できた。
鍵のかかった扉があって本当によかったと思う。
俺達は受付の女性に礼を言って、冒険者ギルドから表の石畳の通りに出た。
街の地図を開くと、ここから近い場所に地下への扉があるようだ。
サリスとアミに俺は相談する。
「いま15時だけどサリスとアミは、やりたい事あるかな?」
「わたしは買物したいわね」
「わたしもです」
「買物は明日にして、今日はこれから地下に行ってみない?」
「ベック、それって明日にしましょうよ」
「えっと明日は朝から撮影したいかなって…」
「もしかして写真は昼間しか取れないから?」
「うん、もう夕方になるしさ、地下なら移動時間も考えなくていいしクエストついでに地下にいくなら今日がいいかなって思ってね」
サリスとアミが二人で小声で相談している。
「いいわよ、その代わり条件があるわ」
「なに?」
「明日は午前中は別行動でいいけど、午後は買物に付き合ってね」
「えーー、写真がそれじゃあ…」
「午前中だけで充分でしょ」
俺も少し考える午後買物に付き合うとしても、二人が店の中で物色している時間は写真を撮ることも可能だろうと思い条件を飲むことにした。
「じゃあ、地下遺跡の観光にいこう!」
「間違ってるわよ、ベック。ク・エ・ス・ト!」
「本当にベックは観光となるとおかしくなるです」
えっと、俺は怒られてる?
まあ、そんなことは置いて、早速地下遺跡への扉を鍵であけて地下に下りる階段に足を踏み入れる。
「暗いわね。ベック、迷宮灯をおねがい」
俺はアイテムボックスから迷宮灯を取り出しセットする。
「暗い場所だからアミが大活躍できるな」
「はいです!」
「頼りにしてるわ」
通路を進んで開けた場所に出たが、想像していた場所と大きく違った。
ただの地下道っぽいものを想像していたのだが、広い地下空間にはいくつもの石組みの柱で天井が支えられており、頑丈な作りをしていた。
石組みの様式を見ると、地上にあるものと同じような装飾がされている。
どのくらい前に作られたのかが気になるが、当時の建築技術の高さがうかがわれる。
強度が気になった俺は試しに壁に向かってチェーンハンドボウでスパイクを撃ちこんでみた。
キィンッ
高い音がして壁に刺さらなかった。
撃ち込んだ場所も確認したが、表面に傷がついているようで、えぐれてさえいなかった。
俺の行動に驚いたサリスとアミが近寄る。
「どうしたの?ベック」
「いや確かめたいことがあってね」
「なにを確かめるです?」
俺はスパイクを撃ち込んだ壁を指差した。
「至近距離で撃ったけどスパイクが弾き飛ばされたよ」
「え?」
「どうも、この古代都市ネテアの遺跡だけど、魔石加工技術の硬化処理がされてるらしい」
「かなり昔の遺跡よね」
「その当時から魔石加工技術に近いものが存在してたんだろうね」
「それならずっとこの遺跡が無事だったって理由も納得できるです」
「もしかしたら精霊が関連してるかもしれないな」
「その可能性もあるです!」
精霊の話が出て、アミのやる気が上昇していくのが分かる。
というか尻尾と猫耳の動きをみれば一目瞭然だった。
「可能性という話だけど、それらしいものがないか気にしてみてくれ」
「はいです!」
俺達は周りを注意しながら地下遺跡を進む。
アミが暗闇の先を指差す。
ネズミ?
なにか変な影が動いている。
(【分析】【情報】)
<<スライム+ウェアラット>>→魔獣:アクティブ:無属
Eランク
HP 135/135
筋力 2+1
耐久 4+2
知性 1+1
精神 1+1
敏捷 1+4
器用 1+1
(はぁぁぁ!なんだ!この表示!)
今まで見たことのない表示にビックリした。
ジェルラットの正体はスライムに寄生したウェアラットだった。
いやもしかしたらウェアラットに寄生したスライムの方がただしいのか?
ともかく表示を信じるなら、2体の魔獣が共存関係を結んで共生してるということになる。
スライムもウェアラットも単体ならFランクの魔獣である。
共生することでEランクの魔獣になっているのは驚きである。
「あそこにいるのは1体だけです」
「他にはいないみたいだね、まず初めてだし俺がスパイク撃ってみるよ」
二人がうなずく。
俺はチェーンハンドボウを構えて遺跡の壁の隙間から顔をだしているジェルラットを狙ってスパイクを撃った。
ジェルラットの頭部に命中したが、俺を狙ってジェルラットが飛び出してきた。
俺は唖然としたが、続けてスパイクを撃った。
しかし3本あたっても平然と向かってくる。
アミが盾を構える。
サリスのほうは《ヒート》と呟いてジェルラットに駆け寄り胴体を真っ二つにした。
高熱によって切断面からジェルラットが燃え上がる。
俺は討伐証明に気付いて叫ぶ。
「サリス!尻尾!」
サリスが俺の声を聞いて咄嗟に尻尾を切りとばした。
「なるほどな、スライムの特性と一緒でエンチャント必須か」
「そういうことみたいね」
「チェーンハンドボウのスパイクは強力だけどエンチャントできないしな、サリスとアミに頼ることになるか」
「わかったわ、あと火に弱いみたいね」
「マルチロッドで火をつけるのもいいかな」
「討伐証明まで燃えてしまいそうね」
「えっと燃え尽きる前にサリスに切断してほしいなー」
「しょうがないわね」
「私も手伝うです」
俺はマルチロッドに火魔石をセットして、アミが見つけてくれる通路に潜伏したジェルラットに次々と《ショット》を当てて燃え上がらせて、サリスとアミは尻尾の確保で一気に詰め寄るという繰り返しが進んでいく。
「しかし壁に隙間がやけに多いわね」
「もしかしたら硬化処理されたこの遺跡の壁を削る力があるんじゃないか」
「ジェルラットに?」
「ああ、それなら、この遺跡に入り込んだ理由もわかるな」
「あんまり増えるとこの遺跡が壊れるです!」
「冒険者ギルドで定期的に討伐してるから増えすぎることはないと思うけど厄介だな」
そう俺が言うと二人もうなずいた。
その二人を見て、時間を確認していなかったことに気付いた。
「おっと、もう18時半だな、戻るか」
「おなかがすいたです」
「私も」
「来た道を走って戻ろうか」
俺達は来た道を縦に並んで駆け足で戻る。
パム迷宮で訓練していたせいで、こういった場所での移動は速い。
元の扉に辿りついて、外に出たのは19時10分過ぎだった。
「迷宮並みに広い地下遺跡だったわね」
「さてと食事をしないとな」
「ぺこぺこですー」
夜空が見える石畳の大通りを街の中心部に向かって歩く。
一軒のお店からいい香りが漂ってくる。
「あの店で食べようか」
「はいです」
「はい」
遺跡の一部を改装して作られた店内は、どこか異国を感じさせる雰囲気があった。
メニューを受け取るが、分からない単語が多かったので店員にオススメ料理をもってくるように注文した。
飲み物は葡萄酒しかなかったので葡萄酒も追加で注文した。
店員が食事を運んでテーブルに並べた。
「トマトのサラダとラム肉のケフテスです。お召し上がりください」
ケフテスとは大きな肉団子であった。
店員に話を聞いたところ、ラム肉をミンチにして、刻んだ野菜と香辛料も加えて丸めてから焼き上げた料理ということだった。
ハンバーグ?と思ったが、かなり香辛料がきいていて肉の旨みもあるにはあるが、かなり刺激的な味であった。
ケフテスで舌が痺れそうになっている時に、一緒に持ってきた新鮮なトマトをスライスしてオリーブオイルと塩コショウをしたサラダを食すると口の中がサッパリする。
組み合わせが絶妙だと思った。
香辛料の影響なのか、すこし顔が熱くなる。
サリスとアミも同様のようで少し頬を紅くしていた。
食べ物も少しづつ異国の雰囲気で変化していく。
遠くにきたんだなと、そんなことを考えながら味を楽しむ俺がいる。
2015/04/25 会話修正
2015/04/28 誤字修正




