4-2 結婚
竜暦6561年3月7日
「いま10時13分ね、あと3時間くらいかしらね」
「そうだな、15時にヒッチ兄様と母様が家にくるから、それまでには戻りたいな」
「はいです!」
俺達は連携訓練の為にパム迷宮地下2階に来ていた。
念の為に装備確認をする。
(【分析】【情報】)
<<オーガント・ベック>>→人族男性:14歳:冒険者
Eランク※
HP 167/167
筋力 8
耐久 20
知性 8
精神 8
敏捷 12
器用 16
<<装備>>
チェーンハンドボウ
マルチロッド
HEWバジリスクフード
HEWバジリスクジャケット
HEWバジリスクアームガード
HEWバジリスクレッグガード
スキル【分析】【書式】【情報】【地図】
観測者レベル11
(【分析】【情報】)
<<マリスキン・サリス>>→人族女性:14歳:冒険者
Eランク※
HP 189/189
筋力 13
耐久 24
知性 4
精神 6
敏捷 16
器用 12
<<装備>>
フレイムストームソード
フレイムスパイクシールド
HEWバジリスクフード
HEWバジリスクジャケット
HEWバジリスクアームガード
HEWバジリスクレッグガード
(【分析】【情報】)
<<ムイ・ネル・アミ>>→猫人族女性:14歳:冒険者
Eランク※
HP 215/215
筋力 8
耐久 32
知性 2
精神 4
敏捷 8
器用 6
<<装備>>
パイルシールドガントレット
パイルシールドガントレット
HEWバジリスクコイフ
HEWバジリスクプレートメイル
HEWバジリスクハーフアームプレート
HEWバジリスクレッグプレート
(よし、問題ないな)
全員の装備と体力に問題がないか確認して、これからの予定を話す。
「今日は13時まで地下2階の魔獣を倒せるだけ倒そうか、移動は北2から時計まわりで」
「いいわね」
「はいです!」
「通路は駆け足、魔石回収は分担で」
二人は大きくうなずいた。
縄梯子のある十字路の広間から、アミを先頭にして、俺、サリスの順に縦に並んで駆け足で通路を北に向かう。
目の前に北1の通路のガルム2匹が見える。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ガルム>>→魔獣:アクティブ:闇属
Eランク
HP 109/109
筋力 4
耐久 2
知性 1
精神 1
敏捷 4
器用 4
俺は手前の一匹を狙ってスパイクを3発撃ち込む。
ザシュザシュザシュッ、3本のスパイクがガルムの胴に深く突き刺さり絶命させる。
残ったガルムが駆け込んできたがアミが頭部をパイルシールドガントレットで殴りつけ絶命させる。
俺とサリスが手早く魔石を回収する。
「次!北2東1」
また駆け足で走る。北2の広場についた、すぐに東方向の通路に進路を変えて走る。
北2東1の通路のガルム3匹が見える。
俺は先ほどと同じくスパイクを連射して一番手前のガルムの体に4本のスパイクを突き刺した。
右にいたガルムにアミが飛び掛る。
ガルムが牙を剥き出して噛み付いてきたが、アミは左の盾で受け止め、右の拳で殴りつけ《ライト・スティング》と呟く。
殴りつけた右の拳から杭が飛び出してガルムの頭部を貫通した。
即死である。
左にいたガルムはサリスが《ヒート》と呟いてフレイムストームソードで斬りかかる。
高熱を帯びた刀身がガルムの首を一刀両断にした。
今度は三人で手早く魔石を回収する。
「次!北1東2」
俺達は休みを挟まずに、再度走り出す。
北2東2の十字路を通過して北1東2を南に進む。
目の前にレッドキャップが4匹いた。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・レッドキャップ>>→魔獣:アクティブ:火属
Eランク
HP 115/115
筋力 8
耐久 4
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
近づいたところでサリスとアミが盾を構えて停止する。
レッドキャップ4体が俺達に気付き襲ってきた。
俺はサリスとアミを左右に従え肩膝を突いてチェーンハンドボウでレッドキャップを狙ってカートリッジが空になるまでスパイクを撃ち続けた。
4体のうち2体に胴体と頭にスパイクが突き刺さる。
刺さった2体は、体を震わせて地に倒れこむ。
俺がカートリッジ交換を行っている間に、サリスとアミが左右に分かれてレッドキャップをそれぞれ仕留める。
指示を出すまえに、お互い魔石回収を手早く済ませる。
「次!南1東2」
俺達は通路を走って南に進む。
目の前にウルフが2匹いる。
サリスとアミが駆け込み、それぞれ一撃屠る。
迷宮1階にいるような魔獣では既に俺達の相手にはならなかった。
魔石を回収して先にすすむ。
「次!南2東1」
南2東2の十字路を通過して西に向かう。
目の前にゴブリンが4匹いた。
「まかせて!《ヒート》!」
サリスが叫び高熱を帯びたフレイムストームソードを構えて一人で斬りかかる。
4匹のゴブリンの合間を駆け抜けると、4匹の頭部がずり落ちた。
「おつかれ!」
「回収するです」
三人で魔石回収を済ませてから時計を見る。
「12時半か、あと1回戦えるな」
「はい!」
「はいです!」
「次!南2西1」
俺達は西に向かって走る。
十字路を過ぎると、先にコボルトが5体見えた。
離れた位置でサリスとアミが停止する。
俺はマルチロッドを構えて火の玉を撃ち込む。
「《バースト》!《バースト》!」
2発の火の玉を撃ち込むと大きな爆発が発生し、コボルト5体の体毛に火についた。
コボルトたちが混乱する。
混乱したコボルト達にサリスとアミが突撃する。
1体は首をサリスに刎ねられる。
1体は胴体にアミの杭が突き刺さる。
1体はサリスに袈裟切りにされる。
1体はアミに殴られて体が迷宮の壁に叩きつけられる。
1体は俺が至近距離からチェーンハンドボウを撃ち込んでスパイクで止めをさす。
時計を見ると13時少しまえであった。
魔石の回収を済ませる。
「よし時間だから、撤収しよう」
「はいです!」
「はい」
俺達は転移石を砕き、そのまま迷宮の外にでた。
「お疲れ様」
「ふー、倒すほうより走るほうが疲れるわね」
「体力がつくです」
迷宮管理の小屋に寄って魔石の買取をお願いする。
「Eランク魔石20個ですね、銀貨20枚になります」
「どうも」
4年も経つと魔石の買取額はEランク魔石1個で銀貨1枚まで下がっていた。
「半日で銀貨20枚か、なかなかだね」
「そうねー」
「はいです」
最近の俺達は、お互いに何を望んでいるのか会話を交わさなくても分かるほど連携の精度があがっていた。
頼もしい仲間である。
今日は午後に来客があるので、そのままパムに戻る。
家に帰り着くと、俺とサリスは3階の自分達の部屋に行って私服に着替え、アミは2階の自分の部屋で私服に着替える。
その後、三人は1階にある応接室兼会議室に集まって、お茶を飲んで寛ぎながら来客を待った。
15時になる少し前にヒッチ夫婦とイネスが家にやってきた。
応接室に案内する。
「ようこそ、皆さん」
「やあ、遊びにきたよ、ベック」
「たまには実家に顔をだしなさいよ、サリスちゃんと話せなくて寂しいわ」
「4日前に行ったじゃないですか、母様」
「毎日でもいいのよ」
そういうとみんなが笑う。
「父様とアキア兄様夫婦は、そろそろ戻るころじゃないですか?」
「ちょっと遅れてるみたいね、心配だわ」
「孫の顔を見せにいくというノアス義姉様の首都フラフルへの里帰りも兼ねてるし、もう少しかかるんじゃないかな」
「そうですね、ヒッチ兄様」
今回行商はアキアと結婚したノアスさんとその子供、俺の甥になるギャラアを一緒に連れて行った行商だった。
一昨年生まれて2歳となる今回、首都フラフルに里帰りしたというものだ。
俺達がそんな話をしている間、サリスとアミがヒッチと嫁のアミスとの間に最近うまれた娘のルルスをあやしていた。
「ルルスちゃん笑ったわ!可愛いーー!!」
「かわいいですー!!」
「おいおい、乱暴に扱うなよ、サリス、アミ」
「そんなことしてないから平気よ、ベックさん」
嫁のアミスがにっこり笑いながら大丈夫と伝えてきた。
「そういえばルキス義姉様も、そろそろですよね」
「うん、もうそろそろかな、生まれるのは」
ヒッチが嬉しそうに笑う。
「早く生まれてほしいわね、ヒッチ」
「ルキス義姉様も仕事をおやめになるんですか?」
実はアミスは冒険者ギルドで会計補佐をしていたのだが、娘のルルスが出来たことで退職していた。
今度ルキスにも子供が出来るとなるとルキスも退職するのかなと俺は思っていたのだ。
「収入が減るから、生まれてから少ししたらアミスに子供の面倒みてもらって、職場に復帰しようと思ってるのよ」
「なるほど」
「俺の稼ぎが良ければいいんだが、面目ない」
ヒッチが済まなそうな顔をする。
しかしイケメンのヒッチだから嫁達から許されちゃう。
イケメンずるい!
その時、俺の頭に名案が浮かんだ。
「ああ、もしルキス義姉様、アミス義姉様がよければの話ですが、ルキス義姉様、アミス義姉様、うちで働いてみませんか?」
「えっ?」
ヒッチが驚いた顔をする。
「実は近々、他の国に旅行に行こうかとも相談してるんですけど、その間の経理を頼める人を探しているんですよ」
「ああ、なるほど信頼のおける人でお金の管理が出来る人となると条件が難しいな」
ヒッチがうなづく。
「もちろん無理にではありませんし、給料もお支払いします」
「でもベックさんに頼るのも悪いわね…」
「そうよね…」
ルキス、アミスが申し訳なさそうな顔する。
「いえ義姉様なら非常に安心できます。俺達三人とも体を動かすのは得意ですけど数字や文書の仕事となると、ちょっとその…」
「たしかにそうよね、ベック…」
「はいです…」
サリスとアミも声が小さくなる。
話を聞いていたイネスが助けにはいる。
「お互いに助かるんだし良いと思うわよ、娘三人がここに一緒にいるってことは私も遊びに来やすいわ」
「そ、それは母様…」
ヒッチが腕をくんで考えてから、俺に話す。
「とりあえず、家族で相談してから返事をさせてくれ、ベック」
「はい、そうしてもらえるだけでも有難いです」
サリスがそこまで話が進んだところで話題を変える。
「では2階の食堂へどうぞ。夕食を用意してます」
「サリスちゃんの料理たのしみだわー」
イネスがはしゃぐ。
俺達は2階にある食堂にいくと、サリスとアミが料理を運んでテーブルに並べる。
「今日はキングクラブのブイヤベースとチーズとトマトをのせたクラムのソテーです」
「魚介尽くしなのね」
「美味しそう」
「また腕をあげたわね、サリスちゃん」
女性陣にサリスの料理は好評だった。
食事を美味しく食べながら、イネスが俺に例の話題をふる。
「それでベックは、いつ結婚するの?もう待ちきれないわよ」
「えっと、いろいろと忙しくて…すいません、母様」
「で、いつなの?」
今日のイネスは非常に容赦のない口調で俺を攻め立てる…
そろそろと思っているのだが、なんとなく色々いそがしくて伸びに伸びている。
「次の旅行に行く前には結婚しようと思ってます…」
「あら、そうなの。早くしてね」
イネスがニコニコ笑い、サリスが恥ずかしそうに俯く。
なんだこの状態…
俺の知らないところで、なにか話が進んでいるのではないかと疑ってしまう。
まあ、片付けなければいけない問題だから、逃げ回ることは出来ない。
夕食が終わり、イネスやヒッチ夫婦が家に帰っていく。
今日はなんだか疲れたと、書斎でぐったりとしているがイネスの言葉を思い出し少し思案する。
まずは14歳になったアミがEランク昇格試験を申請してEランクにあがったことへのお祝いをしないとなと考える。
良いプレゼントが思いつかない。
うーんと考えてると、ひとつ喜びそうなものを思い出した。
俺は2階で片付けをしているサリスとアミのところにいく。
「アミ、ちょっといいかな」
「なんです?」
俺はアイテムボックスから精霊石を取り出した。
「いぜん鍾乳洞で見つけた光る石だが、これをアミに預けようとおもう」
「えっ?」
その声を聞いて、サリスも俺とアミのところにきて覗き込む。
「これってあの時の石じゃない、ベック」
「Eランクにアミもなったし、これを持っていてもいいだろうと思ってね。元々三人で見つけたものだし問題ないだろう?」
「そうね、アミが一番適任じゃないかしら」
「えっと…ありがとうです!」
そういってアミが嬉しそうに尻尾を振りながら精霊石を受け取る。
「大切に保管してくれ」
「はいです!」
俺は次にサリスにテーブルの椅子に座るように促す。
「あとサリス、結婚について相談したいんだが」
「あの、わたし部屋にいってるです」
アミが気を利かせて、その場を離れようとしたので引き止める。
「アミも聞いていてほしい」
「えっと、はいです…」
俺はそういってサリスの方を向いて話す。
いつまでも引き伸ばすのはお互いに不幸なことである。
「今まで三人で暮らしてきて、ずっと友人として仲のよい間柄だったよね」
「うん」
「南部都市バセナに旅をしたときから、あまり変化してなかったというか、変化が怖くて同居を始めてもアミに気を使って俺達は一緒に寝ても清い関係を保ってきたよね」
「うん」
「でも、もう子供ではいられないと思うんだ」
「「…」」
二人が黙る。
「今日母様に背中を押されたけど、俺とサリスは交際してるんだし、もう成人にもなった。きちんと結婚して周囲を安心させる責任があると思う」
「そうね」
「ただし、それによってアミとの関係が変になるのはサリスが望んでいることではないこともわかる」
「うん」
「だからアミの考えを、きちんと俺とサリスは聞く必要があると思うんだ。いつまでも気を使っている歪んだ関係をここで修復したいと思ってる。どうだろうか、アミ」
アミが真剣な顔をする。
サリスの顔をアミがじっと見てから、口をひらく。
「サリスには幸せになって欲しいです…。これはずっと前から変わってないです」
「うん」
「えっと、アミありがとね」
「わたしも最近思ってたです、わたしがいるから二人が結婚しないのかなって…」
「「…」」
俺とサリスは無言でお互いの顔を見る。
それからアミに対して口をひらく。
「邪魔じゃないんだよ、本当に怖かったんだ」
「わたしもそうね、いつまでも仲良くしていたかったんだと思うわ」
「臆病だったんじゃないかな、三人とも」
「そうかもです」
「そうね」
お互いの気持ちを吐露していく。
いつかは乗り越えないといけない問題であった。
「アミ、俺とサリスは結婚するよ。祝福してくれ」
「はいです…」
「ごめんね、アミ」
「そんなことないです、嬉しいことです」
俺とサリスとアミ、三人とも目に涙を溜める。
「ベックとサリスの子供の面倒はわたしがみるです」
「まだ作らないから、先になるわよ」
「でも私がみるです」
「じゃあ、アミの子供が出来たら、私が面倒みないとね」
「お願いするです、サリス」
二人が目を赤くしながら笑う。
俺はこれでよかったんだよなと言いきかせるように心の中でつぶやいた。
転生前から数えると57歳になるが精神的には、この世界で生を受けてからの影響を大きく受けてるのかもしれないなと感じた。
(子供みたいに人間関係で臆病になってたってことは、気持ちが年相応に若返ってるのかな…)
そんなことを思いながら二人を眺める俺がいる。
2015/04/24 誤字修正




